勘と経験と読経

略すとKKD。ソフトウェア開発やITプロジェクトマネジメントに関するあれこれ。

HBRの「Strategies for Learning from Failure」を読んだ

恐れのない組織――「心理的安全性」が学習・イノベーション・成長をもたらす」で紹介されていたHBRの「Strategies for Learning from Failure」だが、オライリーのサブスクでアクセス可能だったので読んでみたという話。

失敗のリフレーミングは、失敗のタイプによる基本的な分類を理解することから始まる。詳細は私の他書に委ねるが、失敗の典型は、回避可能な失敗(絶対に、よい知らせではない)、複雑な失敗(やはり、よい知らせではない)、そして賢い失敗(楽しくはないが、高い価値をもたらすので、よい知らせと考えられるべき失敗)である。
恐れのない組織――「心理的安全性」が学習・イノベーション・成長をもたらす、第7章 実現させる

恐れのない組織――「心理的安全性」が学習・イノベーション・成長をもたらす まだ読み終わってない

論文「Strategies for Learning from Failure」 の全体像

Strategies for Learning from Failure の抜き書きメモ

The Blame Game

まず著者は、失敗と過失には境界が無いことを示す。失敗の理由のスペクトルを例示し、どこからが非難すべきものかは明確にすることはできないという。これをリーダーは理解し、その上で失敗/過失は3つのカテゴリーに分類できることを理解しなければならない。それは以下の3つである。

  • 回避可能な失敗(防止できる日常的または予測可能な操作の失敗)
  • 複雑な失敗(複雑な操作をしている人には避けがたいが、大惨事を起こさないように管理することが可能)
  • 賢い失敗(知識を生み出すための研究環境での望ましい結果)

その上で、The Blame Gameを回避し、失敗から学ぶ必要がある。

カテゴリー別の失敗への対応

回避可能な失敗
複雑な失敗
  • 発生するイベントの徹底的分析
  • 安全とリスク管理のベストプラクティスへの適用
  • 内包される小さなプロセス障害(避けられない)を悪いとみなすことは逆効果である
賢い失敗
  • 適切な規模で実験する

学習文化の構築

ここは、いわゆる心理的安全性の話なので、「恐れのない組織――「心理的安全性」が学習・イノベーション・成長をもたらす」を読んでいるなら飛ばしてもよかろう

失敗の検出

失敗を隠さず報告してもらうにはどうすればよいか。これも「恐れのない組織――「心理的安全性」が学習・イノベーション・成長をもたらす」を読んでいるなら飛ばしてもよかろう

失敗の分析

心理的な抵抗を乗り越えて向き合うためにはどうすればいいか。これも「恐れのない組織――「心理的安全性」が学習・イノベーション・成長をもたらす」のほうが詳しい。

実験の推進

体系的な実験を通じて、適切な場所で適切なタイミングで失敗を戦略的に生み出すにはどうすればいいか。「成功する失敗の設計」をどうやるか

ビッグテックのエンジニアリングカルチャーについて書かれた本

わりとビッグテック(GoogleとかAppleとか)のエンジニアリングカルチャーには興味があって色々と本を読んだり探したりしているのだけれども、いろいろ取っ散らかって来たのでいったんまとめてみる記事です。どうでもいいけどFacebookがMetaになったせいで、便利な略称が崩壊しているのはちょっと面倒ですね。GAFA(GAMA?)とかFAANG(MANGA?)とか。

Googleのエンジニアリングカルチャー

Googleのソフトウェアエンジニアリング ―持続可能なプログラミングを支える技術、文化、プロセス
最新のものとしては「Googleのソフトウェアエンジニアリング ―持続可能なプログラミングを支える技術、文化、プロセス」が一番まとまっている。原著は2020年、邦訳は2021年に出た本。
自分は原著をざっくり読んでいる。

どんな内容が書かれているかは、オライリージャパンのサイトにある目次を見ると良い。

Google内部で利用しているソフトウェアについては「SRE サイトリライアビリティエンジニアリング ―Googleの信頼性を支えるエンジニアリングチーム」(原著2016、邦訳2017)でいろいろと紹介されている。原著は英語で読める。

古いけれども、Googleにおけるテストエンジニアリングについて書かれた「テストから見えてくるグーグルのソフトウェア開発」(原著2012、邦訳2013)も面白い。ただし本書で書かれていることはすでに実践されていないという事も本書には書かれてたと記憶している。
エンジニアリング部分にはあまり触れていないけど、人材管理については「ワーク・ルールズ!―君の生き方とリーダーシップを変える」(原著2015、邦訳2015)ですこし紹介されている(360度評価のシステムなど)。

他にもいろいろあるけれども代表的なものはこんなところだろうか。
記事執筆時点では自分は未読だけれども「Building Secure and Reliable Systems: Best Practices for Designing, Implementing, and Maintaining Systems」には最新情報が書かれているかもしれないと思っている。そのうち読みたい。

Appleのエンジニアリングカルチャー

Creative Selection Apple 創造を生む力
スティーブ・ジョブズの伝記類はいっぱい出ているけれども、エンジニアリング関連の情報はあまり公開されていない印象のAppleだが「Creative Selection Apple 創造を生む力」(原著2018、邦訳2019)はけっこう踏み込んだ内容が書かれて面白かった。最初のSafariiPhone開発に関与した人が書いた本である。

他にもあるかもしれないけど、現時点では発掘できていない。

Meta(旧Facebook)のエンジニアリングカルチャー

Move Fast: How Facebook Builds Software (English Edition)
断片的にネットで紹介されることはあっても、まとまった情報の出てこないFacebookであるが、「Move Fast: How Facebook Builds Software (English Edition)」(原著2021、未訳)で社員へのインタビューのまとめとして書籍化されている。この本はモバイルシフト直前から、モバイルアプリにシフトした時期のFacebookについて語られているもので興味深い。
ちなみに同書の目次はこんな感じ。

  • Part 1: Product
    • 1. Pivot
    • 2. Portfolio Management
    • 3. Threats
    • 4. Experiment and Iterate
  • Part 2: Culture
    • 5. Something Happens
    • 6. Individuals
    • 7. Bootcamp
    • 8. Social Cohesion
    • 9. Code Wins Arguments
  • Part 3: Technology
    • 10. Cross-Platform
    • 11. Release Engineering
    • 12. Networking
    • 13. Rethinking Best Practices
    • 14. Frontend
    • 15. Facebook Moore’s Law

書籍を購入せずとも、著者のオーディオブック版が公開されているようだ(私はKindle版で読んだ)

Amazonのエンジニアリングカルチャー

さて、それではAmazonはどうだろう。私の知る限り(ベソスの伝記などを除外すると)あまり見当たらないように見える。

Amazonのエンジニアリングカルチャーが垣間見えるネット文書としてはスティーブ・イエギの「プラットフォームぶっちゃけ話」というものが有名である。こちらについては以下で紹介した。

他にはなにかあるのかなぁ。

Netflixのエンジニアリングカルチャー

お次はNetflixなんだけれども、こちらも残念ながら私の知る限りエンジニアリングカルチャーについて書かれた本などはないように見える。
カルチャーに限って言えば「NO RULES(ノー・ルールズ) 世界一「自由」な会社、NETFLIX (日本経済新聞出版)」(原著2020、邦訳2020)という本が有名なんだけれども、あんまりエンジニアリングって感じはないんだよなぁ。
NO RULES(ノー・ルールズ) 世界一「自由」な会社、NETFLIX (日本経済新聞出版)

Microsoftのエンジニアリングカルチャー

最後はMicrosoft。古代のMicrosoftのエンジニアリングカルチャーといえば「闘うプログラマー[新装版] ビル・ゲイツの野望を担った男達」(原著1994?、邦訳1994)という泣く子も黙る名著があるのだけれども、いかんせん古い。同書はWindows NT開発に関する文書である。
闘うプログラマー[新装版] ビル・ゲイツの野望を担った男達

その後のMicrosoft内部の開発の情報はネットに散らばっていて、書籍という形ではまとめられていないような気がする(見落としているかもしれないけれど)

Hit Refresh(ヒット リフレッシュ) マイクロソフト再興とテクノロジーの未来」(原著2017、邦訳2017)はたいへんに面白い本なのだけれども、これもカルチャーについては語られていてもエンジニアリングに関する言及は薄かったような気がする。
Hit Refresh(ヒット リフレッシュ) マイクロソフト再興とテクノロジーの未来


マイクロソフト 再始動する最強企業」(和書2018)は未読なんだけれども、ちょっと違いそうだなぁ。

というわけで雑に整理してみたけれども、AmazonNetflixMicrosoftについてのエンジニアリングカルチャーについて書かれた本というのは見つからなかったということになる。それぞれ特色もあって、読んだら面白いと思うんだけれどもなぁ。もし何か良い本などをご存知だったら、教えてもらいたいものである。
Googleは立派というか、やはり余裕があるのだろうか。それともアウトプットする文化なのかもしれないが、いろいろまとまっていて素晴らしい。

「リーン・エンタープライズ」後半も読んだ #デッドライン読書会

読むのがホネな(積みがちな)技術書やビジネス書を取り上げて2週間の読書期限を課して読んでアウトプットする仮想読書会「デッドライン読書会」の第35回。今回取り上げるのは前回に引き続き「リーンエンタープライズ ―イノベーションを実現する創発的な組織づくり (THE LEAN SERIES)」である。前回7章までを読んだので、今回は8章から最後までを読んだ感想やふりかえりなどを書いている。

なお本書は米O'reillyのサブスクに訳書が含まれているので、会員であればすぐに読むことができる。

「リーン・エンタープライズ」全体に関する感想

ひとことで言うと、非常に勉強になったし、刺激を受けた。

  • 現在主流のアジャイル手法「スクラム」とは別の視点として「リーン/TPS」で物事を見ることが出来るという意味で非常に有意義
  • 中大規模企業の変革手法に関する言及が興味深い。例えば以下の章はいろいろとヒントを得ることが出来た
    • ガバナンス、リスク、コンプライアンスの観点に関する考察(12章)
    • 財務管理、予算策定に関する考察(13章)
    • 競争優位性に関する考察(14章)などなど

というわけで個人的にはとってもお得だった一冊。ただし、あまり若い方にはオススメできないかもしれない。マネージャー的役割が大きい方のほうが学びは深そう。

特に興味深いと感じた箇所の紹介

以下、自分が興味を持った箇所と調べたことについてのメモである。各章何かしら発見があるのが楽しい。

第Ⅲ部 活用

8章 リーンエンジニアリングプラクティスを導入する

トランクベース開発=TPSにおける「自働化」という指摘はちょっと新鮮だった。

9章 製品開発に実験的手法を使う

インパクマッピングをベースに仮説検証を繰り返すという説明である。インパクマッピングの本は以前に読んでいたので、腹落ち感はある。
以前に読んだ自分のメモはこちら

10章 ミッションコマンドを実行する

わかっているけど実際には実現できないミッションコマンドの話である。とはいえ、うまくいっている企業の戦略は参考になる。

本当に分散化した組織は、補完性原則に従います。つまり、基本的に決定というものは、その決定によって直接影響を受ける人たちが下すべきなのです。官僚組織の上位レベルは、下位レベルでは効果的に行えないタスクのみを実行すべきです。つまり、上位レベルは下位レベルを「補完」すべきということです
リーンエンタープライズ ―イノベーションを実現する創発的な組織づくり (THE LEAN SERIES)

第Ⅳ部 変革

11章 イノベーション文化を育てる

というのは冗談としても、以下の示唆はとても重要だと思う

文化には実体がありませんが、計測することは可能です。文化の計測に関する研究は数多く存在します。あらゆる方法論はなんらかのモデルにもとづいており、モデルにはすべて制限があります。それでもなお、こうした計測は重要です。なぜなら、文化を目に見える形にして、そこに注意を向けることができるからです。
リーンエンタープライズ ―イノベーションを実現する創発的な組織づくり (THE LEAN SERIES)

12章 GRCにリーン思考を取り入れる

GRCはガバナンス、リスク、コンプライアンスの略である。特に中大規模企業にてリーンやアジャイルの概念を取り込んだ時に悩ましい要素だが、わりとバッサリと論じていて軽快。

  • 「コマンド&コントロール」のパラダイムで作成・実行される企業内のGRCマネジメントプロセスと、リーン/アジャイルの活動は相容れない
  • GRCプロセスを価値ベースに変えるほうが適切

ごもっとも……ITIL v4もその方向性なんだよなぁ……

13章 財務管理を進化させて製品イノベーションを促進する

とりあえず以下を読むべきということがわかった(こんなのばっかり)

14章 ITを競争優位にする

なぜ多くの企業はITを競争優位性に出来ないのか、という問題意識に関する章であり、それぞれのトピックがだいぶ興味深い。

15章 今いる場所から始めよう

終章。ちなみに一つの事例としてGDSが紹介されているが、現時点では状況が変わっているという話を別の本で読んだので、紹介しておこう。
www.iais.or.jp

一方で近年は、それまでの成功とは裏腹に、行政サービスのデジタル化推進の動きには陰りが見え始めており、国連が発表する電子政府ランキングでも、イギリスは長らくトップを占めてきたが、"#"#年%月のランキングでは順位を7位にまで落とし、GDS創設を支えたキーパーソンも次々と運営から離脱している。
ハンドブック「GDX:行政府における理念と実践」 より

なかなかに難しい。

最後にちょっとひっかかるような点もあったけれども、良い学びの書であった。紹介された本のうち、特にビジネス系は押さえておきたい。

2021年下半期に読んだ本まとめ

2021年7月~12月に読んだ本のまとめ。カウント対象は期間中に読み終わったものに限り、読みかけの本は対象外としている。あとコミック、漫画雑誌類もけっこう読んでいるのだけれども、これは除外。
この6カ月は51冊の本を読んだらしい。比較的、平常なペース(?)である。読んだ本の中で良かったものをピックアップしてみる。

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読んだ本は雑に写真を撮って記録している

文芸書のおすすめ(一般編)

invert 城塚翡翠倒叙集
前作「medium 霊媒探偵城塚翡翠 (講談社文庫)」を読んでいるという前提が必要だが、素晴らしいの一言。国内ミステリ各賞をさらった前作が未読ならまず前作を読んでのけぞり、そして、まさかの続編(?)である本作も楽しむことができる。ちなみにこの本、セールになったら買おうと寝かせておいたのだけれども、うっかり娘が前作を読んでしまい、急かされて買って読んだのだ。娘にも感謝。

文芸書のおすすめ(趣味のSF編)

宇宙【そら】へ 上 (ハヤカワ文庫SF) 宇宙【そら】へ 下 (ハヤカワ文庫SF)
昨年2020年に発売された小説である。ちなみに続編も発売されているがこちらは未読。歴史改変モノの宇宙開発小説である。もちろん小説としても大変面白いのだが、ソフトウェアエンジニアとしても非常に興味深いものになっている。なぜならコンピュータの祖先的な話も関係してくるからだ。
このあたりは、以下の記事でちょっと触れたのだけれども、極めて興味深い。

次点は「人工知能で10億ゲットする完全犯罪マニュアル (ハヤカワ文庫JA)」で、こちらはビッグデータやAIといった話題がうまく活用されたエンターテイメント作品である。こちらもオススメ。

教養書のおすすめ

暇と退屈の倫理学(新潮文庫)
この本はいろいろなところでよく紹介されていて以前から読みたいと思っていたのだが、自分にとっては最大のネックがあって、それは「電子書籍化されていない」ことだったのだ。だがしかし、なんとこの12月についに電子化されたようだ。残念ながら私は物理書籍版で読んでしまった。一言で言うと「暇と退屈」について、とことん考える哲学書である。その量実に400ページ以上。しかし得るものは多い。

この本は2021年の少し遅めの夏休み、ゆるくではあるがデジタルデトックスしながら読んだのだ。とても良い時間の使い方をした、と思っている。

ビジネス書のおすすめ

未来を実装する――テクノロジーで社会を変革する4つの原則
いろいろ読んだけど、心に残った一冊といえばこちら。しばらく本書に立ち戻ることは多そうな気がする。
なお偶然であったが、本書の前に読んでいたビジネス書が「ブリッツスケーリング」だったのだけど、本書を開いたらいきなり冒頭で否定されてて笑ってしまった。わかるー。

そのころはある程度の事業の方向性さえ合っていれば、あとは「リーン・スタートアップ(1)」のようなシリコンバレー流の迅速な仮説検証や繰り返しの方法論を適用して、スピード勝負で開発を繰り返せば、いつか「当たりくじ」を引くことができる、という希少な時代だったといえます。そしてシリコンバレー流の急速な拡大をする「ブリッツスケーリング(2)」のような方法論を適用することで、一気に世界へと拡大することもできました。
しかしこれからの10年は、スタートアップにとってまた少し異なる様相を示すと思っています。
未来を実装する――テクノロジーで社会を変革する4つの原則

技術書のおすすめ

うかる! 情報処理安全確保支援士 午後問題集
この半年は割とセキュリティ方面の勉強に力を入れていたのだけれども、参考書のような本書が実は濃度が濃くて非常に面白かった(そして役にも立った)。
本書は一見すると学習参考書のような形になっているが、知識が高圧縮されているので読んでいて非常に楽しい玄人向けの本である。そして情報処理安全確保支援士という資格試験そのものが、実際のセキュリティインシデント事例をディープに扱うということから、本書で扱う内容はかなり実践的な内容になっているように思える(時々差しはさまれるセキュリティコラムもまた楽しい)

ちなみに次点は洋書だが「Move Fast: How Facebook Builds Software (English Edition)」も良かった。Facebook(現Meta)のモバイルシフトを中心としたエンジニアリングに関する本である。昨年原著を読んだ論文集「Googleのソフトウェアエンジニアリング ―持続可能なプログラミングを支える技術、文化、プロセス」ほどディープではないが、Facebookのエンジニアリングおよび周辺プロセスがどのようになっているかが垣間見えるのが興味深い。ちなみに最近Kindleバイスやアプリの翻訳機能が高度化してきたので、今までにもまして洋書がラクに読めるようになっているのも発見だった。おすすめ。

この半期の振り返り

年末に公立図書館でけっこうな本を借りてしまって、もともと読んでいた本をあわせて、この記事を書いている時点で6冊併読中である。それぞれ面白い本なので、結果としてどれも持ち越しになってしまった。年始の休みでもう少し読み進めることができれば良いのだが。
読書の半分以上は電子書籍として読んでいるのだけれども、そういえば8年前に購入し、ずっと使っていたKindle PaperWhiteをこの秋に新調した。旧機種は8年経っても現役で、とくに不具合もなかったのだが、新しいKindle PaperWhiteの評判がすこぶる良いのと、老眼の影響で画面サイズが大きくなるという魅力に抗えなかったのだ。

これは大正解で、読書の快適性が非常に増えた。6インチから6.8インチの画面サイズ拡大も老眼には大きい。
また、アップデートが停止された旧機種には提供されていない様々な機能(特に文章の翻訳機能)が利用できるのが素晴らしい。洋書読みが捗る。
どうせまた5年以上は利用するのだ。と自分に言い訳をしながら、今日もページを捲るのである。

2021年下半期に読んだ本

  1. 平成美術ーうたかたと瓦礫(デブリ) 1989–2019
  2. アジャイルなチームをつくる ふりかえりガイドブック 始め方・ふりかえりの型・手法・マインドセット →(★紹介記事)
  3. 人工知能で10億ゲットする完全犯罪マニュアル (ハヤカワ文庫JA)
  4. 図解 人材マネジメント入門 人事の基礎をゼロからおさえておきたい人のための「理論と実践」100のツボ
  5. 天冥の標Ⅵ 宿怨 PART3
  6. Move Fast: How Facebook Builds Software (English Edition)
  7. ことばの危機 大学入試改革・教育政策を問う (集英社新書)
  8. さよなら、俺たち
  9. 民主主義のつくり方 (筑摩選書)
  10. 戦略の世界史(下) 戦争・政治・ビジネス (日経ビジネス人文庫)
  11. ミッション・スクール (中公新書)
  12. 昆虫学者の目のツケドコロ: 身近な虫を深く楽しむ
  13. ポストコロナのSF (ハヤカワ文庫 JA ニ 3-6)
  14. 空海に学ぶ仏教入門 (ちくま新書)
  15. ビジネスの未来――エコノミーにヒューマニティを取り戻す
  16. 暇と退屈の倫理学 増補新版 (homo Viator)
  17. 2030年:すべてが「加速」する世界に備えよ (NewsPicksパブリッシング)
  18. きらめく共和国
  19. Joy at Work 片づけでときめく働き方を手に入れる
  20. ゼロトラストネットワーク ―境界防御の限界を超えるためのセキュアなシステム設計 → (★紹介記事)
  21. 組織戦略の考え方 ――企業経営の健全性のために (ちくま新書)
  22. 暇なんかないわ 大切なことを考えるのに忙しくて: ル=グウィンのエッセイ
  23. ニックス
  24. invert 城塚翡翠倒叙集
  25. 宇宙【そら】へ 上 (ハヤカワ文庫SF)
  26. 情報処理教科書 情報処理安全確保支援士 2021年版
  27. うかる! 情報処理安全確保支援士 午後問題集 →(★紹介記事)
  28. 宇宙【そら】へ 下 (ハヤカワ文庫SF)
  29. ゲンロン戦記 「知の観客」をつくる (中公新書ラクレ)
  30. 実践 CSIRTプレイブック ―セキュリティ監視とインシデント対応の基本計画 →(★紹介記事)
  31. 計算する生命
  32. ブリッツスケーリング
  33. SFの書き方 「ゲンロン 大森望 SF創作講座」全記録 (早川書房)
  34. プロセスエコノミー あなたの物語が価値になる (幻冬舎単行本)
  35. こうしてあなたたちは時間戦争に負ける (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)
  36. 天冥の標Ⅶ 新世界ハーブC
  37. 射手座の香る夏 -Sogen SF Short Story Prize Edition- 創元SF短編賞受賞作
  38. 未来を実装する――テクノロジーで社会を変革する4つの原則
  39. 天冥の標Ⅷ ジャイアント・アーク PART1
  40. 天冥の標Ⅷ ジャイアント・アーク PART2
  41. 組織デザイン (日経文庫)
  42. プロダクトマネジメントのすべて 事業戦略・IT開発・UXデザイン・マーケティングからチーム・組織運営まで→(★紹介記事)
  43. ソロモンの指環―動物行動学入門 (ハヤカワ文庫NF)
  44. インターネットは言葉をどう変えたか デジタル時代の〈言語〉地図
  45. 永遠の森 博物館惑星
  46. デトロイト美術館の奇跡(新潮文庫)
  47. ノックス・マシン 3/4 電子オリジナル版 (角川文庫)
  48. 現代経済学の直観的方法
  49. 天冥の標Ⅸ ヒトであるヒトとないヒトと PART1 (ハヤカワ文庫JA)
  50. Weの市民革命
  51. リーンエンタープライズ ―イノベーションを実現する創発的な組織づくり (THE LEAN SERIES)

いまさらスティーブ・イエギの「プラットフォームぶっちゃけ話」を読んだ

リーンエンタープライズ ―イノベーションを実現する創発的な組織づくり (THE LEAN SERIES)」を読んでいたら、2011年に話題となったらしいスティーブ・イエギの「プラットフォームぶっちゃけ話」が紹介されていたので探して読んだという話。原文はGoogle+とともに消えているみたいだが、増田に翻訳があって助かった。

リーンエンタープライズ」での紹介

リーンエンタープライズ ―イノベーションを実現する創発的な組織づくり (THE LEAN SERIES)
この話を知ったのは「リーンエンタープライズ」なのだけど、こんな感じで紹介されている。

10.1 成長に対するAmazonのアプローチ
2001年、Amazonはある課題を抱えていました。彼らがウェブサイトで動かしているObidosと呼ばれるシステムは、大きな一枚岩の「巨大な泥だんご」であり、スケール不可能な状態にありました。阻害要因はデータベースでした。CEOジェフ・ベゾスは、この課題を機会に変えました。Amazonを他の業者も活用できるプラットフォームにしたいと考えたのです。究極の目標は、顧客ニーズに合わせることでした。それを念頭に置いて、彼はサービス指向アーキテクチャを作るように指示したメモを技術スタッフに向けて送りました。スティーブ・イエギは、以下のように要約しています†3。
[†3] スティーブ・イエギの有名な「プラットフォームぶっちゃけ話」は、テクニカルリーダー必読です。
リーンエンタープライズ ―イノベーションを実現する創発的な組織づくり (THE LEAN SERIES)

テクニカルリーダー必読といわれると、読まざるをえない(テクニカルリーダーじゃないけど)
ちなみに「大きな泥だんご」はソフトウェアの有名なアンチパターンである。久しぶりにこの単語を見たような気がする。

そういえば「ジェフ・ベゾス 果てなき野望」でも言及されていた

ジェフ・ベゾス 果てなき野望

エンジニアリング部門は、古くてつぎはぎだらけとなったインフラストラクチャーの補修をやっきになって進めていた。もともとのフレームワークは1990年代にシェル・カファンが作ったオビドスというコードできれいにまとまったものだった。アマゾン幹部、ヴァーナー・ボーガスの言葉を借りれば、成長に合わせてそれを「ガムテープとCRC5-56で補修」してきたが、そういうやり方では対応しきれないほどアマゾンが大きくなってしまったのだ。(中略)
技術インフラストラクチャーについてはサービス指向アーキテクチャーと呼ばれるシンプルで柔軟性の高いものへの移行を決定。(中略)
こうしてアマゾンは、独立した部品が互いにつながる形に技術インフラストラクチャーを作り替える作業に入った。(中略)新しいコード(アマゾンの支流が分かれる部分の地名にちなんでグルパという名前が付けられた部分もあった)への移行は3年以上の長期にわたる大変な作業で、問題が起きたらすぐ対処できるようにポケットベルを持ち歩くなど、ネットワークエンジニアたちは大変な苦労をした。
その結果、優秀な技術者が何十人も辞め、その多くはグーグルへ移籍する事態になった。そのころグーグルへ移ったひとりがスティーブ・イエギである。彼はのちに、昔の勤め先についてソーシャルネットワークのグーグルプラスに長文を投稿。友人にのみ公開の予定だったらしいが、うっかりインターネットに公開して誰でも読めるようにしてしまった。
ジェフ・ベゾス 果てなき野望

うっかりすぎるw(が、身につまされる)

読んだ感想

  • 20年前に起こったことを10年前に書かれてた記事である、ということには改めて驚いてしまう
  • リーンエンタープライズ」ではこの事例を「ミッションコマンド」つまりミッションに基づく分散意思決定に移行する例として挙げているのだけれども、本文書を読むとその難しさがよくわかる。というかこの事例を参考にするのは正しいのかちょっと悩ましい
  • 全般的にはプラットフォームの話なのだけれども、ベソスが発したと言われている6つの命令には「プラットフォームを作る」という言葉は一切出てこない

今も現在進行中のDXとかトランスフォーメーション、2025年の崖、モノリシックなシステムの再構築などの文脈においては、もっと読まれても良い文章だとは思った。

参考

テックブログと会社人とインターネット人

最近「インターネットは言葉をどう変えたか デジタル時代の〈言語〉地図」を読んで考えたこと。「会社人」と「準インターネット人」。最近会社のテックブログを始めた話。

インターネットは言葉をどう変えたか デジタル時代の〈言語〉地図

「インターネットは言葉をどう変えたか」という本のこと

この本に興味を持ったきっかけは以下のPodcastである。

『インターネットは言葉をどう変えたか デジタル時代の〈言語〉地図』グレッチェン・マカロック|音読ブラックスワン#65 by blkswn radio

興味があれば上記を視聴していただくか、以下のページなどを参照していただくのがいいだろう。

本書は割と堅めの内容で、気軽に読むタイプの本ではないのだけれども、非常に知的な刺激が得られる良い本だと思っている。

インターネットやモバイル機器が普及したおかげで、ふつうの人々がものを書く機会は爆発的に広まった。書くという行為は、わたしたちの日常生活に欠かせない会話の一部になったのだ。
インターネットは言葉をどう変えたか デジタル時代の〈言語〉地図 第1章 カジュアルな書き言葉、より)

正インターネット人と準インターネット人

この書籍「インターネットは言葉をどう変えたか」で特に興味深いと感じたのが「第3章 インターネット人」である。ここではインターネット国へのデジタル移民を旧インターネット人(Old Internet People)、正インターネット人(Full Internet People)、準インターネット人(Semi Internet People)、後インターネット人(Post Internet People)、前インターネット人(Pre Internet People)、非インターネット人(Non Internet People)、と区分して論じている。その全てについては書籍を参照していただくのが良いが、ここでは準インターネット人と正インターネット人について少し紹介する。

  • 正インターネット人(Full Internet People)
  • 準インターネット人(Semi Internet People)
    • 正インターネット人と同じタイミングで「仕事上の必要に迫られてオンラインの世界にやってきた」人々。その後少しずつオンラインでニュースを読んだり、情報を検索したり、買い物をしたり、旅行の計画を立てたりしていく
    • 正インターネット人特有の文化的特徴はまったくといっていいほど受け継いでいない。インターネットを社会生活の場と捉えていない

本書の説明を読んで、フト気づいたことがある。
会社組織にいる多くの人は「準インターネット人」なのだ。

会社組織にいる多くの人は「準インターネット人」

先日Twitterでもこんなことを言った。

それぞれの会社やチームの文化に依存するとは思うのだけれども、一般的な企業にいる多くの人は前述の「準インターネット人」であるというのは、良い補助線が引ける発想だと考えている。
常々、私は以下のような不満を持っていたのだけれども、その理由は他の皆が「準インターネット人」だからなのである。

  • テキストでのやり取りが下手
  • 非同期コミュニケーションが下手
  • フォーマットの決まっていない非定型文書(レポートとかコラム)での情報共有が苦手
  • 不特定多数への情報発信を嫌う
  • テキストよりプレゼンテーション
  • テキストより発話

なんでできないんだよ!と思っていたのだが、「準インターネット人」という特性によるものだったのである(なお「準インターネット人」が悪いとか下等という意図はまったくない点に注意。上でも下でもなく、特徴の話である)。

「準インターネット人」をトランスフォームすることは出来るのか

別に所属組織に明確な方針があるわけではないのだけれども、個人的には「準インターネット人」をトランスフォームというかアップグレードしたほうが良いと考えている。ソフトウェア開発の現場は急速にオンライン化が進み、対面コミュニケーションの機会は大きく減った(もちろんWeb会議などはいっぱいあるけど)。その中で、インターネット的なコミュニケーションが上手になったほうが良いに決まっていると思うのだ。

今回、所属企業ではテックブログをやっと始めることができたわけだが、これをきっかけに多様なメンバーが不特定多数に情報発信できるようになりそうなのはとても良いことだと思っている。自社であっても相応の人数がいると知らん人もいるわけで、そういった人の興味や活動や得意技が共有されるのを読むのは普通に面白いし、発見もある。

そういう意味では、 「準インターネット人」のトランスフォームの手段の一つとして技術ブログは良さそうという事がわかったわけだけれども、他にはどんな手があるだろうか。このあたりについてはもうすこし考えてみたいと思っている。何かいいアイデアないですかね。

「リーン・エンタープライズ」まず前半を読んだ #デッドライン読書会

読むのがホネな(積みがちな)技術書やビジネス書を取り上げて2週間の読書期限を課して読んでアウトプットする仮想読書会「デッドライン読書会」の第34回。今回取り上げるのは「リーンエンタープライズ ―イノベーションを実現する創発的な組織づくり (THE LEAN SERIES)」である。長いので前半(1章~7章)、後半(8章~15章)に分けて読むことにしている。というわけで今回まず7章まで読んだ感想である。

なお本書は米O'reillyのサブスクに訳書が含まれているので、会員であればすぐに読むことができる。

「リーン」に対する苦手意識

実はリーン開発についてはもともと苦手意識があった。一応「リーン・スタートアップ ムダのない起業プロセスでイノベーションを生みだす」は読んでいるけど、原典である「リーン開発の本質」を読んでいない(読みたかったが入手しそびれてしまった)。現代では多くのプラクティスや方法論がリーンをカバーしているので各種の書籍で触れられる事はあるけれども、あくまでおまけの章として読み流していた。

加えて、ソフトウェア開発のマネジメント方法論としてのリーンは、スクラム等の開発方法論より上位にあるもの、というイメージもあった。
実際「今すぐ実践! カンバンによるアジャイルプロジェクトマネジメント」ではカンバンの枠を超えた改善の方法として紹介されている。身の回りではスクラムとかでひーひー言っている状態なので、まだ早いかなぁと思っていたのである(言い訳)。

と、完全に腰が引けている状態だったのだが、たまたま出会った以下のスライドで俄然興味が出てきた。

リーンスタートアップエンタープライズ で活⽤しよう、というだけでなく、組織への導⼊、⽂化、脱予算の話、カンバンと流れの管理から DevOps、継続的デリバリ、 バリューストリームマッピング、実験を安全に失敗させる⼿法まで広くカバーしてて、 とりあえずこれ読めばいいんじゃないか、 という本。定期的に⾒直したい⼀冊です。

ちょうど組織、文化、予算などについてモヤモヤと考えていたタイミングだったのだ(そういうお年頃なのだ)。

で、「リーン・エンタープライズ」前半を読んだ感想

まだ7章までしか読んでいないのだけれども、現時点の総論としては

本書を選んだのは正解だったと思っている。

特に興味深いと感じた箇所の紹介

以下、自分が興味を持った箇所と調べたことについてのメモである。各章何かしら発見があるのが楽しい。

第Ⅰ部 指向

1章イントロダクション

大好きなモルトケの話が紹介されているだけでアガる。

ナポレオンに敗れたプロイセン軍の再建には、カール・フォン・クラウゼヴィッツ、ダーヴィト・シャルンホルスト、ヘルムート・フォン・モルトケの3名が重要な役割を果たしました。彼らの貢献は軍事の基本原則を一変させただけでなく、大きな組織を率いて管理する人たちにとって、重要な意味を持っています。なかでもこれから説明する「訓令戦術(Auftragstaktik)」または「ミッションコマンド(Mission Command)」の考え方に反映されています。ミッションコマンドとは、機略戦を大規模に行えるようにするものです。そしてこれは、大企業がスタートアップと対等に競争する方法を理解するために重要となるものです。
リーンエンタープライズ 1.2 コマンド&コントロールに代わるミッションコマンド、より引用》

なお「訓令戦術」については「The Art of Action: How Leaders Close the Gaps between Plans, Actions and Results (English Edition)」という本が詳しいらしいが訳書が無いのであった。でも、かなり興味がある!

2章 企業ポートフォリオダイナミクスを管理する

この本を読むべきということがわかった。積読増えた。キャズムで満足していてはダメだった。

第Ⅱ部 探索

3章 投資リスクをモデル化して計測する

探索的活動の評価に関する話で、とても参考になる。そしてモデル化した後にOODAループで管理するという発想。

4章 不確実性を探索して機会を見つける

紹介されている「課題ステートメントキャンバス」という手法が興味深いのだけれども、世の中にはあまり情報が無いようだ。原著でみると「The Problem Statement Canvas」のようだ・・・あとでもう少し調べてみたい。

5章 製品/市場フィットを評価する

このあたりは最近読んだプロダクトマネジメント関連の本とも重なる部分ではある。

私たちはデータオーバーロード(情報洪水)の世界に生きています。仮定を注意深く検証しなければ、たとえどのような主張であっても、それを裏付けるデータが見つかってしまうのです。理論を裏付ける情報を見つけることは簡単です。理論をテストして、正しい行動をとることが難しいのです。
リーンエンタープライズ 5.1 革新会計、より引用》

紹介されているこの記事をあとで読みたい。

第Ⅲ部 活用

6章 継続的改善をデプロイする

とりあえずこの本を読むべきということもわかった……

7章 価値を明らかにしてフローを増やす

紹介されているCD3などの概念が非常に興味深い。Blakswanfarmingの記事が紹介されているけれど、翻訳されているのを発見した。

以下は、Black Swan Farming Ltd. による「Cost of Delay」の翻訳です。許可を得て掲載します。

と、今回はここまでなのだけれども、本書はやたらと刺激的で面白い。年末までに残りも読む予定なのだけれども、とても楽しみだ。