勘と経験と読経

略すとKKD。ソフトウェア開発やITプロジェクトマネジメントに関するあれこれ。

翻訳するミドルマネジメントとして「冒険する組織のつくりかた」を読んだ

読むのがホネな技術書やビジネス書を取り上げて2週間の読書期限を課して読んでアウトプットする仮想読書会「デッドライン読書会」の第86回。同僚と読書期限を約束することによって積読が確実に減るという仕組み。過去記事はこちら

じつは今回紹介する本「冒険する組織のつくりかた──「軍事的世界観」を抜け出す5つの思考法」は積読ではない。昨年の上半期に読んで、内容が良かったので組織のマネージャー同士の読書会でも読んで、さらに同僚に紹介するために今回読んだ本の紹介である。昨年末にデッドライン読書会のメンバーで忘年会をした際にいろいろ議論して、本書を紹介したという次第。

「冒険する組織のつくりかた」の紹介

詳しくは出版社サイトを見るのが良いと思うが、ざっくりと紹介すると以下のような本である。

  • 著者は組織開発系のコンサル会社MIMIGURI代表の安斎さん。本書の前は「問いかけの作法」という本でも話題になっていた方である(こちらも良い本だったと記憶している)。
  • 従来の企業は「戦略」という言葉に代表されるように軍事的なものの見方で運用されている。
  • 一方で若者を中心に(様々な要因で)個人に対しては「人生中心のキャリア観」が(不可逆的に)定着しつつある。この「人生中心のキャリア観」と軍事的なものの見方は相性が悪く、それがモヤモヤ感や離職の引き金になっている。
  • 企業側の考え方も新たな考え方=「冒険的な世界観」にアップデートすべきなのでは?

ちなみにわたしが本書を知ったきっかけはPodcastのfukabori.fmのEP128である。もし興味があれば、まずこちらのエピソードを聴いてみると良いかもしれない。
fukabori.fm

翻訳するミドルマネジメント

記事タイトルにも入れたのだけれども、現代のミドルマネジメント(中間管理職)は組織の中でさまざまなメッセージの翻訳を求められていると考えている。なぜなら、ミドルマネジメント(中間管理職)は知識も情報量も異なる複数の階層の間に挟まれているからだ。

  • 経営層・上位マネジメント ⇔ 現場 (抽象度が異なる)
  • シニア社員 ⇔ 若手・ジュニア社員 (知識や経験、属する文化が異なる)

環境変化が激しい昨今、このギャップを埋めるための翻訳のような作業がとてつもなく困難であり、ストレスだ。というわけで困っていたところなのだが、本書はこの困りごとを軽減するためのヒントを与えてくれる。

軍事的世界観 & 冒険的世界観

本書のタイトルや宣伝文句を見ると、本書は(従来企業の)「軍事的世界観」はダメで、「冒険的世界観」が良いということが書かれているように見えるかもしれないが、実際にはもっと現実的に両方の良い点を活用していくことを推奨している。よって「軍事的世界観 VS. 冒険的世界観」ではないという点もポイントだ。

「はじめに」で予告したとおり、本書の目的は、軍事的世界観から冒険的世界観へと「組織のパラダイム」をシフトさせることにあります。ですがこれは、有益な軍事的ツールを"すべて放棄する”ということではありません。
(中略)
しかしここには、先人が築いた軍事的方法論を否定する意図はありません。むしろ、ビジネスにおける各種の戦略論は、冒険的世界観にとっても人類の欠かせない知的資産であり、リスペクトすべき対象であるのは変わらないのです。
冒険する組織のつくりかた──「軍事的世界観」を抜け出す5つの思考法、序論 より

この実践的な落としどころが、取り込みやすさにもつながっていると思う。

そもそも、企業は冒険的世界観にすでに向かっている

本書を読んであらためて感じるのは、本書を読むまでもなく企業はすでに冒険的世界観に向かいつつあるということでもある。MVVすなわちミッション・ビジョン・バリューを企業として策定することはあたりまえになってきたし、企業文化への注目も増している。また企業内でエンゲージメントサーベイを行うなどの取り組みも実施されている。

ただ、そういった新たな施策がイマイチ効果を上げていない、もしくは既存の組織経営と足並みが揃っていないというモヤモヤした違和感があるのではないだろうか。

本書では、Creative Cultivation Model(CCM)というモデル(モデル自体はMIMIGURIのサイトで参照できる)を横に置きながら解決するヒントなども示されていて、これは強い刺激になった。

というわけで本書は 上下の間でモヤモヤしながら闘うミドルマネジメントが読むと良い本だと思うのだ。おすすめだ。
(実際、あまりに良かったので 周囲のミドルマネージャーと読書会もやった)

というわけで、本書の感想はここまで。さて次は何を読もうかな。
なんとなく気になっているのは

だけど、このあたりから選んでもよいかも?
www.shoeisha.co.jp

多元的無知について

ちょうど読んでいる本で見かけた「多元的無知」という言葉について興味を持ったので、いろいろ調べたという話。ソフトウェア開発における多元的無知の現象について考えたこと。

調べるきっかけとなったのは以下の記述である。

個人レベルでは育休取得に肯定的な男性たちが、職場の周囲の人々の思いを誤って推測してしまうために、一人ひとりの思いとは裏腹な行動をみんなが選択してしまって、いつまでも育休取得という新しい選択ができないまま旧態依然とした状況が繰り返される側面もある。こうした現象は「多元的無知」あるいは「沈黙のらせん」とよばれる社会心理学的現象である。


産業・組織心理学 (放送大学教材 1631) 第15章、より

多元的無知とは

多元的無知(たげんてきむち、英: pluralistic ignorance)とは、特定の社会的集団の構成員に見られるバイアスの一種である。多元的無知は社会心理学において、集団の過半数が任意のある条件を否定しながらも、他者が受け入れることを想定しそれに沿った行動をしている状況を指す。言い換えれば「誰も信じていないが、誰もが『誰もが信じている』と信じている」と表現できる。
多元的無知 - Wikipedia

もっともわかりやすい例は「裸の王様」とされている。それはわかるが、実際の身の回りで起きていることが多元的無知に該当するかどうかをサッと判断するのは、なかなか難しそうな印象である。
冒頭であげた産業・組織心理学の例でいえば

  • (実際は)誰もが「育休休暇を否定的に考えてはいない」
  • (しかし、多元的無知によって)誰もが「育休休暇を否定的に考えている」と信じてしまう
  • だから、育児休暇は取らない

ということになる。

ソフトウェアアーキテクチャの基礎 で紹介されている例

ソフトウェア開発における多元的無知の事例が、ソフトウェアアーキテクチャの基礎 ―エンジニアリングに基づく体系的アプローチでも紹介されていた(第22章)。

  • チームでは、2つのリモートサービス間でメッセージングを使用することが最適なソリューションであるという合意がもともとあった
  • (実際は)誰もが「例外(サービス間にセキュアなファイアーウォールがある場合など)はある」と考えている
  • (しかし、多元的無知によって)自分が何かの見落としをしているか、馬鹿にされるのではないかと恐れて(サービス間にセキュアなファイアーウォールがあるにも関わらず)「メッセージングを使用すること」に同意をしてしまう

組織を変える5つの対話 で紹介されている例

組織を変える5つの対話 ―対話を通じてアジャイルな組織文化を創る のでも、多元的無知が紹介されている(4章)。

その場の誰かまたは全員が同じ不安を感じていても、一見他の人が気にしてなさそうに見えると、その不安を口に出すことは憚られてしまうのです。言い換えれば、そのグループの中で「煙が出ている」と最初に言うくらいなら、火事で死ぬ方がマシだということです。それくらい、多元的無知は強いのです。


組織を変える5つの対話 ―対話を通じてアジャイルな組織文化を創る 4.2 準備:逸脱の常態化、より

  • これまでも、冷え込んでいた日のスペースシャトル打ち上げは成功していた
  • (実際は)一定の気温以下では、ブースター部品(Oリング)に亀裂が入ることがわかっていた。よって、打ち上げは中止すべきだった
  • (しかし、多元的無知によって)過去の成功事例に基づき、(一部のメンバーの懸念は無視され)飛行は中止されなかった
  • 結果として、ブースターは爆発し、乗組員全員が死亡した

多元的無知は「見てみぬふり」ではない

似たような概念で「見てみぬふり」があるが、上記の例をみて考えると、多元的無知 とは違うことがわかる。

「見てみぬふり」は、明らかに問題には自分は気づいているが、それについて指摘することで自分に不利益があることがわかっているから、気づかなかったふりをすることだと思う。
一方で「多元的無知」では、いちど問題に気付いていたにもかかわらず、周囲との関係性で自己(自分の発見そのもの)を訂正してしまう(自分が間違っていると思い込む)。

多元的無知の解決

組織を変える5つの対話 ―対話を通じてアジャイルな組織文化を創るでは、不安に関する対話を通じて解決するという話が紹介されていて、まあそれはそうだろうなと思う。ただ、多元的無知のバイアスにとらわれている場合はそもそも「不安」を感じていない(自己訂正済)ということもあるので、対話だけで解決するのも難しそうだ。

まずは、何らかの判断を行うための根拠を明確に(できれば見える形で)するのが良さそう。このあたりについては、もう少しいろいろ考えてみたい。

ソフトウェア開発 vs. ソフトウェアエンジニアリング(どうでもいい話)

ソフトウェアエンジニアガイド」という本を読んでいるのだが、第三部で「ソフトウェア開発とソフトウェアエンジニアリング」を比較するという話が出てきた。なんだか、しっくりこないのでいろいろ調べたという、どうでもいい話である。

ソフトウェアエンジニアガイドにおける「ソフトウェア開発とソフトウェアエンジニアリング」

本書は副題が「世界基準エンジニアの成功戦略ロードマップ」となっているが、要は米国流のエンジニアキャリアパスを紹介する本のようである。その本を読んでいたら、第三部で以下のような記述があったのだ。

ソフトウェア開発とソフトウェアエンジニアリングはしばしば同じ意味の言葉として扱われるが、ここでの肩書の変更は意図的なものだ。私個人の考えでは、ソフトウェア開発は、ソフトウェアエンジニアリングの一部でしかない。また、ソフトウェアエンジニアリングは、ソフトウェア開発の場合よりも長い時間軸でソフトウェアプロダクトについて考えることを要する。


ソフトウェアエンジニアガイドブック ―世界基準エンジニアの成功戦略ロードマップ 第三部 多方面にわたり円熟したシニアエンジニア、より

そして、この考え方は「Googleのソフトウェアエンジニアリング ―持続可能なプログラミングを支える技術、文化、プロセス」で主張されているものと同じだという。あれ、そんな話あったっけ?

ソフトウェア開発=プログラミング

まあ予想通りだし、実際に ソフトウェアエンジニアガイドの前後を読んでもわかることなのだけれども、ソフトウェアエンジニアガイドにおける「ソフトウェア開発」は「プログラミング」のことである。Googleのソフトウェアエンジニアリングにおける該当箇所はこんな感じ。まあ、そうですよね。

Google社内でときに言われるのは、「ソフトウェアエンジニアリングとは時間で積分したプログラミングである」ということだ。プログラミングがソフトウェアエンジニアリングの著しく重要な部分であることは言を俟たない。つまるところ、プログラミングこそがまずもって新しいソフトウェアを生成する方法なのだから。このプログラミングとソフトウェアエンジニアリングの区別を受け入れる以上は、プログラミングのタスク(開発)とソフトウェアエンジニアリングのタスク(開発、修正、保守)の間に線引きを行わなければならないことも明白となる。時間を加えることで、プログラミングに新しい重要な次元が加わる。立方体は正方形ではなく、距離は速度ではない。ソフトウェアエンジニアリングはプログラミングではない。


Googleのソフトウェアエンジニアリング ―持続可能なプログラミングを支える技術、文化、プロセス 1章 ソフトウェアエンジニアリング とは何か、より

このプログラミングを「ソフトウェア開発」に読み替える必然性があるのかどうかは、よくわからない。なお一応原文もあたってみたけど、原文でもSOFTWARE DEVELOPMENTと評しているので翻訳の問題ではなさそうだ。

(おまけ)システムエンジニアはどうなる?

じゃあ、日本でよく見聞きするシステムエンジニア(SE)はどうなんだろう。
Googleのソフトウェアエンジニアリングでは「ソフトウェアエンジニアリングとは時間で積分したプログラミングである」という素晴らしい整理をしているのだけれども、そういう意味では
システムエンジニアプログラマの人数を積分して人月を計算する仕事である」
という言い換えは成立するのかもしれない(しない)。

2025年下半期に読んだ本まとめ、おすすめ本など

2025年7月~12月に読んだ本のまとめ。カウント対象は期間中に読み終わったものに限り、読みかけの本は対象外としている。あとコミック、漫画雑誌類もけっこう読んでいるのだけれども、これは除外。
この6カ月では74冊の本を読んだようだ。まあ平常運転だったという気分。

いつもどおり半期で読んだ本の中で良かったものをピックアップしてみる。

文芸書のおすすめ(一般編)

この下半期は一般文芸書をあまり読んでいないことに気づく。「ブレイクショットの軌跡」や「世界99」は読んでいるし面白かったが、これは他の人が紹介するだろう。というわけで他人がすすめなさそうな面白かった本を挙げておこう。それは、カポーティの「冷血」である。以前から読もうと思っていた本をやっと読んだのだが、いろいろ驚きだったのだ。

詳しくはWikipediaを見れば良いと思うのだが、まず小説として抜群に面白く読めてしまうのだ。しかし(別に隠されているわけでもない)「まぎれもない実話であり、取材をもとに著者が小説に再構成したものである」という点を踏まえると、極めて複雑な気持ちになってしまう。タイトルは「冷血」だが、さて、冷血なのは誰なのか。

なお本書は残念ながら電子書籍がない。有名かつ古い本であるので、場合によっては新古書店などで入手しても良いだろう。

文芸書のおすすめ(趣味のSF・ミステリ編)

いろいろ面白い本が多かったが、次の二作は特に面白かったのでおすすめしておく。

ジン(精霊)と魔法と科学の融合によって発展したエジプトで起こった事件を主人公が追うというストーリーなのだが、舞台も物語も登場人物もすべてが素晴らしい。

作品紹介で触れられているのでネタバレでもなんでもないのだけれども、滅亡寸前の人類が住む「世界の終わりの島」で起こった殺人事件を解明するという話である。ただし、殺人事件を時間内に解決しないと人類が滅亡するという、どうしてそうなったというストーリーが破綻なく語られ、そして素晴らしい物語になっている。

教養書のおすすめ

教養書ってなんだという気もするが、読むことによって世界の見え方が変わるような本をここでは教養書と言いたい。この点では次の本が良かった。

細かい感想は以下の記事に書いたのだけど、「ファスト&スロー」のような意思決定に関する本で、大変良かった。「優れた判断力プロジェクト」という研究の成果というものである。

関連記事

あとは月並みだけど

は素晴らしかった。実はハラリの本は「サピエンス全史」は良かったけれども「ホモ・デウス」はあんまりだったので敬遠していたのだが、本書は面白く読めた。興味深いのは上巻と下巻のテーマが大きく異なっていることで、それが読みやすさに繋がっていたのかもしれない。

ビジネス書のおすすめ

2011年の本。最近読んだエンジニアリングマネージャー向けの技術書(スタッフエンジニアの道プロダクトマネージャーのしごとエンジニアリング統括責任者の手引き)でことごとく絶賛されているので読んだ本だが、それだけの価値がある本だった。あまりに良かったので同格のマネージャーを集めて読書会を開催してしまうくらい良かった。良い戦略とは「漠然とした期待の表現ではなく」「具体的な課題を前にして行動を指し示す」ものであるということを悪い例も豊富に示しながら論じている本である。おすすめ。

関連記事

あとこちらも素晴らしかった。

日本で有名な消せるボールペンと同じタイトルなのでファインダビリティに問題があるのだけれども、文字通り「職場の不要な摩擦」すなわち非効率な申請手続きなどに対処する考え方の本である。本書の良いところは、そういった職場の摩擦を合理的に対処すべきということが語られていて、対処すべきではない(摩擦に意味がある)場合についても考えているところ。本書はもっと話題になって良いと思うのだけれども、どうなのだろう。皆さんの感想もぜひ聞いてみたい。

技術書のおすすめ

タイトルには疑義があって、実際のところは「筆者がエンジニアリング統括者(CTO)になって考えたこと、調べたこと」という本だと理解している。が、「エレガントパズル」「スタッフエンジニア」と(昇格するたびに)良い考察を文章化してきた筆者の整理は素晴らしく、ためになる。こちらの本もあまりに良かったので、同格のマネージャーを集めて読書会を開催した。

この半期の振り返り

今年は「新書」がマイブームで、ふりかえってみても新書をよく読んでいる。近刊だけでなく名著といわれている新書も手に取っているがこれは確実に評論家の三宅香帆さんの影響ではある。

  • 【祝・新書大賞】受賞しました!!!!!そして2025年の新書大賞ラインナップについて語りまくる【なぜ働いていると本が読めなくなるのか】 https://youtu.be/lTC1pNeeTKg
  • 【三宅香帆が語る】実は「新書」こそがもっとも最高の読書ジャンルである【新書レーベル】 https://youtu.be/NSTZdH_ctg4
  • 【入門】はじめて新書を読む人におすすめ!三宅香帆が新書好きになったきっかけの8冊【読書】 https://youtu.be/3QhoEcTJIkY

古い新書はKindleでもセールになりやすいし、有名な本はフラッと立ち寄った古書店でも入手できるので、つい買ってしまうのだ。そしてなにより単行本の(特に翻訳本の)ビジネス書より短くて読みやすい!というわけで今年中に読み切れなかったストックの新書もたくさんあって、しばらくは新書ブームが続く予定だ。

2025年下半期に読んだ本の全リスト

  1. 読書アンケート 2024――識者が選んだ、この一年の本 152人の識者コメントが楽しい。来年も必ず買う
  2. 精霊を統べる者 (創元海外SF叢書) ジンと魔法と科学が融合した近代エジプト世界が舞台の素晴らしいSFファンタジー長編。
  3. 翻訳者の全技術 (星海社 e-SHINSHO) 勝手に尊敬している翻訳者の山形さんの仕事論
  4. トゥモロー・アンド・トゥモロー・アンド・トゥモロー ゲーム作家が主人公の小説。ゲーム好きなら絶対読んだほうがいい。
  5. LLMのプロンプトエンジニアリング ―GitHub Copilotを生んだ開発者が教える生成AIアプリケーション開発 話題の技術書。良かった→★感想
  6. 「ふつうの暮らし」を美学する~家から考える「日常美学」入門~ (光文社新書) 日常美学の初の入門書。想像よりは難しかったが感性の哲学として面白かった。
  7. 紫色のクオリア (電撃文庫) ライトノベル史に燦然と輝く名作SFとのこと。予想外のところまで連れていかれた
  8. Science Fictions あなたが知らない科学の真実 科学界批判の本。知っている話も多かった
  9. 謎の香りはパン屋から 第23回このミス大賞受賞作。日常ミステリの趣。
  10. 「具体⇔抽象」トレーニング 思考力が飛躍的にアップする29問 (PHPビジネス新書) エンジニアがよく勧めている本。評判通り素晴らしい本。
  11. ダイアグラム思考 次世代型リーダーは図解でチームを動かす 普段図解をまったくしない人向けの本だったので、あまり学びはなかった
  12. ブレイクショットの軌跡 「同志少女〜」で有名な著者の最新作。緻密な作品で非常によかった。
  13. NHK 100分 de 名著 フッサール『ヨーロッパ諸学の危機と超越論的現象学』 2025年 7月 [雑誌] (NHKテキスト) わかりやすい! 現代にも通ずる危機書。
  14. ダイナミックリチーミング 第2版 ―5つのパターンによる効果的なチーム編成 チーム再編成(異動、ローテーション、分割etc)に関する本。
  15. キーエンス流 性弱説経営 参考になった。「仕事頑張れ」ではない考え方。
  16. 働きたくないイタチと言葉がわかるロボット 人工知能から考える「人と言葉」 AIに関する本。ChatGPT登場以前に書かれているということ(17年刊)に驚いた
  17. 現象学 (岩波新書) 70年の本。そのころから現象学ブームがあったという点に驚き。ただし難しい本でもあった
  18. 良い戦略、悪い戦略 (日本経済新聞出版) EM向けの様々な本で良書と紹介されている本だが、超有用な本だった。会社で読書会までやった。→★感想
  19. 教養主義の没落 変わりゆくエリート学生文化 (中公新書) ミュージシャンの米津さんが絶賛していて有名な本。難しいが大変に面白かった。
  20. 情報セキュリティの敗北史 ゆるコンピュータ科学ラジオで取り上げられていて興味を持った評判の本。懐かしい事件も載っていて面白かった。
  21. 八犬伝【上下合本版】 (角川文庫) 八犬伝の現代語訳で最近映画化もされた。素晴らしい仕組みがあって、面白く最後まで読んだ。
  22. 世界秩序が変わるとき 新自由主義からのゲームチェンジ (文春新書) 新自由主義の終焉およびその後どうなるのか、について論じられた本でなかなか興味深かった。
  23. GOAT 最近話題の文芸誌の1号。普段読まないような作家の作品に触れて良い刺激があった。
  24. ツインスター・サイクロン・ランナウェイ4 (ハヤカワ文庫JA) 天冥の標シリーズで有名な著者の近作シリーズ完結編。伏線もほとんど回収されており、カタルシスがあった。
  25. 文庫版 近畿地方のある場所について (角川文庫) 話題のホラー小説。面白かったけれども肩透かし感もある(感性が古いだけかも)。
  26. 世にもあいまいなことばの秘密 (ちくまプリマー新書) 日本語の曖昧さについて事例豊富に説明されている本。「この先生きのこる」問題も取り上げられていて親近感があった。
  27. 世界哲学史8 ──現代 グローバル時代の知 (ちくま新書) 千葉雅也さんがお勧めしていたので手に取ったもの。現代哲学周辺を改めて俯瞰できて面白かった。
  28. 筺底のエルピス6 -四百億の昼と夜- (ガガガ文庫) 評判の良いSFラノベの続刊。SF度がUPしていて楽しい。
  29. 「“右翼”雑誌」の舞台裏 (星海社 e-SHINSHO) 新書大賞25の第9位。右翼雑誌は広告しか見たことがないのだけれども、裏側の話は面白い
  30. エンジニアリング統括責任者の手引き ―組織を成功に導く技術リーダーシップ CTO的なポジションで考えるべきことをまとめた翻訳書。→★感想
  31. 筺底のエルピス7 -継続の繋ぎ手- (ガガガ文庫) 評判の良いSFラノベの続刊。SF的に超面白くなってきた。
  32. PLURALITY 対立を創造に変える、協働テクノロジーと民主主義の未来(サイボウズ式ブックス) オードリー・タンも参加している新しい社会ビジョン活動に関する本。難解かつ長大だが、骨太い良い本だった。
  33. 経済評論家の父から息子への手紙 お金と人生と幸せについて 自分が参考にするというより、自分のこどものことを考えながら読んだ。
  34. NEXUS 情報の人類史 上 人間のネットワーク 上巻が人間の話で、後半がAI革命の話ということだが、上巻だけでも面白く考えさせられる。
  35. 筺底のエルピス8 -我らの戦い- (ガガガ文庫) 評判の良いSFラノベの続刊。いよいよ物語は佳境、だがこれが最新刊で続きはまだ出ていない!
  36. 疲れすぎて眠れぬ夜のために (角川文庫) 読んでいなかった人文系の名著を読もうと思って手に取った本。頑張らなくて良いという話。
  37. スピノザ 読む人の肖像 (岩波新書) 難解ではあるが伝記的な話も挿入されて面白かった。
  38. 22世紀の資本主義 やがてお金は絶滅する (文春新書) お金の話ということで前作より刺激的、SF的だった。
  39. 両利きのプロジェクトマネジメント 結果を出しながらメンバーが主体性を取り戻す技術 「週1回30分の定例会議でうまくいく」は盛り過ぎ。→★感想
  40. 寝ながら学べる構造主義 (文春新書) 動画「三宅香帆が新書好きになったきっかけの8冊」で紹介されてた一冊、02年の本ではあるが現代に読むという点でも興味深い。
  41. GOAT Summer 2025 価格設定がおかしいと話題の小学館の文芸誌の2号め。いろいろ入っていてスキマ時間に楽しみやすかった。
  42. FRICTION(フリクション) 職場の問題を解決する摩擦の力 「良いことを早く、悪いことを起こりづらく」する方法についての研究に関する本。たいへん良い。
  43. 働くということ 「能力主義」を超えて (集英社新書) 新書大賞2025の第5位の本。能力主義の本のようだが、アサインメント(人を選ぶ)に関する本ともいえる。たいへん良い。
  44. そしてミランダを殺す (創元推理文庫) 途中から止まらなくなるミステリ。すごい。
  45. 飼い犬に腹を噛まれる 『赤と青のガウン』の続編的エッセイ集、面白くてタメになりすぎて、むしろずるい。イラストもずるい。
  46. 「話が面白い人」は何をどう読んでいるのか(新潮新書) シゴデキで話が面白い人は、良いコンテンツをうまく消化しているのでその方法を学ぼうという話。面白いんだけど読みたい本が増えてしまうという問題が。
  47. 円環少女 1バベル再臨 (角川スニーカー文庫) 今は有名なSF作家が10年以上前に書いたライトノベル。面白いのだけど、予想通りというか設定が難しすぎる。
  48. 超予測力 不確実な時代の先を読む10カ条 (早川書房) スルーしていた本だがカーネマンの『ファスト&スロー』並みに強インパクトの良書。→★感想
  49. 論理的思考とは何か (岩波新書) 新書大賞25で4位だった本。切り口は興味深いが、ネットで強い反論も出ている点に注意が必要だ。
  50. 世界の終わりの最後の殺人 (文春e-book) 上半期にも読んだ作家の奇妙なポストアポカリプス犯人捜しミステリ。すごい、そして斬新!
  51. 円環少女 2煉獄の虚神(上) (角川スニーカー文庫) 複雑な世界設定の提示だった1巻に比べると、各段に読みやすくなり物語も転がりだした感
  52. 作る、試す、正す。 アジャイルなモノづくりのための全体戦略 古い友人でもある市谷さんの新刊。マジで尊敬しかない。→★感想
  53. 人生の大問題と正しく向き合うための認知心理学 (日経プレミアシリーズ) 同氏の近刊はだいたい読んでいるのだけれども、本書はまとまっており、大変に良かった。AIへの向き合いも論じられている。
  54. 科学の方法 (岩波新書) 1958年に書かれた科学に関する随筆。理系を志す若い方や、子が理系を志す親にお勧め(私は後者)。
  55. 鹽津城 寡作のSF小説家の最新短編集。表題作が素晴らしい。
  56. エビデンスを嫌う人たち: 科学否定論者は何を考え、どう説得できるのか? 科学否定論者に関する本。著者の取材力がすごい。
  57. 円環少女 3煉獄の虚神(下) (角川スニーカー文庫) 第二ボスキャラを無事撃破。あと10巻くらいあるんだけど敵のインフレ率が心配になっちゃう。
  58. NEXUS 情報の人類史 下 AI革命 下巻からは、かなり懐疑的なAI論。歴史を踏まえた判断が推奨されている。
  59. 人類と気候の10万年史 過去に何が起きたのか、これから何が起こるのか (ブルーバックス) 近年に過去10万年の気候研究が大きく進展し、しかもそれが日本の福井県水月湖の湖底の堆積物でわかったというのがまずびっくり。
  60. 庭の話 様々な論(『日本の思想』『共同幻想論』『暇と退屈~』『中動態~』)との接続も含めて大変興味深く刺激となった。
  61. 〈公正(フェアネス)〉を乗りこなす タイトルの通り理解することではなく乗りこなすということがポイントでよく考えさせられる。
  62. 「いき」の構造 日本人の「いき」についての論考というか美学論。興味深いが教養不足でついていけない部分も多く、ちょっとくやしい。
  63. SREをはじめよう ―個人と組織による信頼性獲得への第一歩 カンファレンスの共同創設者である著者によるポイント詰め合わせでお得な本。→★感想
  64. 円環少女 4よるべなき鉄槌 (角川スニーカー文庫) 登場人物の過去が語られる、中盤っぽい展開。
  65. 考察する若者たち (PHP新書) 著者が最近着目している「報われ重視」トレンドに関する本。
  66. 動物化するポストモダン オタクから見た日本社会 (講談社現代新書) 最近読んだいくつかの哲学の本で引用されていたので手に取った01年の本。想像しているのと内容は違っていたが面白かった。
  67. 冷血 (新潮文庫) ニュージャーナリズムと呼ばれる古典名著。すごかった。
  68. 陰謀論と排外主義 分断社会を読み解く7つの視点 (扶桑社BOOKS新書) 距離を置いている故に知らない話もあって興味深い。まずは自衛していきたい。
  69. 手段からの解放―シリーズ哲学講話―(新潮新書) 先日読んだ庭の話もそうだが、「暇と退屈の~」の先にある話として大変に刺激的。
  70. 世界99 上 (集英社文芸単行本) 話題のディストピア小説。想像以上のインパクトで眩暈がする。
  71. Frictionless: 7 Steps to Remove Barriers, Unlock Value, and Outpace Your Competition in the AI Era (English Edition) 「生産性を低下させる摩擦(Friction)を解消し、開発者体験(DevEx)を改善させることが重要だ」という本。→★感想
  72. 世界99 下 (集英社文芸単行本) 話題のディストピア小説の下巻。SF読みとしては最悪な展開を予想してしまい嫌な気持ちになりながら読んだが、そんなに最悪な結末ではなかった。
  73. スターメイカー (ちくま文庫) 名作SFといわれているが、実際には哲学書に近い。難しかった。
  74. 「書くこと」の哲学 ことばの再履修 (講談社現代新書) 読み終わるとなぜか「書ける自分」に変わるというオビは言いすぎだと思うが、書くことについて考えるよい本だった。

過去の読書ふりかえり記事

あと過去にこんな文書も書いてました(意識していなかったが、だいたい5年おきに書いている)

Frictionless(2025)をざっと読む

「Frictionless: 7 Steps to Remove Barriers, Unlock Value, and Outpace Your Competition in the AI Era」という英語の本をざっくり読んだという話。日本語にすると「フリクションレス:障壁を取り除き、価値を解き放ち、AI時代において競合他社を凌駕するための7つのステップ」というところか。Martin Fowlerによる推薦文の日本語訳が公開されており、気になった本だ。なお私の紹介は誤読の可能性があるため、興味のある人は原著をあたるとよい。

ソフトウェア開発における生産性について書かれたものの大半はクズだ。だが、NicoleとAbiの書籍は注目すべき例外である。

本当だろうか?

Frictionlessの紹介、全体的な感想

日本語訳で読めるMartin Fowler序文でもわかる通り、本書は「生産性を低下させる摩擦(Friction)を解消し、開発者体験(DevEx)を改善させることが重要だ」という本である。ここでいうFriction/DevExの阻害要因とは例えば手動デプロイとか、ビルド時間の長さ、不安定なテストや不十分なオンボーディング資料、ローカル環境の問題などである。
しかし、うーん、どうだろう、というのが率直な感想だ。確かに生産性を向上させるための方法論にはロクでもないものが多いため、逆張りのアプローチで生産性低下要因を撲滅するという考え方はわかるし、害がなさそうではある。というか、絶対にやるべきことである。でもー、どうなんでしょうー。それより前に考えるべきことがあるんじゃないか? 乾いた雑巾を絞ってないか? という疑問が頭をよぎり、「これは良い本だ」と断言できるほどの確信は持てなかったというのが正直なところ。

摩擦(Friction)に関しては、たまたはではあるが同時期に読んだ「FRICTION(フリクション) 職場の問題を解決する摩擦の力」のほうは良かった。こちらの本は「不要な摩擦は無くし、逆にスピードがある領域は意図的に摩擦を作り出して事故を減らそう」という本書よりは抽象度の高い議論をしていて、共感できた。そう考えてしまうのは自分が開発から離れてマネジメントに着目しているからなんだろうか。

というわけで、他の方の意見もぜひ聞きたい。どうなんですか、これ。

Frictionlessの内容に関するメモ

以下、各章のメモである。

lntroduction

現状、開発者体験(DevEx)により多大な損失が発生している。加えて、AIによりコード生成やプロトタイピングが劇的に高速化。このメリットを最大限に享受するためには、DevExの重要性はさらに増大している

  • DevExは「気持ちの良いアイデア」ではなく、戦略的レバー
  • AI時代において、DevEx改善に投資する組織が未来をリードする

PART I - Understanding DevEx

開発者体験とは何か。そして摩擦(Friction)とは何か

  • Friction = The Value Killer
  • 摩擦はAI投資の価値を殺す要因になりかねない

PART II The Three Essential Elements of DevEx

開発者体験を改善するための3つの重要な要素について

PART Ⅲ Making the Business Case

経営層の支持を得る方法について。DevEx回線を財務的成果や戦略的優先事項に結びつけなければならない。そのため、経営層の関心事(コスト削減
スピード、競争力)に沿って提案する必要がある

  • ビジネス価値に翻訳する
  • データを活用し、ROIを定量
  • 戦略との整合性

PART IV lmproving DevEx : A 7-Step Process

DevEx改善をするための、計画的・段階的なアプローチについて

STEP 1 Start Your DevEx Journey

改善の第一歩として、始めるべきことについて

  • 開発者インタビュー
  • インタビュー結果から実用的なインサイトをまとめる
  • 開発者のワークフロー、ツール、摩擦を可視化する
  • ステークホルダーについて理解する
  • 学んだことを利害関係者に共有する
STEP 2 Start SmaIl and Get a Quick Win

小さく始めて、早期に成果を出す

  • 適切なプロジェクトを選んで、効果を検証する
    • Quick RICEフレームワークの利用。Reach,Impact,Confidence,Effort の4つの観点でざっくり評価する
  • 初期の成果を共有してモメンタムを作る
    • 失敗も共有し、学びを示す
  • よくある落とし穴を避ける方法
    • 防御的になる、解決策の押し付け、スピードを重視しすぎて孤立、マイクロマネジメント……
STEP 3 Use Data to Optimize Your Own DevEx Work

データを用いてDevEx改善を最適化する

  • 解決策に飛びついてはいけない
STEP 4 Decide Strategv and Priority

戦略と優先順位の決定。すべての課題を解決することは難しいため、共通基準を用いてDevEX課題を評価する方法について

  • RICE基準を使って意思決定を明確化し、データを活用して合意形成を進める
  • RICE基準:(Reach×Impact×Confidence)/ Effort = RICE Score.
  • RICE評価だけでなく、追加評価によって決定する
    • ビジネスバリュー、集団的なアクションとなるか否か、タイムライン、制約、ゴールの高さ
STEP 5 Sell Your Strategy

改善計画を社内に浸透させるためのコミュニケーション戦略について。ワークショップや、メンタリングや、ハンズオンなどの活用を考える

  • Step1 で作成したステークホルダーマトリクスを元に、各グループに響くメッセージを設計
STEP 6 Drive Change at (Your) Scale

自分の影響範囲に合わせて、変革を推進する

  • スコープ別の戦略
STEP 7 EvaIuate Your Progress and Show VaIue

DevEx改善の進捗を評価し、ステークホルダーに価値を示す方法。進捗指標を定め、結果をビジネス言語に翻訳し、定期的に報告する

PART V Evolving and Sustaining DevEx

DevEx改善を自足的に進化させるための考え方について

  • リソースの確保と保護
  • 組織構造の整備
  • プロダクト指向の技術ソリューション
  • 進化し、影響を増幅するようなメトリクス設計

PART VI Workbooks

Frictionless: How to Outpace Your Competition in the AI Era からダウンロードできる(してない)

というわけで、モヤモヤする読書ではあった。Amazonのレビューだとそこそこの評判みたいなんだけどなぁ

コミュニティの知見をキャッチアップできる良書「SREをはじめよう」を読む Part.2

読むのがホネな技術書やビジネス書を取り上げて2週間の読書期限を課して読んでアウトプットする仮想読書会「デッドライン読書会」の第85回。同僚と読書期限を約束することによって積読が確実に減るという仕組み。過去記事はこちら

さて、今回読む本は引き続き「SREをはじめよう ―個人と組織による信頼性獲得への第一歩」だ。発売から1年間も積んでしまった本である。前回は前半を読んだので、今回は後半「第Ⅲ部 組織がSREをはじめるには」を読んでいる。

前半の感想はこちら。
agnozingdays.hatenablog.com

「SREをはじめよう」後半および全体の感想

超良い本である。ただしSRE初心者が手に取るべきではない(SRE本または他の初心者向けの本を読もう)。SREを学んでいる人、実践している人にとっては極めて優れた知見やアドバイスを得られる本だろう。なにせ 人気コミュニティSREconカンファレンスの共同創設者が、おすすめの講演動画や資料を示しながらノウハウを(面白おかしく)伝授してくれるのだから。

あともう1点のポイントは、単著であることだろう。(ちゃんと読み返していないのだけど)オライリーの各種SRE本は論文集のような体裁で章ごとに著者が異なっている。しかし本書は筆者単独の著作であり、一貫性というか読みやすく理解しやすいような気がする(あと、著者の文章は面白い)。

ちなみに前半の感想を書いた時には気づいていなかったのだけれども、日本語版訳者の山口さんが本書についての解説記事(書籍紹介イベントの講演動画つき)を公開していた。本書の概要を把握したい場合は閲覧すると良いだろう。

ymotongpoo.hatenablog.com

「SREをはじめよう」後半の気になったポイント

以下は読んでいて興味深いと思った点などのメモだ。

11章 成功のための組織的要因

12章 SREはいかにして失敗するか

  • こんな一文から始まるのが好き「失敗から学ぶことの価値を繰り返し強調する本書の中で、同じ考えをSRE自身に適用するチャンスを逃すわけにはいきません」
  • SREが失敗する兆候集。
  • 結びに、SREが失敗しても、SREらしくインシデントレスポンスしようと書かれていて、これはなるほどと思った。

13章 ビジネス視点からのSRE

  • SREに関するマネジメント経験者による対談形式で、ビジネスサイドとの調整などについて語られる章。

14章 Dickersonの信頼性の階層構造(良い出発点)

  • 「Dickersonの信頼性の階層構造」とはSRE本で紹介された、マズローの要求段階説にインスパイアされた信頼性の階層構造のこと(すっかり覚えていないが)。本書ではこれを若干修正して紹介されているが、改めて見ると良いダイアグラムになっている。
  • ハッとした文章「監視システムは、しばしば組織の(意図しない)鏡となります」。そうだわ!
  • 突然アンソニー・ボーデインの「厨房の乱れは心の乱れ」という引用が入っていて好き*1

15章 SREを組織に組み込む

  • 組織に対してSREが有効ということがわかった。ではどうやって導入するのかという話。
  • SRE組織の形態パターン(統合モデル。本書では「中央集権型/パートナー型モデル」「分散型/埋め込み型モデル」「ハイブリッド型モデル」が示されている)が興味深い。

16章 SRE組織の進化段階

17章 組織におけるSREの成長

  • SRE組織のスケールアップについての著者の見解。
  • 人数のスケールアップについて、オンコールローテーションの安定性とあわせて検討している点が素晴らしい。参考にしたい。(日本でも同じように考えられるかは別として、人道的なオンコールローテーションを行うために著者は6名を最低と考えているということ)

18章 おわりに

  • あとがきの章。著者から示される「お土産」としてのメッセージが素敵だった(ぜひ本を購入して確認してみてください)

付録A 若きSREへの手紙(リルケさんすみません)

  • 著者の知るSRE業界の有識者からの「若きSREへの手紙」集。たいへんよい。
  • John Amoriさんの以下の文章が心にぶっささった。

すべてのシステムがあなたの期待通りにエレガントに設計されているわけではなく、さらに多くのシステムはあなたの制御の及ばないところで改善されていることに気づくでしょう。 何でもできるわけではなく、最善を尽くしても、いずれは必ず壊れてしまうということを覚えておくことが重要です。 ここで、この知恵を授けます、「備えよ」。

付録B 元SREからのアドバイス

  • 付録Aは現役SREからのメッセージのようだが、付録Bでは引退したSREからのメッセージが示される。これもかなり興味深い。

付録C SRE関連資料

  • 関連資料集である
  • とても良いと思ったのは、この中で「歴史的文書」という項があること

というわけで、非常にためになり、かつ面白い本だった。というわけで無事に読了! さて次は何を読みますかね。

現在気になっている技術書はこんな感じ。どの本がおすすめですかね

*1:ボーデインの「キッチン・コンフィデンシャル(新装版)」は個人的にとても大好きな仕事論なので

マネージャーなのに現場感を忘れないために「SREをはじめよう」を読む Part.1

読むのがホネな技術書やビジネス書を取り上げて2週間の読書期限を課して読んでアウトプットする仮想読書会「デッドライン読書会」の第84回。同僚と読書期限を約束することによって積読が確実に減るという仕組み。過去記事はこちら

さて、今回読む本は「SREをはじめよう ―個人と組織による信頼性獲得への第一歩」だ。発売から1年間も積んでしまった。それなりに長いので 前半と後半に分けて読む。というわけで今回は「第Ⅰ部 SRE入門」「第Ⅱ部 個人がSREをはじめるには」を読んでいる。第Ⅲ部は2週間後くらいに感想を書く予定。

ちなみにSRE関連で言えば、以下はすでに読んでいる。関連だとあと何冊か話題の本があったような気がするけれど、抜けてるな……

マネージャーなのになんでSRE本読んでるの?

6年くらい前までは(顧客の)プロダクトを見ていたということもあってSREの考え方はだいぶ参考にしていたのだけれども、現在はだいぶマネジメント寄りの仕事をしている。もちろん現在はSREのような仕事はまったく行っていないし、SREの採用をしているわけではない。でも、SREの本を読むのは好きだ。それはなぜかを言語化してみると、次のようになる。

  • 現場感を忘れないために
  • 緊急事態で少しでも動けるように
  • SREそのものがソフトウェアや開発チームから一歩引いている立場でサポートするという役割なので、立場的にはむしろ共感する点が大きい
  • トイルの考え方などは、SREやっていなくても十分に参考になる

振り返って見ると、自分の仕事の仕方はこれまで読んだSRE本にかなり影響を受けているともいえる。では、本書はどうだろうか。

「SREをはじめよう」前半の感想

まず自分にとっては、この本はやたらに面白く、著者の幅広い知識(リンクなど)が充実して読んでいて楽しい本である。
たとえばこういう表現がスッと入っているあたり「わかるゥ~!」となってしまう。そういうところが好きな人は楽しめるだろう。

昔々、私たちがまだマシンルームのコンピューターに石炭を突っ込んで動かし続けていた頃、私たちは直方体の物体を指さして「これが私のシステムだ」と言うことができました。 これはノスタルジーを呼び起こすために言っているのではなく、非分散システムを扱う時代は、まれに例外があるにせよ、もう終わったということを強調したいのです。


SREをはじめよう ―個人と組織による信頼性獲得への第一歩、5.3.2 分散システム(とその故障モード)より

あとは銀河ヒッチハイクガイドの引用が入っていたりね。

といったお楽しみもある一方、真面目な話の拡がりも充実している点が本書のポイントだと思う。興味深いトピックについて深めるための主要な講演や論文などの紹介も多い。これは著者がまさにSREコミュニティの中心を歩いてきた人物だからだろう。一番詳しい人に、今知っておくべきことを聞けるような安定感があった。

本書は、SREconの創始者であるDavid N. Blank-Edelmanが、長年SREコミュニティに関わった中で、多くの方々からの聞き取りや、多くの事例を調査し整理した結果として体系的にSREについて学べるように書かれた書籍です。
総論→各論→演習とステップアップ。『SREをはじめよう』翻訳者が推薦する、SREへの理解を深める4冊 | レバテックラボ(レバテックLAB)

ただ一方で、本書だけでSREについて理解するのは難しいという意味では、SRE初学者向けの本ではないことも確かだろう。最初に「第Ⅰ部 SRE入門」が入っているが、かなり短いのでこれでイメージを掴むのは難しいのではないだろうか。というわけで、はじめてSREを学ぶ人にはおすすめできる本ではないと思う。

「SREをはじめよう」前半の気になったポイント

以下は読んでいて興味深いと思った点などのメモだ。

序文

1章 はじめに

2章 SREの心構え

  • それは好奇心から始まる。良い出だし。
  • SREの考え方を説明するのに「DCで電源ケーブルにつまずいて抜け、サーバーが落ちる」シナリオを使うのは大変明解な発明だと思った。
  • 「墓場に幽霊は出ない」というSREの格言があるらしい。意味深。
  • グレイスフルデグラデーションの話は面白かったので別記事にしている。

3章 SREの文化

  • 「もしも誰かに乗り物を調達するように言われたら」良いたとえ話。
  • リルケの手紙の話が出てくる。著者の教養の高さ!
  • この章も熟達者にとっては愉しい文書になっているが、これを「SRE入門」とするのは難しすぎる印象

4章 SREについて語る(SREの提唱)

  • 他者にSREを説明する方法を説明することによって、SREへの理解を深めるというメタな章。
  • ストーリーから説明する。なぜなら、人間はストーリーを受け取る機械としてできているからである。この説明も深くてしびれた。
  • 2017年の講演「The Cult(Ure) of Strength」。これも見ていないな。あとで見ようと思う。いいタイトルだ。https://www.usenix.org/conference/srecon17europe/program/presentation/gorcenski

5章 SREになるための準備

  • コーディングの知識は必要か、から始まる 〇〇は必要か論。
  • Tufteの本「The Visual Display of Quantitative Information」が紹介されている。この本は前から読んでみたいと思いながら読んでいない本なのである。訳書がないんですよねぇ
  • レジリエンスとは、車が故障したときにスペアタイヤを積んであるということではありません。目的地までたどり着けるような交通手段を理解し、使いこなして、車が故障してもなお目的地にたどり着くことです」素晴らしい説明。

6章 …からSREになる

  • どこからSREにキャリシフトするかのパターン別見解。学生から、開発者から、など。これは単純な学習指針としても参考になる。

7章 SREとして採用されるためのヒント

  • SREの求職者向けアドバイスだが、雇用主に聞くべき質問が列挙されていて強い。「現在使用されている監視システムの数はいくつですか」
  • SIer(白目)の立場からすると、顧客にすべき質問のネタ元として使えそう。

8章 SREのある一日

  • 「SRE が何であるかはわかったが、実際には何をするのか」に答える章。実際にはSREにはさまざまなモードがあり、モードによって過ごし方が変わるという説明になっている。
  • 例えばトラブルが発生すれば「インシデント/障害モード」。対応が終わったら「学習モード」といった切り替えが示されていて、興味深い。
  • 「回復とセルフケアモード」が本当に大切。

9章 トイルとの関係を築く

  • SREにおける重要な概念である「トイル」に関して。
  • まずSRE本の5章と SREワークブックの6章(どちらも同じタイトルの)「トイルの撲滅」を読むべし。御意。
  • ハイラムの法則 https://www.hyrumslaw.com/

10章 失敗から学習する

  • ポストモーテムの話。著者はレジリエンス工学知識が豊富なので、その切り口で整理されている点に好感度が高い。つまり私の好み。
  • 根本原因分析はやめろ。同感でしかない。「複雑系は、複雑な方法で故障する」
  • アンチパターン(本書では「罠」)
    • ヒューマンエラーのせいにする
    • 反実仮想推論(できたはずだ)
    • 規範的な言葉の使用(うっかり、などの表現に含む決めつけ)
    • 機械論的推論
    • うまくいった点を無視する(学習機会の損失)
  • 2018年の論文 “Resilience Is a Verb” これもあとで読もう。https://irgc.org/wp-content/uploads/2018/12/Woods-for-IRGC-Resilience-Guide-Vol-2-2018.pdf

というわけで、私にとってはたいへん面白い本だ。そして本書が面白いと思う人と仕事をしたい。

後半は組織でSREをはじめる方法について書かれているはず。学びが多そうなので楽しみである。つづく