勘と経験と読経

略すとKKD。ソフトウェア開発やITプロジェクトマネジメントに関するあれこれ。

「エンジニアリングマネージャが知るべき97のこと」を対話的に読む(1)

約10年前にいくつか邦訳されて話題となった「〇〇が知るべき97のこと」という技術書シリーズがある。このシリーズが最近復活したようだ。〇〇には現代的なエンジニアロールが入っているので面白そう。翻訳されるかと思ったけれど、その気配もないので原著で読み始めた、という話。

今回取り上げるのはこれ。

(なおAmazonのリンクで紹介しているが、私はオライリーのサブスクで読んでいる)

他にも新シリーズでは次のようなものがあるようだ。SREのはちょっと気になっている。

97シリーズは対話的に読むのが面白い

10年前に97シリーズを読んだ時にも感じていたのだが、本シリーズは「各エッセーにツッコミを入れていく」スタイルで読むのが面白いと思っている。

  • そうそう!同意!
  • いや、それは違うんじゃないの?
  • 同じ経験をしたことがあるよ〜
  • 参考になった。次に試してみよう

などとリアクションしながら読むと学びが深いのではないだろうか。このシリーズは実践者の短いエッセー集という体裁を取っている(むしろブログ記事アンソロジーという趣だ)。あまりかしこまって読むものでもないだろう。

実際に読んだ感想(Chapter1~20)

  • Chapter 1. Advanced PeopleOps—One-on-One Retrospectives
    • 普通の高頻度1on1をやる立場にないけど、納得。寧ろ皆さんどうしてるのだのうか。あと「おばあちゃんのハム」の話は覚えておきたい。
  • Chapter 2. Answer These 10 Questions to Understand Whether You’re a Good Manager
    • めちゃくちゃ良い記事で、感動した。稼働率とか生産性や経営KPIはEマネージャーの成功指標じゃないよという話。10の良い兆候のリスト。1つ目は「1週間休むことはできますか」それなー
  • Chapter 3. Avoiding Traps in Manager READMEs
    • いわゆる「マネージャーのトリセツ」を共有するプラクティスに関する批判。ちなみに自分は過去にトライしようとしたけど、しっくりこないのでやめたことがある。
  • Chapter 4. Building Effective Roadmaps
    • ロードマップをコミュニケーションと合意形成の為に使うポイントに関して。「何を諦めるのか」「不確実性はどこにあるか」などが答えられるロードマップが良い、ってそりゃそうだけど、イメージが湧かない。。
  • Chapter 5. Busy Isn’t Better
    • マネージャーはチームがずっと繁忙であるようにコントロールすることを求めるプレッシャーがあるけど、実際には常に余裕が必要だよねという話。全面的に同意、ただ、これをセンス以外でやれる方法を学びたいんだよなー
  • Chapter 6. Career Conversations as an Engineering Manager
    • 部下とキャリアパスに関する1on1をする方法、話すべき内容について。すごい参考になった。あと、EMはキャリアのガイドではあるが、マップメーカーではないというのも同意。そしてレポートを残すことについて。このあたりは自分の所属組織でもいろいろ改善したいのだけれども。
  • Chapter 7. Career Development for Startup Engineers
    • スタートアップ企業のエンジニアは、落ち着いてきたら人材投資しないと外に出てしまうよという話と、何をすべきか。まあSIerに入社する優秀な人も同じような気はする。有効な手の一つは「より大きなプロジェクトに取り組む機会を共有する」だけれど、なかなかそう出来ないのはなんでなんだろうー。
  • Chapter 8. Communicating with Executives
    • 経営幹部とのコミュニケーションは相手の目線に立って、相手の注意を引くように、から始まる細かなアドバイス。興味深いが、ちょっとコンテキストが違いすぎて参考にならないな。もしくは参考にならないという点が大きな問題なのかもしれないけれど。
  • Chapter 9. Communication as Craft
    • 技芸としてのリーダーシップ向けコミュニケーションTips。初めてリーダーをする人に聞かせたい良い話。リーダーとなった瞬間、コミュニケーションの意味が変わる(相手に対する意識が変わる)というのは本当にそう。何を伝えたか、じゃなくて、何が伝わったか、なんだよ。
  • Chapter 10. Connect “The What” to “The Why”
    • EMとして最もレバレッジある活動は、エンジニアの活動と理由(なぜ、やるのか)を接続すること(質問をするのではなく、説明することが必要)。そして、常にその接続を補強せよ。はい、同意しかない。
  • Chapter 11. Continuous Kindness
  • Chapter 12. Culture Is What You Do When the Unexpected Happens
    • 組織文化は、予期せぬ事態が起こった時に表出されるものであるという話。言われてみればその通りだけれども、けっこう新鮮な視点。感想というか自省だけれど、つまり表現された文化(ビジョン)などについて語り合うのはたぶん間違いで、アノ時の行動がどうだったかに着目すべきなんだな
  • Chapter 13. Dealing with Uncertainty
    • 不確実性の対処に関しての話だが、一般論であった。EMは不確実性の高い判断をする必要がある。その時に気を付けるべきことについて。う~ん自分にとってはかなり当たり前な内容なんだけど、これが新鮮な人も多いのかなぁ。
  • Chapter 14. Define Your Culture Before It Defines Itself
    • 文化を定義する話。「あなたは素晴らしい候補者だが、当社のカルチャーには合わない」といって優秀な候補者を追い返せないようであれば、文化の定義が不十分ということ。これはだいぶ難しいな・・・
  • Chapter 15. Delivering Feedback
    • 効果的なフィードバック方法について執筆者が活用しているものの紹介。ところで紹介されている"Mirror,Mirror"というゲームは何なんだろう。これかなぁ。http://www.childdrama.com/mirror-mirror.html ちょっと面白そう。
  • Chapter 16. Developing Communication Patterns
    • 製品の品質はチームのコミュニケーションに依存をしているので、チームのコミュニケーションパターンを意図的に”開発”しなければならないという話で、とっても良い。計画駆動ではなく、観察とシミュレーションと干渉。すごくいいぞ。
  • Chapter 17. Distributed Teams Are Founded on Explicit Communication Channels
    • 分散化するチームを考慮して、最初からコミュニケーションチャネルに投資すべき。そして使い分けについて。使い方のTipsは山とあるのだけど、設計と移行という観点でけっこう困ってるので参考になる。
  • Chapter 18. Do Less, Lead More
    • 「やるべきことがすべてできない状況になったとき」がエンジニアマネージャとしての成長のチャンスだという話。シミュレーションのための「Bad News Test」(上司に伝える悪いニュースを考える)というアイデアは良いものな気がする。
  • Chapter 19. Don’t Be the S--- Umbrella
    • エンジニアリングマネージャの仕事はスーパーヒーローとしてチームを保護することではなく、コンテキストプロバイダーになるべきだという話。コンテキストプロバイダー? チームに現状を理解させ、考えさせるということか。そしてチームの成長を導く……
  • Chapter 20. Don’t Elevate the Means Beyond the End
    • 高度なHOW(例えばマイクロサービスアーキテクチャの適用)をビジネスゴール超えた形で設定してはいけないという話。トレンディーなテクノロジーと、トレンディなプロセスに注意。あたりまえだけど、忘れ去られがち。

引き続き、残る57章も読んでいくつもり。
なお各章の感想は、以下のTweetにスレッドとしてぶら下げているので興味があればどうぞ。

おっさんエンジニアの放送大学教養学部に入学記録2(1年目後期終了)

2020年4月から放送大学教養学部「人間と文化コース」に入学して、これまで勉強してこなかった人文系の勉強を始めている。1年目後期が終わったので感想などをまとめてみた。

放送大学入学はオススメか?/1年目後期の感想にかえて

  • 前提として私は「卒業を目的としていない」ので、卒業目標の人は参考にしないでほしい
  • ご存じの人も多いが、別に入学しなくとも放送大学で学習はできる。BS放送もしくはラジオは無料で視聴できるし、テキストも書店等で購入可能である。よってコストを下げたいなら入学せずに授業を視聴すればよいだろう
  • 一方で入学すると、履修科目に限らず全ての放送授業が視聴可能となる(PC、タブレットスマートフォンで利用可)。自分にとっては「好きな時に、好きなペースで」学習できるのが最も大きなメリットだった
  • 入学金(24K)+履修科目の受講料で最大10年間在籍可能(2年間授業をまったく取らないと除籍になる)
  • その他細々とした特典(4年間 Prime Studentになれる、専用図書館が使える、日経系専門誌の記事検索と閲覧サービスが利用できるなど)も地味に魅力
  • 履修科目については中間課題(7週目)、認定試験(15週目)があるのが適度なプレッシャーで心地よい

というわけで個人的には知のサブスクとしておすすめ。

ただ、私は入学直後にコロナ禍が始まったためテストがすべて自宅受験となっている。コロナ禍以前であれば試験期間は特定のセンターの教室で(通常の大学のように)受験する必要があったので、コレが復活すると印象が変わるかもしれない(なお会場試験でもテキスト等持ち込み可)。受験のためには仕事を休んだり移動したりしなければならないからだ。今後制度がどうなるのかは、少し気になっている。

1年目後期に履修(一部は聴講)した科目

博物館概論

博物館概論 (放送大学教材)

  • 博物館に関する包括的な講義。東京国立博物館を含め、多数の国内外の博物館の取材やインタビュー映像が含まれており非常に興味深い。日常的に博物館に行くことが多い人はとても楽しめると思う。
  • 放送大学には(公式な資格ではないけれど)一定の科目群を履修完了することで「エキスパート認定」する制度がある。本科目は博物館系エキスパート認定時の必須科目ということもあり受けておきたかったのだ。老後、ボランティアなどをする時に便利かもしれない。

文学・芸術・武道にみる日本文化

文学・芸術・武道にみる日本文化 (放送大学教材)

  • 控えめに言っても超オススメ。目から鱗が落ちまくる授業だった。まさに教養!
  • 「日本文化」を軸に縄文時代から現代までを俯瞰し、どのような繋がりがあるのかが説明される。個人的には日本文化や日本史が苦手だったが、このように説明してもらえればわかる!
  • 本講義も様々な取材映像が含まれており、単純に視聴することが楽しかった。舞台芸術(能や浄瑠璃など)は舞台のダイジェストが示されながら解説も聞ける。
  • もう一つの軸である武道に関する講義も熱い。講師の魚住先生が専門ということもあり、様々な武道の演武も含まれている。いやぁ、勉強になった。

西洋哲学の起源

西洋哲学の起源 (放送大学教材)

  • 本科目については正式には履修しなかった(テキストを購入して講義のみを視聴)。初級科目であり、ラジオ講義(映像がない)であることが理由。
  • 放送大学に入学したきっかけが、苦手だった哲学分野の学習であるというのも聴講した理由である。
  • 本科目は特にキリスト教を中心とした西洋哲学について語られており、これも理解が深まった。ただし哲学系の科目は最後の2回くらいが超難しい・・・

2年目前期の予定

そもそも21年度1学期が始まるのが4月なので、現時点では履修予定は未定(芸術系と文化人類学系、哲学系で3講義くらいを履修するつもり)。
また1月~3月がお休みになってしまうので、教育心理学特論 (放送大学大学院教材)を聴講してみようと思っている。本科目の前身である「教育心理学概論」は数年前からアジャイルコミュニティで話題になっていたようだ。

というわけで、楽しい学びは続く。毎週末3時間くらいを放送大学の学習時間に充てるリズムも出来てきたので、継続していきたい。

在宅勤務とワイシャツと私

生活ネタ。1年ぶりにワイシャツを新調した。昨年3月くらいからずっと在宅勤務なのだが勤務時間中は(頑固にも)ワイシャツを着ている。

少し前にNewYorkerのこんな表紙が話題になっていたけれど、自分も勤務中は似たような感じだ。ワイシャツは着ているものの、それ以外は手抜きをしている(どうせ画面に映らないし)。
別に所属企業で厳密なルールがあるわけではないので、在宅勤務中はもっとラフな格好をしている同僚も多い。
しかし、自分は「仕事モード」への切り替えに「シャツへの着替え」が重要なようで、毎朝勤務前に着替えを欠かしていない。また週末にPodcastを聞きながらアイロンをかけるというのもルーチンになっていて、やらないとなんだか落ち着かない。

シャツは5年ほど前からこのブランドを愛用している。
ital-style.com
ちょうどよいサイズを見つけてしまえば、あとは生地を選ぶだけでネットで完結するのも好みだ。また、過去にいつどんなシャツを買ったかが当然わかるので、次に選ぶ際にも便利。

というわけで当面シャツスタイルは変えるつもりはないんだけれど、在宅勤務も2年目に突入。いつになったら終わるのやら。終わらないのでスタイル見直しすべき時が来るのだろうか。

「その仕事、全部やめてみよう」を読んだ #デッドライン読書会

読むのがホネな(積みがちな)技術書やビジネス書を取り上げて2週間の読書期限を課して読んでアウトプットする仮想読書会「デッドライン読書会」の第22回。今回選んだタイトルは「その仕事、全部やめてみよう――1%の本質をつかむ「シンプルな考え方」」である。

いまあらためて
「2020年版、書籍版・小野和俊のブログ」
のような形でまとめたらどんな風になるだろう。
そんな風に考えながらこの1年半ほど本を書いていました。
本を出しました。「その仕事、全部やめてみよう」 : 小野和俊のブログ

エッセンスは残っているけど、完全新作になっているような・・・

「その仕事、全部やめてみよう」の全般的な感想

というわけで本書は現在クレディセゾンの常務執行役員CTOの小野さんの発想と経験をまとめた本である。読み終わった感想はこうだった。

本書はタイトルでもある「その仕事、全部やめてみよう」がポイントだと思う。

ベンチャーや大企業問わず、どんな仕事にも共通する「仕事を合理化するポイント」があることが見えてきた。逆にいえば、共通する「無駄」があるのだ。冒頭のケースは決して珍しいことではない。本書では、やめるべき仕事・考え方をさまざまな角度から見ていきたいと思う。
その仕事、全部やめてみよう――1%の本質をつかむ「シンプルな考え方」 (はじめに――ITベンチャーと老舗金融企業で学んだこと、より)

一般的には「やめる」前に「改善する事」を検討するのだと思う。しかし本書の考え方はそうではない。「やめる」事からちゃんと考えるのである。小野さんのこのシンプルだが強力なまなざしが、様々な活躍の結果に繋がっているんじゃないかと思う。

本書に紹介されていない、小野さんブログの見どころ

というわけで本書はたいへんに素晴らしく、参考になる点が多いのでオススメなのだけれども、残念ながらブログから収録されなかったネタも多いようだ。というわけで本書に紹介されていない小野さんブログの見どころを紹介しておく。

「改変ネタ」カテゴリ

どんなに偉くなってもブログが残るのって、良い世の中だなぁ

2020年下半期に読んだ本まとめ

2020年7月~12月に読んだ本のまとめ。カウント対象は期間中に読み終わったものに限り、読みかけの本は対象外としている。あとコミック、漫画雑誌類もけっこう読んでいるのだけれども、これは除外。(コミック類は主に コミックDAYS のサブスクかKindleで読んでいる)

2020年下半期に読んだ本

  1. The Remote Facilitator's Pocket Guide (English Edition)
  2. WORK MILL with Forbes JAPAN EXTRA ISSUE (日本語) 雑誌
  3. Who You Are(フーユーアー)君の真の言葉と行動こそが困難を生き抜くチームをつくる
  4. 仕事ごっこ ~その“あたりまえ”、いまどき必要ですか?
  5. HELLO WORLD (集英社文庫)
  6. WIRED(ワイアード)VOL.37 (6月23日発売)
  7. 世界一シンプルで科学的に証明された究極の食事
  8. OODA LOOP(ウーダループ)
  9. プルーストとイカ―読書は脳をどのように変えるのか?
  10. これからの「正義」の話をしよう ──いまを生き延びるための哲学 (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)
  11. GIG WORK(ギグワーク) 組織に殺されず 死ぬまで「時間」も「お金」も自由になる ずるい働き方
  12. ブラックアウト
  13. 目の見えない人は世界をどう見ているのか (光文社新書)
  14. 三体Ⅱ 黒暗森林(上)
  15. 三体Ⅱ 黒暗森林(下)
  16. 岩田さん: 岩田聡はこんなことを話していた。 (ほぼ日ブックス)
  17. Engineers in VOYAGE ― 事業をエンジニアリングする技術者たち
  18. More Effective Agile “ソフトウェアリーダー”になるための28の道標
  19. 西洋美術史入門 (ちくまプリマー新書)
  20. THE MODEL(MarkeZine BOOKS) マーケティング・インサイドセールス・営業・カスタマーサクセスの共業プロセス
  21. わたしが知らないスゴ本は、 きっとあなたが読んでいる
  22. アルゴリズム フェアネス もっと自由に生きるために、ぼくたちが知るべきこと
  23. 「読まなくてもいい本」の読書案内 ──知の最前線を5日間で探検する (ちくま文庫)
  24. オール・クリア1
  25. オール・クリア2
  26. 都市と都市 (ハヤカワ文庫SF)
  27. WIRED(ワイアード)VOL.38
  28. コンテキストデザイン
  29. モダン・ソフトウェアエンジニアリング
  30. 小林カツ代のお料理入門 (文春新書)
  31. 〈あの絵〉のまえで (幻冬舎単行本)
  32. NHK「100分de名著」ブックス 世阿弥 風姿花伝
  33. ビジネスケース『キーエンス~驚異的な業績を生み続ける経営哲学』―一橋ビジネスレビューe新書No.7
  34. 運用設計の教科書 ~現場で困らないITサービスマネジメントの実践ノウハウ
  35. 透明性
  36. 日本SFの臨界点[怪奇篇] ちまみれ家族 (ハヤカワ文庫JA)
  37. Retrospectives Antipatterns (English Edition)
  38. ザ・フォックス (角川書店単行本)
  39. 昨日までの世界(上)―文明の源流と人類の未来 (日本経済新聞出版)
  40. システム障害対応の教科書
  41. 日本SFの臨界点[恋愛篇] 死んだ恋人からの手紙 (ハヤカワ文庫JA)
  42. タコの心身問題――頭足類から考える意識の起源
  43. Zombie Scrum Survival Guide (English Edition)
  44. 死神の棋譜
  45. 遅いインターネット (NewsPicks Book)
  46. 栗本薫・中島梓傑作電子全集5 [新・魔界水滸伝]
  47. The DevOps 勝利をつかめ! 技術的負債を一掃せよ
  48. トレイルブレイザー―企業が本気で社会を変える10の思考
  49. 風神雷神 Juppiter,Aeolus(上)
  50. 合格対策Microsoft認定AZ-900:Microsoft Azure Fundamentalsテキスト&問題集
  51. 風神雷神 Juppiter,Aeolus(下)
  52. WIRED(ワイアード)VOL.39
  53. D2C 「世界観」と「テクノロジー」で勝つブランド戦略 (NewsPicksパブリッシング)
  54. ぼくたちが選べなかったことを、選びなおすために。

文芸書のおすすめ(一般編)

振り返るとSF以外の一般文芸書をあまり読んでいなかった。とはいえ、ダントツで推したいのは原田マハさんの「風神雷神」である。原田マハさんが得意とする芸術をテーマにした物語だが、一気に引き込まれて読んでしまった。面白いし、教養も身に付くオススメの本である。
風神雷神 Juppiter,Aeolus(上)風神雷神 Juppiter,Aeolus(下)

まあ書籍のオビにも書いているくらいだからこれくらいはネタバレにはならないと思うけど、有名な「風神雷神図屏風」を書いた俵屋宗達が実は天正遣欧使節に同行してイタリアまで旅をし、様々な西洋美術に出会っていたという歴史芸術スペクタクルである。なお本書には挿絵などは無いので、主人公たちが出会った建築物や美術作品をWikipediaなどで確認しながら読み進めていくと良さそう。

文芸書のおすすめ(趣味のSF編)

話題となった「三体Ⅱ」はスケール感から結末まで非常に素晴らしかった。けれどこの6か月に読んだ本としてはこちらの三部作の印象のほうが強く残っている。
ブラックアウトオール・クリア1オール・クリア2
いわゆる時間SFの名著である。2060年のオックスフォード大学に通う3人の学生が、第二次大戦中のロンドンを研究するため、タイムトラベルをするのだが・・・というストーリーである。複数の主人公と時間軸で物語が進行するので、メモを取りながら読んでいたが終盤はメモを取る間も惜しく一気読み。

本書は様々な場所でも絶賛されている。そういえば、映画『この世界の片隅に』片渕監督のオススメの本だそうだ。うーん、わかる・・・!

教養書のおすすめ

偶然だが頭足類系の本を複数読んでいていて(「プルーストとイカ―読書は脳をどのように変えるのか?」「タコの心身問題――頭足類から考える意識の起源」)どちらも大変面白かったのだけれども、振り返ってみるとこの本が大変に良かった。
「読まなくてもいい本」の読書案内 ──知の最前線を5日間で探検する (ちくま文庫)
この本であるが、著者の立場としては

  • 高校生や大学生、若いビジネスパーソン向けに
  • 世にあふれる本が多すぎるという理由から
  • 各分野における「知のパラダイム転換前、後」を概観して
  • 「パラタイム転換前」の本は読書リストから削ってしまえ

という主張の本である。

対象とする分野は

となっていて、切り口も紹介される内容もかなり面白い。
うーん、こんな良き本があったのか、と膝を打った一冊であった。

ビジネス書のおすすめ(マネジメント編)

あまり話題になっていないような気もするけど、本書はズバリ好みの内容だった。
Who You Are(フーユーアー)君の真の言葉と行動こそが困難を生き抜くチームをつくる
前作「HARD THINGS 答えがない難問と困難にきみはどう立ち向かうか」も良かったのだけれども、本書は同書では取り上げられなかった「企業文化」について取り上げるものである。
興味深いのは文中にヒップホップの話が大量に含まれていること(ホロヴィッツはラッパーになりたかったらしい)、一方で我々日本人にはなじみ深い「武士道」「葉隠」「五輪書」も取り上げられているという点である。企業文化について論じるときに何度も紐解きたい一冊である(終章にチェックリストなどがまとめられており便利)。

技術書のおすすめ

いろいろ読んできたけれども、最もお勧めはやはりこれになるだろう。
More Effective Agile “ソフトウェアリーダー”になるための28の道標
タイトルでだいぶ損をしている気がするのだけれども、本書は正確には「アジャイル」の本ではなく、「ソフトウェア開発をうまくやるため」の本である。

アジャイル開発に関するほとんどの書籍はエバンジェリストによって書かれている。エバンジェリストは特定のアジャイルラクティスを提唱しているか、アジャイル全体を奨励している。筆者はアジャイルエバンジェリストではない。筆者は「うまくいくもの」の提唱者であり、「なんの根拠もなく大袈裟な約束をするもの」への反対者である。本書では、意識高い活動としてアジャイルを扱うのではなく、管理的なプラクティスと技術的なプラクティスの集まりとして扱う。ここで扱うプラクティスは、その効果や相互作用をビジネス用語や技術用語で理解できるものである。
More Effective Agile “ソフトウェアリーダー”になるための28の道標「第1章 はじめに」

以前に書いた感想はこちら

この半期の振り返り

割とたくさん本が読めた感覚があったが、タイトル数だけをカウントすると割と普通だった。おそらく分厚い本がネックだったのだと思うのだけれども、電子版には厚みが無いのだ。一方で、いっこうに次に読みたい本が減らないという悩みも続く。引き続き在宅勤務の見込みでもあるので、本の消化が続かないのは気合の問題である。来年は新年から気合を入れて未読本をしばき倒していきたい。

「The DevOps 勝利をつかめ!技術的負債を一掃せよ」(The Uicorn Project)を読んだ #デッドライン読書会

読むのがホネな(積みがちな)技術書やビジネス書を取り上げて2週間の読書期限を課して読んでアウトプットする仮想読書会「デッドライン読書会」の第21回。今回は前回、前半まで読んだThe DevOps 勝利をつかめ! 技術的負債を一掃せよ」の続きである。

本書はジーン・キムのDevOps関連三部作(?)の最終巻である。関連作品との関係などについては以下の記事に書いているので興味があれば参照を。
agnozingdays.hatenablog.com

すべてのシニアエンジニアにおすすめしたい「The DevOps 勝利をつかめ!技術的負債を一掃せよ」全体的な感想

本作は「The DevOps 逆転だ!究極の継続的デリバリー」(タイトルが紛らわしい)の続編であり、最近は増えてきた小説形式のビジネス書である。実は本書を手に取った段階ではちょっと不安だった。前作の「The DevOps 逆転だ!究極の継続的デリバリー」が割とマネージャ向けの内容だったからだ(興味深い内容だったが、その本を読むよりゴールドラット氏の本を読んだほうがいいだろうという感想だった)。

しかし、今はこう言いたい。続編である本書は特にシニアエンジニアにお勧めしたい良書であると

さて本書は(前作同様に)社運を賭けた巨大プロジェクトがトラブルに陥り、そこから回復していく物語である。ただし前作と異なり本作の主人公はシニアエンジニアであるという点が大きく異なる。そして彼女(女性なのだ)は90年代~ゼロ年代風の懐かしいソフトウェア開発を経験しているという点が大きい。

「この会社を動かしているのは、ITのことが全然わかっていない重役たちと俺たちに厳格なプロセスを守らせたがるプロジェクトマネージャー。PRD(製品要求仕様書)を書かせたがる隣のやつに言ってやりてえよ」
全員が笑った。「PRD!」マキシンの顔が曇った。プログラマーの時間を浪費する前に書面による言い訳が必要だった数十年前ならわかる。しかし、今ならPRDを1ページ書く間にほとんどの機能のプロトタイプを作れる。以前なら数百人ものプログラマーが必要だったものが今なら1チームで作れる。
The DevOps 勝利をつかめ! 技術的負債を一掃せよ(第5章 反乱軍)

通底するテーマは「古い文化からの脱却」だと感じている。
なお、本書の前半部はこれでもかというくらいに、古い文化由来のソフトウェア開発のヒドイ事が立て続けに起こる。そこから立ち上がる過程で学べるのは、時代の変化、テクノロジーの進歩、「現代の基準でどうあるべきか」というベストプラクティスだ。

本書で気に入った点

主人公のマキシンのソフトウェア開発に対する姿勢全般がマジでイケていて参考になるのだけれども、一番好きな箇所はここ。彼女がアプリ開発のヒントのために店舗を視察しああと、12ページにもあたる出張報告を書いているくだりだ。

マキシンはいつもたくさんメモを残す。「明快に話すためには、明快に考えなければならない。明快に考えるためには、明快に考えを書けなければならない」というようなことをどこかで読んだことがある。人々に自分が見て感じたことを理解してもらえるように、時間を割いて記録を書き出すのはそのためだ。マキシンは、スマホで撮った写真を添えながら、自分が見たことを客観的に説明するとともに、こうするとよいという提案も書いた。
The DevOps 勝利をつかめ! 技術的負債を一掃せよ(第13章 新たな世界へ)

別にブログ書きだからというわけではないが、自分も「書くこと」についてはこだわりたい。

読後の宿題

物語形式の面白いビジネス書や技術書の難点は、紹介されている様々なテクニックや技術を深堀りするのに他の本を読んだり、調べたりしなければいけないという点である。本書ももちろんそうで、巻末に記載された参考文献などがだいぶ興味深いので追いかけていく必要がある。まだすべてはチェックしていないけれど、以下興味を持ったものをメモ代わりに列挙しておく(自分が興味があるものに絞り込んでおり、本書ではさらに紹介されているものがある)。

やあ、時間が足りない。

「The Unicorn Project」の前半がエンジニア向けのホラー映画だった(ネタバレなし)​ #デッドライン読書会

読むのがホネな(積みがちな)技術書やビジネス書を取り上げて2週間の読書期限を課して読んでアウトプットする仮想読書会「デッドライン読書会」の第20回。今回は「The DevOps 勝利をつかめ! 技術的負債を一掃せよ」の前半(10章まで)までをゴール設定して読んだのだけれども、エンジニア向けのホラー映画だったという話。

The Unicorn Projectについてざっくり整理

この本は(マーケティング的理由だと思うけれど)だいぶ邦題はよろしくない気がする。原題は「The Unicorn Project」であり、ジーン・キムのDevOps関連シリーズの一冊という理解である。

特に2作目の「The DevOps ハンドブック 理論・原則・実践のすべて」は非常に網羅的で、DevOps関連を学ぶという意味ではとても良い本という印象を持っている。

本書を完成させるまでの道のりは長かった。始まったのは2011年2月、共著者たちの間で毎週交わされていたSkypeによる通話で、当時まだ完成していなかったThe Phoenix Project(邦訳『TheDevOps逆転だ!究極の継続的デリバリー』)と対になる処方箋的なガイドブックを作ろうという夢を語ったときだ。それから5年もたって、2千時間を越える仕事の末に、本書は完成してここにある。本書を完成させるまでのプロセスは恐ろしく長いものだったが、とてもやりがいがあり、すばらしい学習のチャンスが無数にあり、当初の見込みよりもはるかに広い話題を取り上げることができた。プロジェクトを通じて、共著者たちは全員、DevOpsは純粋に重要だという信念を共有していたが、その信念は、それぞれのプロとしてのキャリアにおけるかなり早い段階でやってきた個人的な「アハ!」体験によって形成されたものである。そのアハ体験は多くの読者に共感してもらえるのではないかと思う。

類書だとレン・バスの「DevOps教科書」という本もあるのだけれども、こちらはだいぶアーキテクチャ寄りの本である。特にDevOpsの文化的な側面はほとんど触れられていない印象だった。あと「Effective DevOps ―4本柱による持続可能な組織文化の育て方」という本もある(デッドライン読書会の第1回で取り上げて読んでいる)が、こちらはDevOps実践者が読む技術エッセイ集といった感じ。

では本書はどうだろうか。たしか、Release It! 著者のナイガード先生が公開している読書リスト でも推奨図書に選ばれている。というわけで読み始めてみたのだけれども……

恐怖の展開、デスマーチが疑似体験できる

非常に読みやすいし共感もしやすい。一方で詳細を書くとネタバレになってしまうのだけれども、前半(10章)まではエンジニアとして震え上がる展開になっていて精神的な負荷がものすごく高い。先に進むのが怖い。
むしろ、こんな恐怖体験を安全に疑似的に体験できるという意味では非常に稀有な書籍なのかもしれない(前向きな感想)。

  • 主人公はキャリア25年の凄腕シニアエンジニア/アーキテクト。データベースベンダーのドライバを逆アセンブリしてバイナリーパッチを当てるくらい有能
  • 冒頭とある事件で、デスマーチプロジェクトに放り込まれる
  • で、ありとあらゆるひどい事が起こる・・・

っていうのが前半10章の大まかな流れ。いや、もう、お腹痛い。
例えばこれくらいお腹が痛い。
togetter.com

前半で気になったこと

つづく

というわけで後半に突入。ハッピーエンドであることを祈ってる。