勘と経験と読経

略すとKKD。ソフトウェア開発やITプロジェクトマネジメントに関するあれこれ。

エンタープライズアーキテクチャの終焉(また?)

アジャイルもよく終わるけど、エンタープライズアーキテクチャ(EA)もよく終わる。最近読んだ「大規模データ管理 ―エンタープライズアーキテクチャのベストプラクティス」(第1版)でまた終焉してたので考えたことを書く記事。なお読んでいる間に第2版が発売されてしまったようで、しょんぼり。

先に自分の意見を表明しておく

システム構築におけるバイモーダル戦略と同じように、EAにも状況によるグラデーションがあるのではないかと最近考えている。図にするとこんな感じだ。

  • 法制度や規制に近い領域では、静的で強固なEA、より細かく言えばビジネスアーキテクチャBAやデータアーキテクチャDAが要求される
  • 一方で変化する時代や市場に適応すべき領域(加速する世界)では従来型の静的なEAは成立しない。動的なEAに変化することが求められる
  • SoE/SoRはどちらも競争圧力(高度化+コスト圧縮)がかかるので図でいう右上へのシフトが求められ続ける

何が言いたいのかというと、従来型のEAが通用する領域は現在も存在しているのだが、それはひどく小さくなっているということだ。これが現在の私の意見てある。

従来のエンタープライズアーキテクチャの終焉

さて、「大規模データ管理 ―エンタープライズアーキテクチャのベストプラクティス」の話に戻ると終章にて次のようにある。

11.4 従来のエンタープライズアーキテクチャの終焉

エンタープライズアーキテクトの役割は、アーキテクチャそのものと同じくらいに変化するでしょう。(中略)このような役割(戦略家、高度な技術を持つエンジニア、情報管理者)は、従来の「静的なオブジェクトやダイアグラムだけで考え、IT部門の奥深くにいるアーキテクト」という固定観念とは大きく異なります。エンタープライズアーキテクチャ(EA)を実践するには、新しい時代に合わせて、さまざまな役割を行う必要があり、多様な領域に注力しなければなりません。

詳細は同書の11章を参照いただくとして、この後には概ねこんなことが書かれている。

  • 形式化されたモデルやVisioダイアグラムは、動きの激しい現代では通用しない
  • エンタープライズアーキテクト専門家から問題解決者に変わらなければならない
  • コントロール(取り締まり)モデルから脱却して、別の形のガバナンスを実現しなければならない

これは、以下のように言い換えてもよいだろう。

  • 委員会モデル(EA評議会のような)でのデータマネジメントはもうダメだ。つまり企業として単一/標準的なモデルをコンサルタントが策定し、それを個別の各システムに守らせたり、守っていることを証明させるようなマネジメントは現実的ではない。
  • 少なくともデータに関しては、データアーキテクト自らが個別のシステム開発プロジェクトに入り、ビジネスユーザーと一緒にデータモデル上の問題解決を図るようなアプローチを目指すべきだ。

簡単ではないだろうが、理想としてはよく分かる。

Complex Enterprise Architectureへ

そういえば2019年に読んだ「Complex Enterprise Architecture: A New Adaptive Systems Approach (English Edition)」でも、EAを複雑適応系として扱うべき(=静的なものではなく、動的なものとして考える)という話だった。

agnozingdays.hatenablog.com

  • 新EAはトップダウンのアプローチをやめる。企業情報システムの全容を少数のエンタープライズアーキテクトが掌握、管理することは現実的ではない。そこで組織の創発的な行動に任せて、目標の達成方法を把握しながら監視することに集中する。
  • 新EAは各システムの互換性や相互運用を可能とするための規律と制約を策定、共有する。

ただ、この時も書いたのだけれども方向感は納得できる一方で、どのように運用していくべきなのかのイメージがまだついていない。

むしろ現代的にはAI利活用を中心とした巨大なデータプラットフォームを構築してしまい、力業で解決する方向性に言ってしまうという可能性もあるのだろうか。

 

探索は続く……