勘と経験と読経

略すとKKD。ソフトウェア開発やITプロジェクトマネジメントに関するあれこれ。

2024年上半期に読んだ本まとめ

2024年1月~6月に読んだ本のまとめ。カウント対象は期間中に読み終わったものに限り、読みかけの本は対象外としている。あとコミック、漫画雑誌類もけっこう読んでいるのだけれども、これは除外。
この6カ月では68冊の本を読んだらしい。感覚的には平常運転。

いつもどおり半期で読んだ本の中で良かったものをピックアップしてみる。

文芸書のおすすめ(一般編)

万人におすすめしたいとすれば村上春樹さんの最新作である「街とその不確かな壁」になる(内容も文章も含めて完璧な小説!)だろうし、ガツンと頭を殴られるようなインパクトを感じたいのであれば賞も取った「ハンチバック (文春e-book)」も素晴らしいが、この半年の読書を振り返ると、赤川次郎さんのこの連作をピックアップしたい。

「ふたり」は映画にもなった赤川次郎さんの代表作で、1989年の作品である。当時の自分が読んだのかは記憶がおぼろだけれど、今改めて読むと「そうそう、赤川次郎さんの小説ってこんな感じだった!」という良い小説である。なつかしさと、小説そのものの面白さが楽しいのだ。
そして「いもうと」。そもそも「ふたり」を改めて読んだのは本作(2022年刊)が発表されたからなのだ。30年ぶりに出た続巻ということで、さてどうだろう。これが読み始めたらびっくりである。なぜなら、マジで何事も無かったように、つづきなのだ。30年ぶりに出た伝説の小説の続編だったら、何か大きな仕掛けを予想してしまうのではないだろうか。仕掛けはない。おもむろに前作の終わったところから中断もなく日常が続いているのである(ただ、その後に作品内で10年くらいの年月は流れていく)。

別にそういったSFではないのだけれども、タイムトラベル感のある良い読書ができるので、未読であればおすすめしたい。

文芸書のおすすめ(趣味のSF編)

SF小説じゃねーだろ!というつっこみを受けそうだけど、これ。ほぼSF。

有名なイーロン・マスク氏の2023年4月までの伝記であるが、キャラが立ちすぎていて、イベントが多すぎて大変に面白いのだ。特に下巻は時間の流れがおかしいというか事件が起きすぎている。もちろん現在進行形の話ではあるのだけれども、続巻には「三体」のような驚天動地の展開が期待されるので、ほぼSFだろう。楽しむなら早くに読んだ方がよさそう。

教養書のおすすめ

この本は大人は全員読んだ方がいいと思うくらい良い本だった。

倫理学と言われると一般的には「道徳」を想起させてウェーッとなる人も多そうな気がするが、ちゃんと学ぶとたいへん役に立つのだ。本書でもこう書かれている。

まえがきに書いたように、この本は倫理学の専門知識を学ぶためのものではありませんでした。では、この本を読んで何が分かる、何ができるようになるか。それは、簡単に言うと、あれこれあーだこーだと迷うような場面で倫理的な判断ができて答えが出せるようになる、少なくとも、自分たちが人生を生きているいろんな場面の意味が理解できるようになるということです。
ふだんづかいの倫理学、序章 この本の使い方 より

ビジネス書のおすすめ

鬼時短―電通で「残業60%減、成果はアップ」を実現した8鉄則」は有用度が高かったのだけど感想を書いたので、ここでは別の本を取り上げたい。

最近もよく話題となるジョブ型雇用だが、12年前に著者の 濱口さんが「新しい労働社会」という本で取り上げたのが流行(?)のきっかけだったようである。一方で、著者から見るとジョブ型雇用の誤解もはなはだしい。というわけで改めて日本の労働問題を整理するという本であるが、切れ味鋭く大変に参考になるものであった。その射程は雇用問題だけでなく、学び直しやリスキリング、高齢者雇用、ワークライフバランスからメンタルヘルスまでに至っている。社会や会社に対して不満があったら、まず読んでおくと良さそう。新書なので気軽に読めるのもポイントは高い。

技術書のおすすめ

有用性という意味では、長らく積んでいた「ソフトウェアアーキテクチャの基礎 ―エンジニアリングに基づく体系的アプローチ」や「詳解 システム・パフォーマンス 第2版」などが読めたのは良かった。どちらも大変に参考になるが読むのも大変だった。

また、以前から気になっていた「リーダーの作法 ―ささいなことをていねいに」はマネージャ向けのエッセイ集ということで気軽に読めるし気づきは多い良い本だという感想。

あなたが手にしているこの本(紙であれ電子書籍であれ)は、私がマネージャーになった最初の数年間に、しっかりとしたサポートを受けられなかったことへの不満から生まれたものです。
リーダーの作法 ―ささいなことをていねいに、第I幕の冒頭より

この書き出しが期待値を高めたが、内容は期待以上だった。おすすめ。

この半期の振り返り

最近は意識して新書を手に取るようにしるので、結果として読んだ本数は増えている。近著で話題になった本だけでなく古い岩波新書については読んでみたいリストが詰みあがっているので、これを減らしていきたいのだ。もちろん新しい本も読んでいくのだけれども名著にも当たっていきたい。最近だと「なぜ働いていると本が読めなくなるのか (集英社新書)」(こちらも読みたいのだが、まだ未読)が話題だが、まあ趣味なので気にせずやっていこうと思う。今年の後半は、積んでいる大著「万物の黎明~人類史を根本からくつがえす~」を読み切りたい。いやー楽しみだ。

2024年上半期に読んだ本

  1. 詳解 システム・パフォーマンス 第2版
  2. ふだんづかいの倫理学
  3. 熟達論―人はいつまでも学び、成長できる―
  4. 三つの棺〔新訳版〕
  5. All You Need Is Kill (集英社スーパーダッシュ文庫)
  6. 今を生きる思想 宮本常一 歴史は庶民がつくる (講談社現代新書100)
  7. 批評理論入門: 『フランケンシュタイン』解剖講義 (中公新書 1790)
  8. 方形の円 偽説・都市生成論 (創元SF文庫)
  9. ラウリ・クースクを探して
  10. リデザイン・ワーク 新しい働き方
  11. ツインスター・サイクロン・ランナウェイ2 (ハヤカワ文庫JA)
  12. イーロン・マスク 上 (文春e-book)
  13. なぜ私たちは燃え尽きてしまうのか
  14. オリーヴ・キタリッジの生活 (ハヤカワepi文庫)
  15. 独学の思考法 地頭を鍛える「考える技術」 (講談社現代新書)
  16. イーロン・マスク 下 (文春e-book)
  17. NHK 100分 de 名著 ローティ『偶然性・アイロニー・連帯』 2024年 2月 [雑誌] (NHKテキスト)
  18. 会話を哲学する~コミュニケーションとマニピュレーション~ (光文社新書)
  19. 標本バカ
  20. 世界標準の経営理論
  21. ソフトウェアアーキテクチャの基礎 ―エンジニアリングに基づく体系的アプローチ★書評①
  22. 実験の民主主義-トクヴィルの思想からデジタル、ファンダムへ (中公新書 2773)
  23. 目の見えない白鳥さんとアートを見にいく (集英社インターナショナル)
  24. 目的への抵抗―シリーズ哲学講話―(新潮新書)
  25. ジョブ型雇用社会とは何か: 正社員体制の矛盾と転機 (岩波新書 新赤版 1894)
  26. NOVA 2023年夏号 (河出文庫)
  27. 街とその不確かな壁
  28. マルドゥック・アノニマス 4 (ハヤカワ文庫JA)
  29. 自由と規律: イギリスの学校生活 (岩波新書 青版 17)
  30. マルドゥック・アノニマス 5 (ハヤカワ文庫JA)
  31. 冒険の書 AI時代のアンラーニング★書評
  32. 仕事と家族 - 日本はなぜ働きづらく、産みにくいのか (中公新書)
  33. INSPIRED 熱狂させる製品を生み出すプロダクトマネジメント
  34. ポートスキャナ自作ではじめるペネトレーションテスト ―Linux環境で学ぶ攻撃者の思考
  35. 数学入門 上 (岩波新書)
  36. 楽園とは探偵の不在なり (ハヤカワ文庫JA)
  37. サーバントリーダーシップ
  38. 数学入門 下 (岩波新書)
  39. 岩波新書をよむ―ブックガイド+総目録 (岩波新書)
  40. ハンチバック (文春e-book)
  41. ランサムウエア追跡チーム はみ出し者が挑む、サイバー犯罪から世界を救う知られざる戦い
  42. ちっちゃな科学 - 好奇心がおおきくなる読書&教育論 (中公新書ラクレ 551)
  43. ふたり (新潮文庫)
  44. 今を生きる思想 西田幾多郎 分断された世界を乗り越える (講談社現代新書)
  45. いもうと(新潮文庫)
  46. データモデリングでドメインを駆動する──分散/疎結合な基幹系システムに向けて★書評①
  47. マルドゥック・アノニマス6 (ハヤカワ文庫JA)
  48. 客観性の落とし穴 (ちくまプリマー新書)
  49. チク・タク・チク・タク・チク・タク・チク・タク・チク・タク・チク・タク・チク・タク・チク・タク・チク・タク・チク・タク (竹書房文庫)
  50. 大規模データ管理 ―エンタープライズアーキテクチャのベストプラクティス
  51. アジャイル品質パターン「QA to AQ」 伝統的な品質保証からアジャイル品質への変革(CodeZine Digital First)
  52. ルワンダ中央銀行総裁日記 [増補版] (中公新書)
  53. わたしたちの怪獣 (創元日本SF叢書)
  54. 未来経過観測員 (角川書店単行本)
  55. マルドゥック・アノニマス7 (ハヤカワ文庫JA)
  56. 数理モデル思考で紐解くRULE DESIGN -組織と人の行動を科学する-
  57. 鬼時短―電通で「残業60%減、成果はアップ」を実現した8鉄則★書評
  58. マルドゥック・アノニマス8 (ハヤカワ文庫JA)
  59. 人生が整うマウンティング大全
  60. 皆勤の徒 -Sogen SF Short Story Prize Edition- 創元SF短編賞受賞作
  61. リーダーの作法 ―ささいなことをていねいに
  62. 組織の<重さ>―日本的企業組織の再点検 (日本経済新聞出版)
  63. 歴史とは何か 新版
  64. 生物から見た世界 (岩波文庫)
  65. 観光客の哲学 増補版 ゲンロン叢書
  66. ダリア・ミッチェル博士の発見と異変 世界から数十億人が消えた日 (竹書房文庫)
  67. ファラオの密室
  68. 宮本常一『忘れられた日本人』 6月 (NHKテキスト)

過去の読書ふりかえり記事

あと過去にこんなのも書きました