2020年4月から放送大学の教養学部「人間と文化コース」に入学して、これまで勉強してこなかった人文系の勉強を始めている。4年目前期が終わったので感想をまとめておく。
目次
もうすぐ50のオッサンが放送大学の全科履修生として気ままに授業を取っている。理系の大卒資格は取っているので卒業をゴールにはしていないのでペースはゆるめ。というわけで4年生だが特にあせりもない。なお、大学生として各種の学生割引は利用しているし、放送大学の図書館サービスを経由して論文や業界紙へのアクセスも可能なので割とお得な趣味である。授業はBSで放送もされているが入学すれば放送授業は全話ネットで視聴できるので好きなペースで進めることができる。
4年目前期に受講した科目
卒業を目標にしていないので、半期に2科目受講+1科目聴講を目安にしている。放送大学に入学した目的は人文系の教養力アップなので、芸術系、哲学系、文化人類学系を中心に選ぶようにしている(が、最近は心理学系も気になっている)。この半年で受講した科目はこちら
より良い思考の技法(’23)
情報を的確に評価し、合理的に考えてより良い判断を下すための実践的な思考法が「クリティカル・シンキング(批判的思考)」である。これは相手を否定する「批判」ではなく、自分の推論を意識的に吟味する内省的・熟考的思考であり、また証拠にもとづく論理的で偏りのない思考法である。本講義では、さまざまな学問領域、市民生活、職業実践に共通する汎用的思考スキルとしてクリティカル・シンキングの基本を学び、さらに「実践」として現代社会の具体的な問題場面への適用を考えていく。
- 認知心理学者の菊池聡先生による新設科目。映像講義だが非常に演出が凝っておりとても楽しく学ぶことができる。また息抜きとして途中に「錯覚シアター 思考のツボ」という楽しいコーナーが挟み込まれている。この構成は菊地先生の「錯覚の科学」という授業と同じようだ
- 興味のきっかけは以前に読んだ「哲学思考トレーニング (ちくま新書)」が大変面白かったから。なお同書著者の伊勢田は本講座の第5回の講師としても登場する
- 全般を通じて、事例紹介も使いながら哲学的思考・クリティカルシンキングについて学ぶことができる、とても良質な講義だった。論理学や社会学もカバーしており、とても良い。そして終盤では心理学や行動経済学などで時々話題となる「再現性の危機」といったテーマまでカバーしている。おすすめ
日本仏教を捉え直す(’18)
今日、仏教研究は次第に新しい進展を見せ、従来の常識は大きく書き換えられつつあるが、それらの研究成果が必ずしも広く共有されているわけではない。本講義では、3人の講師によって、日本仏教に関する最新の成果を披露し、常識的な理解を見直すことを目指す。頼住講師は、主要な日本の仏教者の思想を取り上げ、現代の場からこれらの思想の読み直しを迫る。大谷講師は、近年大きく進展した近代仏教研究の成果を披露し、現代につながる問題を考える。末木講師は日本仏教の深層の発想を捉え直して、それが今日どのような意味を持つか考える。3人の講師により異なる視点から照射することで、日本仏教の豊かな内容が立体的な視点から明らかにされるであろう。
- ラジオ講義。基本的にはテキストに沿って進めていく形式である
- もともと哲学に興味があって放送大学に入学し、これまで西洋哲学についていろいろ触れてきた。ここで東洋哲学にも触れたいとおもって選択した講座。身近だけれども知らなかった知識が多く、教養的な意味でも大変によい講義選択だった。
- 前半は代表的な仏教思想(宗派)の概説。過去に日本史という枠組みで触れてきたかもしれない内容だが、仏教に絞って説明されると理解はし易い。日常的に観光でお寺に行くことはあるが、まったく何も自分は理解していなかったことを恥じる。解像度が上がることが楽しい。
- 中盤は仏教の近代化、後半で現代におけるわれわれの生活と仏教の関係性などについて論じる。葬式や墓参りなどについても、そんなこと考えたことがなかったという話が多くて、たいへんに勉強になった。
新しい言語学(’18)
言語学の中でも比較的最近発展してきた領域と方法論を取り上げて講義する。なかでも、言語に対して心理や社会の観点からアプローチする認知言語学、言語習得論、談話分析、社会言語学に着目する。それらは、心理や社会という観点を通して人間にとって言語がどのような位置にあるのかを明らかにしてくれるだろう。
- ラジオ科目だが、テキストを読み上げるのではなく主任講師の滝浦先生と各回担当講師の掛け合いで進んでいく形式
- 従来的な「旧 言語学」と対比的に近年提唱される「新しい言語学」を紹介していくという概論的な内容。各回の内容は浅めだが、私のように言語学とは何かがそもそも理解できていない人にとっては、どの分野に興味があるのかを知れる良い講義だと思う
- 興味をもったきっかけは、ソフトウェア設計で有名な増田さんが、認知言語学や社会言語学の重要性についてSNSでつぶやいていたから。受講してみると、なるほどと感じるところはあった
- 受講して興味を持ったのは「談話分析」である。講義や参考文献では主に口頭会話を中心にしているが、SNSやチャットでのやりとりなどにも応用できそう
来期(4年目後期)の予定
以下を受講予定。
- 考古学〔新訂〕 (放送大学教材)
- 社会と産業の倫理 (放送大学教材)
- もう1~2科目聴講したいと思っているのだけれども悩み中。とりあえず来週に受験する情報処理技術者試験が終わってから考えようと思う(履修登録をせず、テキストを購入して授業を聴くだけなので、いつでもスタートできる)
これまでの記録
受講の感想
- 若手が育たないとか言っている暇はもう無い - 勘と経験と読経
- コンフォートゾーン外の学びの為にエンジニアが放送大学に入学してみた - 勘と経験と読経
- アラフィフ理系が放送大学の教養学部に入った記録(1年目前期完了) - 勘と経験と読経
- おっさんエンジニアの放送大学教養学部に入学記録2(1年目後期終了) - 勘と経験と読経
- 教育心理学はソフトウェア開発に活用できるか(教育心理学特論を読み終えて) - 勘と経験と読経
- おっさんエンジニアの放送大学教養学部に入学記録3(2年目前期終了) - 勘と経験と読経
- おっさんエンジニアの放送大学教養学部に入学記録4(2年目後期終了) - 勘と経験と読経
- おっさんエンジニアの放送大学教養学部に入学記録5(3年目前期終了) - 勘と経験と読経
- おっさんエンジニアの放送大学教養学部に入学記録6(3年目後期終了) - 勘と経験と読経
これまで受講した科目
- 哲学・思想を今考える(’18):1年目前期
- 西洋芸術の歴史と理論(’16):1年目前期
- 総合人類学としてのヒト学(’18):1年目前期
- 博物館概論(’19):1年目後期
- 文学・芸術・武道にみる日本文化(’19):1年目後期
- 西洋哲学の起源(’16):1年目後期
- 教育心理学特論(’18):1年目後期 ※大学院科目の聴講
- 「人新世」時代の文化人類学(’20):2年目前期
- 日本美術史の近代とその外部(’18):2年目前期
- 現代フランス哲学に学ぶ(’17):2年目前期
- 記号論理学('14):2年目後期
- 舞台芸術の魅力('17):2年目後期
- 西洋音楽史(’21):3年目前期
- レジリエンスの諸相(’18):3年目前期
- 心理学概論(’18):3年目前期
- 現代の危機と哲学(’18):4年目前期
- アメリカの芸術と文化(’19):4年目前期
- 中高年の心理臨床(’20):4年目前期