勘と経験と読経

略すとKKD。ソフトウェア開発やITプロジェクトマネジメントに関するあれこれ。

コミュニケーションの質を上げろ!『組織を変える5つの対話』を読んだ

読むのがホネな技術書やビジネス書を取り上げて2週間の読書期限を課して読んでアウトプットする仮想読書会「デッドライン読書会」の第68回。同僚と読書期限を約束することによって積読が確実に減るという仕組み。過去記事はこちら

さて、今回読む本は「組織を変える5つの対話 ―対話を通じてアジャイルな組織文化を創る」である。

なお私は電子版で読む派なのでよくわからないのだが、物理書籍派のバディから「けっこう分厚いっす」というタレコミがあったので今回は1週間延ばして3週間で読んだ。確かに2週間はちょっと難しかったかも。

『組織を変える5つの対話』の概略

ひとことで言うと、アジャイル開発を下敷きに「組織内部のコミュニケーションの質を上げる」ことにフォーカスをあてた本である。よって説明に利用される事例もソフトウェア開発プロジェクトではあるがアジャイル色は薄い。メンバー全員が効果的に働く自律的なチームを実現するために、どのような点に留意してコミュニケーションをすべきかという課題は様々な仕事で応用が聞くだろう。そういう意味では誰にでも有用な本だと思う。

一方で、そのようなチーム構築を目指す必要がない仕事も存在する。例えば(私が所属しているような)受託開発を行うSIerである(ぎゃふん)。ただ、そういった場合でも活用できるテクニックや考え方が参考になるので読む価値はあるだろう。

訳者の和智右桂さんの紹介がより詳しい(そして正しい)。
digitalsoul.hatenadiary.org

テイラー主義からの脱却

本書の大きな流れの根底には、テイラー主義からの脱却というものがある。

自分たちがどう変わるべきかを理解するために、自分たちが育った文化を理解しましょう。本章で述べるように、私たちはまだソフトウェア工場という大量生産のパラダイムからまだ脱却しきれていません。
組織を変える5つの対話 ―対話を通じてアジャイルな組織文化を創る、1章 ソフトウェア工場からの脱却 より

テイラー主義はもはやあらゆるところで語られているのだけれども、本書はコミュニケーションの課題に着目して再整理がされており新鮮であった。詳細は書籍を手に取っていただくとして、要旨はこんなところだろう。

  • 工場の生産性向上のためにテイラー主義(科学的管理法)が誕生
  • 工場で機械式組み立てラインのために編み出されたテイラー主義が、ソフトウェア産業のオフィスに持ち込まれた
    • 組み立てラインのないソフトウェア産業において、組み立てラインにかわるものとして「紙」が導入された
  • 文書駆動のソフトウェア開発が追求されるが、うまくいかなかった
  • 人間中心アプローチへの回帰(アジャイル、DevOps等)

ただ著者によれば、アジャイル開発を採用しているにも関わらず、マインドセットやコミュニケーションの質が従来の(テイラー主義に影響を受けた)文化のままであるという事例も多いという。そういった事例のメタファーとして著者は「フィーチャー工場」をあげている。ここから脱却するためにはコミュニケーションの質を大きく改善しなければならない、というのが著者の主張である。異論はない。

『組織を変える5つの対話』は、日本のソフトウェア産業での活用は可能か

というわけで本書は大変に良い本なのだけれども、一方で日本のソフトウェア産業で活用できるかというと色々と課題もありそうだ。

冒頭でも少し触れたが、新たなデジタルツールを活用した新規事業や新しいテックカンパニーであれば問題はないだろう。しかし(この言い方はちょっと語弊があるのだけれども)最近JTCと呼ばれるような、SIerやソフトウェア開発サービスを提供する企業やチームにとっては、少し難しそうではある。受発注の関係でビジネスオーナーとデベロッパーが分断されているようなケースがそれにあたるだろう。

とはいえ本書で紹介されているテクニックを個別の課題に適用するという使い方もある。「人のためのテスト駆動開発」、「辻褄合わせからの脱却」、「共同設計」、「ウォーキング・スケルトン」、「指示に基づく柔軟対応」といったテクニックはそれぞれが興味深く、シチュエーションによって利用できそうだ(個人的に気に入ったし、すぐに使いそうなのは「人のためのテスト駆動開発」である)