勘と経験と読経

略すとKKD。ソフトウェア開発やITプロジェクトマネジメントに関するあれこれ。

「スタッフエンジニア マネジメントを超えるリーダーシップ」をマネジメントの観点で読んだ

読むのがホネな技術書やビジネス書を取り上げて2週間の読書期限を課して読んでアウトプットする仮想読書会「デッドライン読書会」の第57回。同僚と読書期限を約束することによって積読が確実に減るという仕組み。過去記事はこちら

さて、今回取り上げるのは界隈では有名な「スタッフエンジニア マネジメントを超えるリーダーシップ」である。スタッフとは参謀の意で、超上級・幹部エンジニアに関する本である。

なお本書は英語で良ければ以下のサイトで読むことができる

著者のWill Larsonさんは現在はStripeやUberでエンジニアリーダー等をされてきた人。本書以外では「An Elegant Puzzle: Systems of Engineering Management (English Edition)」というエンジニアリングマネージャーに関する本が有名だがこちらは未翻訳(そして未読)。iwashiさんの紹介スライドが詳しい。
来年「The Engineering Executive's Primer」 という本が出版予定で、さらに上位のエンジニアリング職について論じるようだ。

なぜこの本を読もうと思ったのか

自分は現在はマネージャー側の立場であり、本書のテーマである「スタッフエンジニア」を目指しているわけでもない。それでも本書に興味を持った理由は次のようなものだ。

  • 周囲のスタッフエンジニア的、または志向があるメンバーへのアドバイスをするため
  • 所属組織における今後の検討材料として。残念ながらベンチャー企業および外資系を除いて、日本の企業にはそもそも「スタッフエンジニア」的概念が現在はない。所属組織でも同様である。しかしいずれは、こういった議論が本格的に必要だと考えているのだ
  • あとは単純な興味本位

……という、割と不純な動機で手に取った本書であるが、想像以上のいろいろな刺激を受けることができた良い読書であった。

全体的な感想

類書としては「エンジニアのためのマネジメントキャリアパス ―テックリードからCTOまでマネジメントスキル向上ガイド」を以前に読んでいるのだけれども、同書は海外事例でありテックベンチャーで若くしてCTOやVPoEを目指すという内容であり、なかなか日本企業で参考にするのは厳しいと思っている。いっぽうで本書は想定としているビジネス規模も大きく、中大規模の組織におけるスタッフ(幹部)エンジニアのありかた、役割、周囲との関係性が深く掘り下げられているので参考になる点が多いと思った。

これは私のようなマネージャにとっても有益で、例えば以下のような悩みを解決するヒントが得られたような気がする。

  • スタッフ(幹部)エンジニアのモデルがイメージできるようになったので、何をまかせるべきかが明確になりやすい。
  • また評価の際の参考にもなる。(自分はあまり経験がないが)組織の中でもトップレベルのエンジニアの評価はけっこうな難しさがあるはずなので、本書のような基準があるのは会話の土台として良いはずだ。

なお本書の付録にズバリな項目もあるのがお得だった。

スタッフプラスエンジニアの管理
StaffEngへ送られてくるフィードバックのなかに、「もっとスタッフプラスエンジニアの管理に関するコンテンツを」という要望があった。この話題は本書──会社やマネジャーではなく、スタッフプラスエンジニアをテーマとした本──で扱うには適していないが、興味深いトピックなので、ここで付録として論じたいと思う。
スタッフエンジニア マネジメントを超えるリーダーシップ、補章 より

この項目はマジで参考になる。

その他の気になったこと

「部屋」の話がおもしろくて参考になる

本書では、経営会議などトップマネジメントが会社の方針を決定する場所を「部屋」と呼んでいて、

  • 部屋への入りかた
  • 部屋にとどまる方法
    • 話し方
    • 追い出されない方法

などの説明は、スタッフエンジニアに限らず参考になる。

A・グローブの「HIGH OUTPUT MANAGEMENT」推しの人が複数いた

本書の後半は様々な企業のスタッフエンジニアへのインタビューで構成されているのだが、「HIGH OUTPUT MANAGEMENT」を推している人が複数おり、ちょっと驚いた。同書はかなり骨太のマネジメント論である。毎年読み返しているという人もいる。自分が本書を始めて読んだのは8年前。時々思い出したように少しだけ読み返すことはあるが、本格的な再読は行っていない。読み直すか~。

本書のオススメの読み方が巻末の「解説」に書かれている

最近このパターンが多いので、かならず監修・監訳者の解説がある場合にはそこを最初に読むようにしているのだが、本書も末尾の「解説」から読むのがお勧めである。

私のおすすめの読み方は、まず第5章のインタビューを2~3人分読んでから、第1部を読み進めることです。とくにある程度経験を積まれたエンジニアの方は、第5章に登場するスタッフエンジニアの具体的なエピソードに大いに共感されることと思います。その共感を胸に第1部を読むことで、スタッフエンジニアに求められる役割が自然と腑に落ちるのではないでしょうか。
スタッフエンジニア マネジメントを超えるリーダーシップ、解説 より