勘と経験と読経

略すとKKD。ソフトウェア開発やITプロジェクトマネジメントに関するあれこれ。

「Gitlabを学ぶ」を読んだ

読むのがホネな技術書やビジネス書を取り上げて2週間の読書期限を課して読んでアウトプットする仮想読書会「デッドライン読書会」の第58回。同僚と読書期限を約束することによって積読が確実に減るという仕組み。過去記事はこちら

さて、今回取り上げるのは有名な「GitLabに学ぶ 世界最先端のリモート組織のつくりかた ドキュメントの活用でオフィスなしでも最大の成果を出すグローバル企業のしくみ」である。フルリモートで有名なGitlab社について惚れ込んだ著者が同社の働き方を日本企業向けに紹介するという本である(監修にGitlabで働いている方も参加している)。

なぜこの本を読もうと思ったのか

Gitlabは先進的な働き方をしている企業として有名で、日本では例えばデブサミで2022年に行われた以下の講演なども話題になっている。

codezine.jp


わたしもこの講演はチェックしていて、いろいろ刺激も受けている。
そしてGitlabはこういった働き方等について、オープンに文書を公開している……のだけれども、内容が膨大なのでパラ読はしたが「あとで読む」状態のまま、ほったらかしにしていたのが実情である。

というわけで、読むのが骨なGitlabのHandbookを見どころを中心に紹介してくれる本書は、大変にありがたい。

全体的な感想

本書の著者の千田さんは、現在はLAPRASという会社で人事責任者をされているそうだ。自社でもGitlab Handbookを参考にした改革を推進されているとのこと。実際に同社もGitlabにならってハンドブックを公開している。

本書はそんな著者が自組織にGitlab的な考え方を導入するにあたって調べまくった(だろう)内容が惜しげなく共有されているという意味で、とても良い本となっている。
ただ、残念な点は 技術者視点がほとんど入っていない というところだろう。目次を見てもわかるが、Gitlab Handbookの中のエンジニアリングの章はほとんど紹介されていないのだ。

とはいえ、足りない観点は自分でGitlab Handbookを読めばいいわけで、まずは読むとっかかりとして本書を足がかりにすればいいんだろう。

Single Source of Truth を日本企業で持てるか

Gitlabでは、Handbookを信頼できる唯一の情報源(Single Source of Truth:SSoT)として全ての情報をHandbookにまとめ、あらゆる判断に利用しているそうだ。実際に著者の企業でも試行中のようだし、他にもテック企業では開発部門などで試行している事例はあるようだ(どこかにまとまってませんかね)

とはいえ、こういった試みが成立しそうなのは小規模な企業とか若い企業に限定されるような気もする。
トラディショナルな日本企業であれば一般的に職務規定や就業規則が必ず存在すると思うのだが、これらはGitlab Handbookとは真逆の存在だ。従業員でも頻繁に閲覧せず、クローズドで、ハイコンテキストなものになっている。ここから転換(反転)してオープンで明確なSSoTを基準としたしごとのしかたを実現するのは、だいぶ難しそう。そういう意味では先ほど紹介した事例のように、まずはエンジニアリング組織を中心にトライしていくのが早道かもしれない。

というわけで本書は読了。次は何を読もうか。最近気になっている本はこんな感じ。