読むのがホネな技術書やビジネス書を取り上げて2週間の読書期限を課して読んでアウトプットする仮想読書会「デッドライン読書会」の第73回。同僚と読書期限を約束することによって積読が確実に減るという仕組み。過去記事はこちら。
さて、今回読む本は「エンタープライズアーキテクチャのセオリー」である。 エンタープライズアーキテクチャ(EA)は正直なところ現代ではあまり話題になっていない方法論だが・・・
エンタープライズアーキテクチャの簡単なおさらい
さて議論の前提として、エンタープライズアーキテクチャの定義をおさらいしておこう。本書の筆者の言葉を引用すると
「企業や政府などの大きな組織において、階層構造をなすビジネス、データ、アプリケーション、テクノロジーの各層の構造を、重複なく全体最適の視点から計画し設計する取り組み」
- エンタープライズアーキテクチャのセオリー 1.3 EAの定義を再確認する より
この取り組みの活動として、EAでは四階層のアーキテクチャを想定して自社像と方針を整理するというのが一般的な理解だろう。
この考え方は最初に登場したタイミングでは大いに注目され、さまざまな企業がチャレンジしていったと認識している。
そして残念ながら、ほとんど忘れられたとも言える。それはどうしてだろう。私の考えは以下の通りだ。
- アウトプットが難解なドキュメント(モデル)になりがちだった
- コンサルを中心に資金を投入して作成することはできたが、継続的にドキュメントを更新することは難しかった
- 理解することも難しかった。結果として(せっかく作成した)EA文書と乖離した企業内のシステム開発が横行した
- 難解ゆえに、本来活用すべき(当時の)企業のマネジメント層もきちんと理解し、活用することが難しかった
- 活用しても効果がすぐに測定できるものではなかった
- 結局はドキュメントだった
システム部員「あー、EAって私のプロジェクトでも考慮しなきゃいけないの?えっ必須?!ヤバいベンダーさんに伝えてないよ~」
ベンダー「もう開発フェーズなのでけっこうな手戻りになるのでコストも増えるしスケジュールも伸びますけど、どうしましょう」
システム部員「ひえー、とりあえず今のままで進めましょう。なんとかごまかす方法を考えますね」
注:創作です
ではこの課題を含んだEAについて本書はどのようにアプローチしているのだろう。
EAに「データHUB」と「サービスHUB」で実態を与えるアプローチ
さて本書ではEAのアプローチとして、計画方法やドキュメンテーションの方法の実践的なアドバイスも盛り込まれているが、重要なポイントは「データHUB」と「サービスHUB」をEAを実体化させる仕組みとして構築することを提唱していることだろう。特にEAのうちデータアーキテクチャ(DA)を実体化させた「データHUB」がポイントである。データウェアハウスを構築する企業は多いが、筆者はそれを拡張して企業情報を各システムからうまく分離する方法を提唱していると言える。
その具体例は本書で多数示されるが、興味があれば著者の以下のブログ記事なども参考になるだろう。
www.it-innovation.co.jp
なお本書ではデータHUBの実装面での課題まではフォローされていないが、イメージ的には「大規模データ管理 第2版 ―データ管理と活用のためのモダンなデータアーキテクチャパターン」が参考になるはずだ(もっとも同書はEA的アプローチ自体は否定している点も興味深い。その結論として結局は類似のソリューションを導出しているということは、企業にとってこの種の仕組みは不可欠ということでもあるだろう)。
社内IT部門は表舞台に出て闘えるのか?
本書のもう一つのテーマは「IT部門が裏方から表舞台に出る」だ。
事業運営におけるITの役割は、従来の楽屋裏から、いよいよ表舞台に出ることになりました。DXは社内のデジタル化のみならず、社外の顧客との接点にも影響を与えます。このことは、企業ITが売上貢献に寄与するプロフィットセンターへと変貌を遂げたことを意味します。
このDXを推進する中心人物として、社内IT部門は否応なしに企業活動の表舞台に立つことになりました。問題は、社内IT部門またはIT子会社がこの状況に立たされた際に、「いよいよ自分達の出番が来た!」と受け止めるか、それとも「表舞台は自分達の性分には合わない」と尻込みするかです。長い間の脇役が、いきなり「主役を張れ」と言われたら、戸惑っても不思議ではありません。
エンタープライズアーキテクチャのセオリー、1.2 長い間の裏方から表舞台へ より
実際この変化は様々なところで見聞きするものであり、とまどいや混乱が起こっている実感もある。本書ではこの課題に対する処方箋も示されているので興味があれば参照すると良いと思う。
というわけで、EAを中心に非常に刺激的な内容だった。いろいろ参考にさせていただきたい。
さて、この仮想読書会も今年は本書でラストである。特に終了する予定はないので、来年もコンスタントに本を読んでいきたい。
現時点で積んでいる未読本はこんな感じ。来年も忙しそうだ