昨年に亡くなった、特にソフトウェアテストの世界で有名な電気通信大学の西康晴氏(にしさん)という方がいる。私は残念ながら直接お会いしたことはなかったのだけれども、X(旧Twitter)での発言や様々なコミュニティでの発表など、とても参考にさせていただいていた。このにしさんの業績を関係者の皆さんが様々に語るという書籍が「にしさんの教え: 日本のテストコミュニティを作った男」である。コミュニティベースの電子出版ということで価格も抑え目(しかもKindle Unlimited会員なら無料)ということでさっそく購入して読んでみた感想を書いてみる。にしさんの事をあまり知らなくても、大いにヒントや知見が得られる本となっている。
ものすごく「ちゃんとしている」ソフトウェアテストのコミュニティ
本書の副題は「日本のテストコミュニティを作った男」であるが、実際に日本のテストコミュニティはものすごくちゃんとしていると(本書を読む前から)思っていた。
- 産学連携
- 教育制度とプログラム
- 経験ノウハウを共有する継続的なコミュニティ
が三位一体で実現できているように見えるのだ。
ソフトウェアの開発は様々な活動の集合体で、テスト以外にも要求開発、アーキテクチャ、設計、実装、インフラ、運用など様々な分野がある。しかしこの中でテストコミュニティだけが突出して上記のような条件を満たしている。その他の領域については突発的にムーブメントが起こっても継続できなかったり、産業側(例えば特定のベンダー)が強くなりすぎてバランスを欠いたり、科学的ではないコミュニティーだけが成長してしまってしまうことが多いように考えている(そうではない領域があったらすいません、それは筆者の知識不足である)。
ということは前々から感じていたのだけれども、改めてこのソフトウェアテストのコミュニティというのはにしさんという方が戦略的に(そして情熱的に)組み立てていたというのが本書を読むと改めてわかる。
そんなテストコミュニティの72人もの方が書いた小論・エッセイである本書が有用ではないわけがないだろう。
ホログラム的に再構築される、にしさんの教え
さて、本文中でも何度か言及されるのだけど、にしさんの教えというか考えていたことは実はインターネット上で散在してしまっている。ご自身がブログなどを書いたり資料を(例えばSlideshareやSpeakerDeck的なプラットフォームに)集約していなかったので、各種のイベントサイトにPDFが置いてあるだけという状況なのだ。
本書はこういった貴重な「にしさんの教え」を様々な関係者が、自分自身の推しコメントとともに紹介している。これを読みながらリンク先の資料などを読んでいくことによって疑似的に「にしさんの教え」が読者の中に再構築されるという仕組みになっていると思う。もちろん人によって推しポイントや紹介の仕方は違うのだけれども、読み終わってみると心に残って非常に良かった。
なんというか、読書感は一時期にブームになった「知るべき97のこと」シリーズのような感じだ。
すべてのエッセイに納得がいくわけではないが、学びのあるエッセイも多い。なにより読み通すのは難しくないので目を通してみるのが良いだろう。
なお私は本書で紹介された資料をつまみ食いしながら、はてなブックマークに集積している(網羅性はなし)。興味があればどうぞ。