立場と年齢的に、後進を指導しなければならない局面が増えている。個人的には7-8年前から1on1を中心としたアプローチを使っているのだけれど、最近あらためて1on1やフィードバックについて考え直したという話。「ヤフーの1on1―――部下を成長させるコミュニケーションの技法」と「フィードバック入門 耳の痛いことを伝えて部下と職場を立て直す技術 (PHPビジネス新書)」を読んだ感想。
本記事の目次
これまでの1on1とわたし
- よく参考にしていたのが、2015年に公開されたこのブログ記事
- 上記記事でも紹介されている「インテル経営の秘密」(現在は改題されて「HIGH OUTPUT MANAGEMENT」)も読んで参考にしていた
- その後もいろいろな本で紹介されている情報をつまみ食いしているけれども、割と最初のhigeponさんの記事がベースになっているような気がする
- 1on1をやっているメンバーからは、割と好評なので、まあこれでいいかと思っていた
ヤフーの1on1を読む
2022年に入って、とある筋から「ヤフーの1on1―――部下を成長させるコミュニケーションの技法」を紹介されたので読んでみた。読む前はナメていた。
「あー、よくある流行りの本でしょ。1on1は知ってるし、学ぶことなんかなさそう」⇒本当にすいませんでした。超いい本でした
- 執筆している本間さんはヤフーの人事部トップだが、40代で大学院に通い心理学(カウンセリング)を学んだ人。こんな人がトップダウンで推進している。強い。
- 人事部門から強いメッセージを発信して、コーチングとフィードバックを行う1on1を推進している。「やらないと怒られそうだから」「評価を下げられそうだから」という雰囲気を作り、全員にやらせ、最終的には組織文化に組み込むところまで進めている。凄い。
- 企業の人材育成は、個人のマネジメントの方針や努力に依存するべきものでないという強いスタンス。
と、極めて参考になる本だった。
一方で、ちょっとひっかかったのはここ。
本間 フィードバックを受けろ、と。実は1on1のポイントは、コーチングとフィードバックです。私は、会社に公にフィードバックする場がなかったから1on1を取り入れた部分もあるんです。
(中略)
本間 フィードバックは人によって微妙に定義が違うんですよね。東大の中原淳先生が『フィードバック入門』というとてもいい本を書いていて、この本を超える参考書はたぶんないと思う。その本で、中原先生は「立て直すために厳しいことを伝える」のをすなわちフィードバックだと言っていて、なるほどそうだなと思うんですね。
でも一方で、ヤフーの場合、「立て直すために厳しいことを伝える」ためのフィードバックに加えて、厳しくないことでも、見えた通りに伝えるというフィードバックもあると思っています。つまり鏡なんですね。こう見えているぞ、今、こんなふうに手が動いたぞと伝えるのも、フィードバックです。
ヤフーの1on1―――部下を成長させるコミュニケーションの技法、「対談④ 社員に成長の場を与えることは企業の役割だ」より抜粋
フィードバックとは。
というわけで、フィードバックの謎を解くべく、我々はAmazonの奥地へさらに向かったのだった(本を買った)。
フィードバック入門を読む
結論から先に言うと、ものすごく参考になった。今後本書を何度も人に勧めるだろうと思う。サブタイトル「耳の痛いことを伝えて部下と職場を立て直す技術」だが、この本そのものが(上司としての私にとっては)耳が痛いものだった・・・。
日本ではフィードバックという言葉は、あまり一般的ではありません。多くの人は、フィードバックと聞くと、「期末の面談で、評価結果を通知されること」を思い浮かべるのではないでしょうか。たとえば、「あのさー、中原君。君、今期は、こうで、こうで、こうだったから、君の評価は、Cにするよ」と、いったような具合に。 しかし、本来のフィードバックは、単に結果を通知するだけでなく、そこからの立て直しをも含む概念です。本書は、このように日本の企業の現場ではあまり知られていないフィードバックについて、一から丁寧に解説しています。
フィードバック入門 耳の痛いことを伝えて部下と職場を立て直す技術 (PHPビジネス新書) はじめに、より
まさにこれ。私はフィードバックをまったくわかっていなかったのである。
本書は全編素晴らしいので切り取る事も難しいのだが、特に印象に残った点を簡単に紹介するとこんな形になる。
- 日本においては、環境変化からマネジャーが疲弊しやすい下地が出来てしまった
- マネジャーの若年化、プレイング化に加えて、部下の多様化(元上司、派遣社員、外国人、働かないおじさん)で難しさが各段に上がった
- 2000年代にコーチングが流行したが、コーチング業界の策略もあり誤った導入のされ方で、「ティーチングを否定する」方向になってしまった
- 結果として部下が育たず、マネジャーが疲弊する構図が現代の状況
- 部下育成の理論を整理した上で、フィードバックにより耳の痛いことを部下に伝えて、立て直していく必要がある
- 1on1とフィードバックを使い分ける。別の言い方をすると、コーチングとティーチングを行う
目から鱗が落ちまくりである・・・
参考までに著者の中原先生の紹介文もリンクしておく。おすすめ・・・
フィードバックと1on1について考える
本書を読んで、マネジメントに感じて最近感じていた「モヤモヤ」が一つ晴れた気がする。
それはつまり「わたしはティーチングの技法がまったく不十分」ということなのである。
- 自分のマネジメントスタイルは、先ほど紹介した「HIGH OUTPUT MANAGEMENT」に強く影響されている。いくつか以前に書いたブログ記事を紹介しておく
- 基本的には(今どき古いんだけど)ストレッチを引き出す目標設定+1on1でのサポートが主な武器で、よく考えてみたら本書で紹介されているようなフィードバックを含むティーチングは組織マネジメントとしてはあまり取り扱ってこなかったような気がする
- 別に後進教育をやっていないわけではない。ただ、人材マネジメントと連携する気持ちがあまりなかった
- そもそも論で、欧米流のマネジメントを参考にしすぎると、ティーチングに関する概念がスッポリ抜けるという傾向があるかもしれない。欧米では学びなおしが十分に普及していて、社会人になっても学校に行くのである。このコンテキストの違いへの理解が自分は不十分ということだ
- 余談だが、職業と学びに関する日本と他国の相違点は「日本社会のしくみ 雇用・教育・福祉の歴史社会学 (講談社現代新書)」が詳しいのでおすすめ
今回、「フィードバック入門 耳の痛いことを伝えて部下と職場を立て直す技術 (PHPビジネス新書) 」を読んで、いろいろとクリアになったような気がする。実際の業務にも反映してみたいし、ティーチングについてはもう少し深掘りしてみると面白そうだと思っている。
放送大学で以下の講義があるようなので、聞いてみようかなぁ