「プロフェッショナルエンジニアは後進の育成よりも、自己の能力向上を優先すべきではないか」という意見を複数方面で見かけて考えたこと。管理者としての教育と、技術者としての後進教育は混ぜないほうがよいという意見。そしてエンジニアとして成長を望むのであれば「技術者としての後進教育」は意識すべきだと思っている。
というのはちょっと乱暴だと思うけどなー、という話キャリアを積めば、部下を持って管理職になるのが一般的かもしれないが、職人の世界で考えると、自分自身の腕を磨くことこそが一番で、部下を育てるより自分を育てたい。ならば、部下を持たずにキャリアを積む程、余計な仕事から解放されていく仕組みを組織としては用意するのが良いのではなかろうか。
— Yoshihito Kuranuki / 書籍:ザッソウ「雑談+相談」 発売中 (@kuranuki) 2016年5月17日
管理者による部下教育
会社組織における教育には2種類あって、その1つが「管理者による部下教育」である。もう1つは「プロフェッショナルとしての後進教育」なのだけれどもこれは後で書くことにして、管理者による教育についてまず整理したい。
管理者による教育についてはいろいろな論があると思うけれども、アンドリュー・S・グローヴの経営論などを参考にするとだいたいこんな感じである。
- 教育の目的は部下・チームから最高の業績を引き出すことである
- メンバーのスキル習熟度に応じて、マイクロマネジメント方式から、関与を最小限にして任せる方法まで、マネジメントスタイルを調整しながら教育する
- 目標設定に関与することにより、必要とする能力の学習を促進する
- 査定に関与することにより、不足する技能があれば矯正する方法を考える。また良い成長を促進する
- 人員配置に関与することにより、アサインに関する期待や不満をコントロールする
- 作者:アンドリュー・S. グローヴ
- メディア: 単行本
実際に、うまくやれているかどうかは別にして自分は上記を強く意識している。管理をしているメンバーを面談するときには、「管理職としてのアドバイス」なのか「技術者としてのアドバイス」なのか極力明確にフィードバックしようとしている。
ただ、この「管理者による教育」を一定年次以上のシニアなエンジニアが必ずやらなきゃいけないかというと、それは違うと思う。そもそもこれを実行するためには必要な職責や権限もあるだろうし、スキルとしても追加で学ばなければいけないことはあるだろう。そういう意味で冒頭の倉貫氏のツイートに戻ると、これは「余分な仕事」として関与しないような組織体制作りはアリなのかなぁと。
技術者としての後進教育
もうひとつが「プロフェッショナルとしての後進教育」である。人によって意見は違うと思うけれども、職業プロフェッショナルを名乗るのであれば「自己研鑽」と「他の技術者の育成支援」は必ず意識すべきであるし、やって当然というのが個人的な見解。
ITエンジニアについては、
- 米国では一般的と思われる、ACM/IEEE-CSのエンジニア倫理規定でも「他のソフトウェア・エンジニアの専門的能力の開発を援助」することが規定されている
- 国内では、たとえば情報処理学会 認定情報技術者 倫理要綱・行動規範というものがあるが、ここにも「自己研鑽」「他の育成の支援」は入っている
「自己研鑽」は別として「他の技術者の育成支援」まで本当に必要なのか、という反論はあるかと思うが、
- 一定レベル以上に自己の能力を高めるためには、教育に関わることは必要だと思う
- その方法は、部下の教育に限るものではないだろう。論文を書いたり、セミナーで発表したりするということも含まれる。とはいえ一般的には周りのエンジニアの能力向上に寄与するということが、自己能力を高めるひとつの方法だというのが個人的な意見
というわけで、後進教育にも一定関与して初めて一人前であると言えるのではないかと考えている。
以前に書いた以下記事も参考まで。
- 【21日目】職業倫理をもったエンジニアになろう | devloveblog
- ソフトウェア・エンジニアと武士道、騎士道精神(アジャイル話じゃないよ) - 勘と経験と読経
- ソフトウェアエンジニアのコンピテンシとか倫理とか - 勘と経験と読経
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- 作者:Dave H. Hoover,Adewale Oshineye
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- メディア: 単行本(ソフトカバー)