勘と経験と読経

略すとKKD。ソフトウェア開発やITプロジェクトマネジメントに関するあれこれ。

「謙虚なリーダーシップ」を読んだ #デッドライン読書会

読むのがホネな(積みがちな)技術書やビジネス書を取り上げて2週間の読書期限を課して読んでアウトプットする仮想読書会「デッドライン読書会」の第26回。2019年3月から初めて2年以上続いていて驚きだ。習慣化のパワーすら感じる。さて、今回選んだタイトルは「謙虚なリーダーシップ――1人のリーダーに依存しない組織をつくる」である。

正直な感想

  • タイトル「謙虚なリーダーシップ」という名前は覚えにくい。「ハンブルリーダーシップ」のほうが良さそう。
  • 次世代型のリーダーシップモデルという点については、確かにその通りだろう。しかし、ソフトウェアエンジニア的な立場から見ると「それ、もう知ってる」という印象がある。
    • 別の言い方をすると、ソフトウェアエンジニアリングにおいて重要なソフトスキルの一つが、より明確にになったような読後感はあった。
  • 本書が書かれた背景的、いわゆるアメリカ的ビジネス文化と日本との違いについては注意をしたほうが良いだろう(詳しくは後述する)。

謙虚なリーダーシップ/ハンブルリーダーシップとは

本書では、リーダーシップに対する新しいアプローチを紹介する。業務上の役割に基づく関係ではなく、個人的なつながりを重視するアプローチである。
謙虚なリーダーシップ――1人のリーダーに依存しない組織をつくる、第1章 リーダーシップに対する新しいアプローチ、より

というわけで、個人的で、互いに助け合い、信頼しあう関係性を構築する方法が「謙虚なリーダーシップ」である。この「謙虚なリーダーシップ」であるが、特にアメリカビジネス文化でその欠落が顕著なようである。

アメリカのビジネス文化は、個人が英雄として皆を率いるという誤ったリーダー像と、機械のような階層型の組織とを信奉している。そのような組織は、従業員エンゲージメント、エンパワーメント、組織の機敏性、革新力というみずからの目標をむしばむだけでなく、VUCA――不安定で(volatile)不確か(uncertain)、複雑(complex)かつ曖昧(ambiguous)――になっていく世界への対応力を制限してしまっている。
謙虚なリーダーシップ――1人のリーダーに依存しない組織をつくる、第1章 リーダーシップに対する新しいアプローチ、より

ちなみに本書ではリーダーとフォロワー(メンバー)の関係性を以下のようなモデルで表現している

  • レベル -1:まったく人間味のない、支配と強制の関係
  • レベル1:単なる業務上の役割や規則に基づいて監督・管理したり、サービスを提供したりする関係。大半の「ほどほどの距離感を保った」支援関係
  • レベル2:友人同士や有能なチームに見られるような、個人的で、互いに助け合い、信頼し合う関係
  • レベル3:感情的に親密で、互いに相手に尽くす関係

アメリカでは多くがレベル1の状態であり、レベル2を目指すべきという話である。

一方でジャパンでは・・・

あらかじめ明言しておくが、欧米がよくて日本が劣っているとか、どちらかが良いという事を主張するつもりはない。
ただ本書「謙虚なリーダーシップ」が前提とするコンテキスト(アメリカ的ビジネス文化)と日本の文化は言うまでもなく異なることも多く、本書の主張の適用については注意を要するべきだろう。
日本型雇用の分析については「日本社会のしくみ」が超おススメ。

  • 日本型文化ではそもそも機械のような階層型の組織となっていない。欧米では「ジョブ型」雇用が中心である一方、日本は「メンバーシップ型」雇用という違いがある。
  • 欧米では監督者、いわゆる上級職員(命令、管理、企画を行う)は相応の資格者がジョブに応じて雇用される。日本型のように下級職員が昇格するものではない。
  • つまり前述のレベル1とレベル2が逆転しているような構図になっているのではないだろうか。

日本型文化においてはむしろ、「業務上の役割や規則」の統制が不十分なところを先に「謙虚なリーダーシップ」的なものでカバーしていた事が多いように感じる。ただこれも時代によって変わりつつある。ミレニアル世代以降とそれ以前の世代では感覚も違うし、最近は職場での深い人間関係を嫌う風潮もある(脱飲み会など)。場合によってはレベル1でも2でもない、レベル0的な関係性の危うい組織も増えていそうな気がする。

もちろん最終的には「謙虚なリーダーシップ」に述べられているような階層構造での信頼関係の積み上げ、すなわち「職務規定等によるジョブ型の合意形成」の上に「信頼関係」が載ってくれば高いパフォーマンスが得られることにはまったく異論はない。ただ、この形を目指すのは、もうひとひねりの考察が必要だろう。

とはいえ、「謙虚なリーダーシップ――1人のリーダーに依存しない組織をつくる」はなかなか示唆に富むよい本であった(事例も充実していて面白い)。

さて、実は次の本は決まっていて、「TEAM OF TEAMS <チーム・オブ・チームズ>」の予定である。本書でも言及されており、以前に読んだ「The DevOps 勝利をつかめ! 技術的負債を一掃せよ」でも強く勧められていた本である。どんな学びがあるのか、楽しみだ。