勘と経験と読経

略すとKKD。ソフトウェア開発やITプロジェクトマネジメントに関するあれこれ。

「TEAM OF TEAMS」を読んだ #デッドライン読書会

読むのがホネな(積みがちな)技術書やビジネス書を取り上げて2週間の読書期限を課して読んでアウトプットする仮想読書会「デッドライン読書会」の第27回。さて、今回選んだタイトルは「TEAM OF TEAMS <チーム・オブ・チームズ>」である。いやぁ、この本はもっと早くに読んでおくべきだった。マネージャー必読の書である。

「TEAM OF TEAMS」とは

  • 軍隊および企業の多くが採用している既存のマネジメント(階層型構造の命令型組織)の問題点を指摘し、自律性の高いマネジメントへの移行を語った本である
  • この本が特筆すべきなのは、著者である退役将軍McChrystal氏のイランにてテロ組織との戦争を軸に語られているという点であろう。既存のマネジメントでは歯が立たず、敵のテロ組織に適応するために一種の自己組織化を行っていくというストーリーそのものが非常に興味深いのだ。そして著者らはこれらの経験をのちに分析、研究し、既存の事例などの対比なども行って本書を執筆している。というわけで軍の話だけでなく様々な企業の事例も含んでいる密度の濃い本である。

この本を書くきっかけとなったのは、エリート軍事組織である統合特殊作戦任務部隊(the Joint Special Operations Task Force,以下、特任部隊)である。戦争のさなかにあってのこの経験は、プロフットボールのチームが重要なゲームの第二クォーターでオフェンスのフォーメーションを変えることに例えられるかもしれない。しかし、現実はもっと徹底していた。実際のところ、特任部隊のシフトチェンジは、フットボールからバスケットボールへの変更に相当する。旧来の習慣や先入観は、防具やスパイクシューズとともにすべて捨て去らなければならなかったからだ。
TEAM OF TEAMS <チーム・オブ・チームズ> はじめに、より

  • とりあえず興味がある人は次のTEDトークをまず見ると良さそう。

ソフトウェア開発と「TEAM OF TEAMS」

さて本書が優れたリーダーシップ論であることは疑いようもないのだけれども、ソフトウェア開発の文脈においてはどうだろうか。
私が本書を手に取ったきっかけは、DevOpsへの移行を物語形式で語った「The DevOps 勝利をつかめ! 技術的負債を一掃せよ」である。同書で主人公たちに、エリックという人物がこうアドバイスするのだ。

君たちはもう無意味になってる古いルールを変えなきゃいけないだろうな。人間の組織のしかたやシステムのアーキテクチャーの作り方もね。リーダーはもう命令、管理する立場じゃない。人々を導き、障害を取り除き、仕事ができる環境を作る立場にならなきゃならない。スタンリー・マクリスタル将軍は、統合特殊作戦軍の意思決定権を分権化し、米軍よりもはるかに小さいが機動力に勝るイラクアルカイダに最終的に勝利した。イラクでは、判断の遅れによるコストは、金額ではなく彼らが保護しなければならない人々の生命と安全によって測られる。 これは従者を引っ張るリーダーシップじゃなくて、変身を促すリーダーシップだ。組織のビジョンを理解し、仕事のやり方についての根本的な前提条件を疑うアグレッシブな知性と人の心を動かすコミュニケーション能力を持ち、メンバーの特徴を把握し、支える指導力がなきゃいけない。
The DevOps 勝利をつかめ! 技術的負債を一掃せよ 第8章 反転プロジェクト、より

近年アジャイル開発プロセスがスタンダードになり、これは良いことだと思うのだけれども、いっぽうで組織やアーキテクチャは変わっていないという例も多いように思う。さらに一歩先に踏み出すためのヒントが本書には多く詰まっている印象を感じた。

その他本書で気になった点、良かった点

  • 第11章 菜園主のように組織を率いる
    • 「菜園主」というメタファーは素晴らしい。詳しいことはぜひ本書でチェックしてください。「チェスから菜園へ」。
    • 本章の後半では、著者が「TEAM OF TEAMS」を率いるためにどのようなリーダーシップを発揮したか(というか、どれだけ我慢と忍耐をしたか)が語られていてものすごく参考になった。「見守りつつも手を出さない」のなんと難しいことか!
  • 第12章 対称性
    • 「止まれのない世界」では、自動車の自動運転のシミュレーションが示されれる。自動運転が可能であれば、「止まれ」も「一時停止」の信号も不要である。しかし我々はこれを見て強いストレスを感じてしまうという話である。

間違っているように感じられるのは、機械的なリズムで行われる停止、発進、方向転換こそ交通のあるべき姿だと、我々が強い固定観念を持っているからだ。
(中略)
今後数十年で、「支離滅裂」な問題解決の方法がますます増えるだろう。物事を深く見通し、即座に対応するような、敏感で適応力のあるやり方で複雑な問題に立ち向かう必要が出てくるからだ。
TEAM OF TEAMS <チーム・オブ・チームズ> 第12章 対称性

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とにもかくにも本書は読みやすく、面白く、良い刺激を受けられる良書である。おすすめ。