勘と経験と読経

略すとKKD。ソフトウェア開発やITプロジェクトマネジメントに関するあれこれ。

「ソフトウェア・ファースト」をSIerのおじさんが読んだ #デッドライン読書会

未消化の積読技術書をデッドラインを決めて読んで感想をブログに書く企画(ざっくり)の第6回。今回は先日発売されたばかりの「ソフトウェア・ファースト」が題材である。

ソフトウェア・ファースト

ソフトウェア・ファースト

デッドライン読書会のルールは、以下参照

人でも技術でも品質でもなく、ソフトウェア・ファースト

ソフトウェア・ファーストという言葉は著者の造語だ。

ソフトウェア開発の手法が活かせる領域は多いものの、ソフトウェアだけでは解決できないものも見えてきました。そのような中、事業やプロダクト開発を成功させるには、ソフトウェアの流儀を知り、ソフトウェアの可能性も知りつつも、現状のソフトウェアが抱える限界も理解して開発に臨む姿勢が必要なのです。
ソフトウェア・ファースト

要はソフトウェアの流儀、思想、姿勢などを理解した上でビジネスに立ち向かう必要があるという話である。

しかし、今まではソフトウェア以外の〇〇がファーストにいた、のではなかったのか。それは例えば「人」であったり、「技術」であったり「品質」などであった。それらと、「ソフトウェア」は何かが違うのだろうか? という点についても触れられていて興味深い。

ほどよい説教本

わたしはSIer勤務のおじさんだが、その立場から見ると本書はバッサリとした物言いがむしろ小気味良く、大変に理解しやすいものになっている。なまじ、様々な業界や業種に忖度して抽象度を上げた書き方だとかえって読み解くのが面倒なのである。と思ったら、巻末にこれはわざとやっていることだというコメントもあった。

類書にない形で実践的にしようと思うあまり、つい刺激的な表現を用いたり、現状維持に対してチャレンジするような内容になった箇所もあったかと思います。それも、当たり障りのない内容や表現で、皆様の日常の読書体験で終わるのではなく、今日からの行動変容につながるきっかけになればと思ってのことでした。
ソフトウェア・ファースト

ちなみにSIerについては「2章:IT・ネットの“20年戦争”に負けた日本の課題と光明」でいろいろと深掘りされているのが興味深い。詳細はぜひ購入して見ていただきたいが、著者の及川さんがまさに目にしてきたIT業界の歴史を踏まえた分析は迫力があると思う。
ただ、及川さんのSIer今後の予測は刺激的だけれども、実際にはその通りには進まないというのがわたしの予想ではある。

これからの「強い開発組織」を考えるために/ソフトウェア・ファーストなキャリアを築くには

さて、繰り返しになるのだけれどもわたしはSIer勤務のおっさんである。翻って本書は基本的にはいわゆるユーザー企業向けの内容である。ではなんで手に取ったのかというと、「4章:これからの「強い開発組織」を考える」「5章:ソフトウェア・ファーストなキャリアを築くには」が読みたかったからだ。
実はエンジニアの立場で納得のいく、国産の組織論というのは中々に見当たらないものである。
(実は先立って「エンジニアリング組織論への招待 ?不確実性に向き合う思考と組織のリファクタリング」も読んだのだけれども、ちょっと抽象度が高すぎる。「エンジニアのためのマネジメントキャリアパス ―テックリードからCTOまでマネジメントスキル向上ガイド」も良い本だけれども海外事例ということで、そのまま適用するのはけっこう難しそう)

日本の場合、向き・不向きを問わず社歴や年齢を重ねただけの人がマネジャーに昇進し、若いメンバーが実務を担うという構図で組織づくりが行われるケースが多いように感じます。これではマネジメントがアマチュアなまま組織運営が行われ、機能不全に陥ってしまいます。
ソフトウェア・ファースト

ハイ。スイマセン。

マネジメントやそれに近い職位の社員は、現場発信の議論を受けつつ(引き出しつつ)、解決に向けたタスクを提案し、リードしていくことになります。中には技術選定やアーキテクチャについての議論も含まれるでしょう。つまり、エンジニアリング組織のマネジャーは組織を束ねてメンバーの成長を支援するだけでなく、技術面の判断も求められるのです。
ソフトウェア・ファースト

ハイ。存じております。

10 数年前に経験した実装の知識のまま、新しい手法を勉強もせずに過ごしていたら、現代的なエンジニアリング組織をマネジメントすることはできません。
ソフトウェア・ファースト

ハイ(土下座)。
・・・という感じでハッキリ書かれていて、大変にわかりやすい(笑)

どちらにしろ本書は非常にオススメ。ソフトウェア開発に関わらない一般企業の方だけでなく、ITエンジニアや、SIerの立場でも学ぶことの多い本である。