昨年読んだ「――システム構築の大前提―― ITアーキテクチャのセオリー」は現代版のEA(Enterprise Architecture)の教科書として非常に素晴らしい本であった。というわけで久しぶりにEAに興味が湧いていろいろと調べていたところ、2019年に入って「Complex Enterprise Architecture: A New Adaptive Systems Approach」という書籍が出版されていたので読んでみた、という記事。
なおKindle化はされていないが、APressでPDF版が購入できるようだ(プレビューもできる)。また米オライリーのSafariに加入していれば追加費用無しにWebで読むことができる(加入方法はこちらの記事を参照)。
くわしくは後述するが、なかなか難しい本である。一方でEAを取り巻く最新の状況や歴史も紹介されているので、キャッチアップには非常に役立った。
EAの死
「Complex Enterprise Architecture: A New Adaptive Systems Approach」は、従来のEAは現在は機能不全となっており見直しが必要であることを主張している本である。既存EAの機能不全については同書以前に次のような批判があることを紹介している。
では、改めてEAは何が問題なのだろうか。同書では次のような指摘がされているようだ。
- 従来のEAはトップダウンアプローチのフレームワークである。これは、企業が単一の大規模な情報システムを構築している時代にはうまく機能していた。
- しかし時代は変わり、企業が多数の情報システムを保持し、開発プロセスの多くははアジャイル/DevOpsに変化。
- 巨大な情報システムをスクラッチで構築する時代は終わった。システム開発の多くは新技術を用いた既存システムの更改や、既存システムをベースとした機能追加となっている。
- この環境下で従来のEAはその価値を正しく発揮できていない。
- 現代の企業は非常に動的に変化している。静的なEAでコントロールすることは難しい。企業情報システムのすべてを少数のエンタープライズアーキテクトが掌握、管理することは現実的ではない。
まあ、ですよねー。実際のところEAを活用できている企業は存在するのだろうけれど、一般論としてはうまくいっていない印象はある。
Complex Enterprise Architecture
というわけで、本書ではこの状況を打破するために以下のような提言を実施している、と思う……(ここでちょっと自信が無いのは私の英語力の問題もあるのだけれども、本書はほとんど例示がないのだ。念のため著者のWebサイトも確認してみたけれども見当たらない様子。ということで私が正しく理解している自信はちょっと無い。興味のある方は原著をあたっていただきたい)。
- EAをトップダウンのアプローチから、ボトムアップのアプローチに転換する必要がある。
- 企業情報システム群とその開発組織を、複雑適応系として扱う。
- 新EAはトップダウンのアプローチをやめる。企業情報システムの全容を少数のエンタープライズアーキテクトが掌握、管理することは現実的ではない。そこで組織の創発的な行動に任せて、目標の達成方法を把握しながら監視することに集中する。
- 新EAは各システムの互換性や相互運用を可能とするための規律と制約を策定、共有する。
というわけで本書ではこれを実現する場合に整理すべき事項(オブジェクト類)などについても整理している(がほとんど文章なのでイメージしにくいのだ)。
うーん、これはどうなんだ……
現実的ではあるが、これでいいのか?
自分の見聞きした範囲が狭いのだが、実態として多数の情報システムを抱える企業が統制を効かせる方法としては、本書に書かれたような方向性になってしまうような気がする。
- 企業単位の全体俯瞰モデル(EAにおけるBAやDA、SA)は作成できたとしても維持困難で、実態としては割とカオス。
- 一方で統制を効かせる必要はあるので、ルールやガイドラインを整備してエントロピーの増大を抑制。
- しかし、ユーザ部門などによるシャドーITの導入増加などで混乱は拡大。
ただ、この状況を「複雑適応系としてコントロールする」なんて、本当にできるのだろうか? というのはちょっと疑問である。
もうちょっと、調べてみようかな……
- 作者: 中山嘉之
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