勘と経験と読経

略すとKKD。ソフトウェア開発やITプロジェクトマネジメントに関するあれこれ。

『みずほ銀行システム統合 苦闘の19年史』読んだ #デッドライン読書会

対象を決めたら2週間で読み切りアウトプットしてから感想戦をするという読書会企画の第12回(意外と続いている)。今回の対象は『みずほ銀行システム統合 苦闘の19年史』である。

IT産業には民族誌が必要だ

本書を読んで思い出したのは、よしおかさんのずいぶん前の記事だったりする。

ソフトウェア開発の現場というのは伏魔殿で、外からは何が起こっているかさっぱりわからない。その中に入ってみない限り、わからない。IT産業にいるものであっても、やはり、Googleで何が行われているか、Appleで、Facedbook、TwitterあるいはLinkedInで何が行われているかは、そこに勤めたことがなければよくわからないのである。
結局のところ一人のエンジニアとしてはいろいろな現場を渡り歩き実際のpracticeやdisciplineを経験することによって少しずつトレーニングをつんでスキルをつけていくしかない。組織としては、転職者という人を媒体にして、組織として学ぶしかない。
そして、そのような現場の諸行を記述する方法論こそが民族誌である。IT産業の現場の民族誌を自ら記すことによって、そのノウハウを広く知らしめ、社会の財産にする。

内容はさておき、このような重要なプロジェクトの記録が行われ公開されるのはとても有意なことだと思う。
ただオビにある『「2025年の崖」からの転落を防ぐ秘訣がここにある』はちょっと盛りすぎなんじゃないか?

というわけで、読んでみたのだけれども

非常に興味深い。特に本プロジェクトの過程で発生した二度の大きな障害に関する記載などは非常にわかりやすい。
ただ、読み終わった時に正直なところ、こう感じてしまったのだ。
「あれ? これで終わり?」「分析は?」

類書といえば、三菱UFJ銀行の統合に関する本がある。

今読むと内容はちょっと古いが、終盤に「完遂への10ケ条」という章が設けられていたり、付録として割と詳細なキーワード解説(例えばEVM、OSSPMBOKSOAWBSなどの用語に関して割と細かい数ページずつの説明があった)などもついていた。
まあ、技術用語の解説は今時はネットでその場で調べられるので良いのかもしれない。しかし、プロジェクト全体に関する改めての分析や総括が無いのは非常に残念である。