勘と経験と読経

略すとKKD。ソフトウェア開発やITプロジェクトマネジメントに関するあれこれ。

「IT業界の病理学」読了。興味深いエッセイ集 #デッドライン読書会

後輩エンジニアに追い立てられて、老害エンジニアがリーディンググラス片手に未消化の積読技術書をデッドラインを決めて読んで感想をブログに書く企画(ざっくり)の第9回。今回は昨年末に発刊された「IT業界の病理学」である。

今回はKindle版で購入。この本はKindleの連続スクロール(無限に縦に長いWebサイトのように読める)対応しているのが最高だった。米オライリーSafari(基本的に書籍がWebページとして表示されるので縦スクロール)に慣れているからかもしれないが、技術書やビジネス書は連続スクロールのほうが読みやすい。

デッドライン読書会のルールは、以下参照

「IT業界の病理学」の総評

  • 普通に「IT業界あるある」最新版がまとまっているので良い本という印象
  • とりあえず向こう数年間、身近なプロジェクトでの問題予防や回避、分析の際には読み返すだろう

というわけで、有益度の高い本だった

一方で、個々の問題については深掘りは不充分な印象である。
よって、本書を読んで書かれていること「だけ」で予防や対策をすべきではないし、あくまで議論のきっかけとしてしか使えないだろう。

まずは「こんな病気って見たことがある」「自分たちも罹ってしまっているかも」と笑い飛ばし、楽しんでください。そのうえで、何か困ったことがあった時や行き詰まった時に読み返していただき、病気の治療と予防に本書が少しでもヒントになれば、筆者たちにとってこれほどうれしいことはありません。
IT業界の病理学 はじめに

ヒント集としては使って良いだろう。しかし、ガイドとして使ってはいけない。

残念な点/こうだったらよかったのに

ソフトウェア業界の病理的な観点を語るのであれば、やはりこの本は外せないだろう(ただし現時点では入手困難かつ、内容はかなり古びている点に注意すること)。

アンチパターンは、ソフトウェアの開発や導入が成功するためには何を避けるべきか、という教えの集大成です。そういう、やってはいけないことを現にやっている、あるいは、このままだとやりそうだ、ということに早期に気づくこと、…アンチパターンは、その自覚と早期発見がきわめて重要です。本書はソフトウェア開発に関連したさまざまなアンチパターンを詳しく解説し、ソフトウェアの設計(デザイン)、アーキテクチャ、およびプロジェクト管理の各面に見られる多くのアンチパターンを、ユーモアに富んだ軽い文章で指摘してくれます。しかし本書が読み物としてどれだけおもしろくても、それらのアンチパターンの発生を、私たちは必死で防がなければならないのです。
アンチパターン―ソフトウェア危篤患者の救出 謝辞

同書で紹介されているアンチパターンの多くはWikipediaにも掲載されているが、
アンチパターン - Wikipedia
パターン名称が明快である(そして面白い)。この利点は、エンジニア間のコンテキストの共有がしやすい点にある。「うちのプロジェクト、ちょっと分析地獄っぽくてさぁ。アンチパターンの」「あー、なるほど」こういう会話が可能である。

一方で「IT業界の病理学」は基本的にエッセイ集の体裁を取っているため、洗練されたパターン名称が無いのはとても残念である。

また、いくつかの病例についてはすでに業界内でいくつかパターン名的なものが提案されているものもあり、もう少しリサーチや深掘りがあったほうが良かったと思う。
例えば「なんちゃってアジャイル症候群」については、Fake Scrum / Fake Agile / Agile Hangover などの既存の論点には触れられていない。
これは、各記事の執筆者のコンテキストに依存してしまっているのだろうとは思うが・・・。

と、いろいろ書いてしまったが、読むことで様々な課題認識が刺激される良書である。
興味を持った方は、ぜひ手にとってみることをオススメする。