あまり「戦略」という言葉は好きではないのだけれど、事情によりいろいろ調べてるという話。個人的には「作戦」くらいでいいんじゃないの。
戦略とは何か
戦略とはなんだろう。最近のエンジニアリングマネージャー向けの本を読んでいると、よく紹介される本がルメルトの「良い戦略、悪い戦略」だ。
Richard Rumeltによる『良い戦略、悪い戦略』(日本経済新聞出版)は、戦略を扱った代表的な書籍です。できれば時間をかけて読むことをお勧めします
や、
リチャード・ルメルトの古典的名著『良い戦略、悪い戦略』(日本経済新聞出版、原書“Good Strategy/Bad Strategy” Profile Books)の冒頭にある説明は、戦略に関する記述では私がいちばん気に入っているものかもしれません
とか、
Richard Rumeltの『良い戦略、悪い戦略』(日本経済新聞出版)は、これまで読んだ中で最もわかりやすい戦略に関する書籍で、私はそこから多くのことを学んだ」
ここまで推されたら読まざるをえないだろう。というわけで読んだ。極めて良い本だ。そしてなによりエンジニアにとって、わかりやすい。
良い戦略、悪い戦略
先に言っておくと、要点は「エンジニアリング統括責任者の手引き ―組織を成功に導く技術リーダーシップ」に完璧にまとめられているので、同書を持っている または オライリーのサブスク が使えるなら同書を先に読んだ方がいい。持っていない場合、もしくはより深掘りしたい場合に手に取ろう。
- 2011年の本、という点では10年以上前の本ではある。最新の事例としてNVIDIAなどが紹介されているが古いのはご愛敬だろう。ただ有益性は損なわれていない
- 表題どおりだが、本書の目的は多くの組織に存在するエセ戦略を倒すことにある。というわけで、役に立つだけでなく面白い本だ
- 著者のルメルトはシステムエンジニアとしてNASAで働いた経験も持っている(エピソードも紹介されている)。というわけでエンジニアとしての親近感も感じる
- 多数の悪い戦略がなぜダメなのかについて解説される。ダメな戦略にふりまわされている人にとっては特に楽しいかもしれない。適格に批評できるようになる
さて本書に書かれていることを雑にまとめると、良い戦略とは「漠然とした期待の表現ではなく」「具体的な課題を前にして行動を指し示す」ものだということである。精神論であったり、単なる数値目標だけであること、MVVは戦略ではないとバッサリと切り捨てられている。うーん耳が痛い。おっと、誰か来たようだ……
なお、本書では紋切り型の、テンプレートに穴埋めをしたような戦略を徹底的に批判しているため「考え方」は豊富にあっても「道具」の話がほとんどない点には注意が必要だろう。まあ、自分で考えるべきといわれればそれまでではあるが、道具も欲しくなってしまうのが人情というものだ。
経営理論からのアプローチ
というわけで理論や既存のフレームワークを押さえておきたい。というわけで以前に読んだ「世界標準の経営理論」も再読してみた(この本は辞書的によく紐解いている)。本書においては第33章がズバリ「戦略」テーマである。
第5部の最初に取り上げるのは、「戦略」(strategy)と「イノベーション」(innovation)とのマトリックスだ。とはいえイノベーションについては、第2部「マクロ心理学」編で様々なイノベーションに関する視点をすでに論じている。そこで本章では「戦略」に多くの紙幅を割きたい。
本章では戦略領域の(経営理論における)構造や、論点がまとめられており参考になる。技術というよりビジネス戦略(競争戦略)などについて考えてみるなら手に取ってみるのも良いだろう。
歴史からのアプローチ
経営理論は難しいし、ロジックではなくてナラティブで考えたいというのなら、この本はけっこう面白いし参考になるかもしれない。ただし大著なのでビジネス活用に限定するなら下巻から読むので十分だ(上巻は、戦争と政治の戦略の話である)。下巻の最後に経営理論、社会理論に関する現状の総括や分析も含まれており、カバー範囲は広い(ただし長い)。
- 結論(?)は「良い戦略、悪い戦略」と等しい。対立があり、行動が必要な場合にのみ戦略は有効である。対立が表面化していない状況で戦略は必要ない。
- (行動を導くという意味では)戦略はアート(技芸)であり、科学ではない。
このあたりは、経営理論としての戦略とバランスを見ながら活用したいものである。
そもそも戦略って必要なんだっけ
一方で、そもそも戦略を中心とした軍事的世界観の組織運営に問題がある、という議論も最近は存在する。最近読んだこの本もたいへんに良かった。
- 最近若手が会社を辞めてしまうという問題がある。その原因は、個人のキャリア観が会社中心から人生中心にシフトしたのに対して、組織の世界観がアップデートされていないから……という入り口の本
- 戦略という点においては、ビジネスの世界が競争から価値創造にシフトしている状況のなかで企業が「戦略中心」であるべきではないのではないか、などと書かれていて興味深い
もちろん本書では既存の戦略をないがしろにしているわけではなく、デメリットも考慮しながらうまく活用していこうというスタンスではあるが、いろいろと参考にはなる。
雑なまとめ:戦略とは何か
そろそろこの雑な記事も終わりにしようと思うが、いろいろ読んでわかったことは以下の通りだ
- 戦略は状況に対する意図である。なんとなく数年ごとにトップマネジメントが発表するポエムは戦略ではない
- 戦略は状況を制御する手段ではなく、不透明な状況下で対処する方法である
なおいろいろな本を紹介してきたが、読みやすさという点ではルメルトの「良い戦略、悪い戦略」がおすすめ。カバー範囲という点では「戦略の世界史」の下巻(経営学も、ルメルトの理論についても含まれてはいる)という感想だ。でも、戦略なんてものを考える必要がないのが一番かな……