勘と経験と読経

略すとKKD。ソフトウェア開発やITプロジェクトマネジメントに関するあれこれ。

2025年上半期に読んだ本まとめ

2025年1月~6月に読んだ本のまとめ。カウント対象は期間中に読み終わったものに限り、読みかけの本は対象外としている。あとコミック、漫画雑誌類もけっこう読んでいるのだけれども、これは除外。
この6カ月では80冊の本を読んだようだ。意識的に新書を読んでいたので、読んだ冊数は例年より多め。

いつもどおり半期で読んだ本の中で良かったものをピックアップしてみる。

文芸書のおすすめ(一般編)

映画化もされるようだけれど「爆弾【電子限定特典付き】 (講談社文庫)」は抜群に面白かった。未読の人が、これからワクワク感を得られるというという意味でうらやましい。2022年に話題になった本ですね。

たしか書店で本を紹介する動画でどなたかが「続編を出すのが不可能だと思ってたのに、続編が出てびっくりした。最高」と紹介していたので手に取ったもの。そしてまず本作を読んでから続編を読むかを改めて考えようと思っていたのだけれども、電子書籍版で続編の冒頭のけっこうな長さがオマケでついてくるという凶悪なマーケティングが行われているので、読了後ただちに続編「法廷占拠 爆弾2」も読んだのだった。途中でやめられないんだよ。

他には(全部は読めていないけれど)ゲームクリエイター小島秀夫さんが昨年末に出していた「ヒデミス2024」という選書に従ってミステリー(一部SFあり)を読んでいる。

喪服の似合う少女 (ハヤカワ・ミステリ)」「エイリアス・エマ (集英社文庫)」「マン・カインド」どれも大変面白いのでおすすめ。

文芸書のおすすめ(趣味のSF編)

SF小説を読む醍醐味はいろいろあるが、わたしにとっては「普段使わないアタマをフル回転させられる」というのが重要なポイントであったりする。その点でスチュアート・タートンの「イヴリン嬢は七回殺される (文春文庫)」は最高だった。脳から普段でない汗が出た。

犯人を見つけるまで令嬢は何度も殺される。殺人の夜をタイムループし、関係者の人格を転移しながら真相を追え

という紹介文では語りつくせぬ、驚きの仕掛けだった。この本はもともと各所で絶賛されていたのだけれども、同著者の近作「世界の終わりの最後の殺人 (文春e-book)」に興味を持っていて(まだ読んでいない)、まずは同著者のデビュー作であり有名作である本書を先に読もうと思ったのだった。

教養書のおすすめ

昨年から楽しみにして積んでいた「技術革新と不平等の1000年史」をやっと読んだ。いろいろと批判のある本ではあるが、読むなら今だろうということでおすすめをしておく。

おさらいをしておくと、2024年のノーベル経済学賞を受けたMITのダロン・アセモグル教授の共著で、以下三部作の最新作である。

  1. 国家はなぜ衰退するのか
  2. 自由の命運 国家、社会、そして狭い回廊
  3. 技術革新と不平等の1000年史

振り返ると、知的好奇心という意味では「国家はなぜ衰退~」が一番ワクワクしたように記憶している。全般的に主張とその理由についての説明が長いので読むのはちょっとつらい(日本の新書というフォーマットに慣れていると、新書くらいのサイズで読みたくなる)。
さて本作はひとことでいうと『「進歩」こそが社会的不平等を増大させる』という話と近年のテクノロジーの進歩に警鐘を鳴らすような内容となっている。その点では前作までに比べて著者の主張は強い。というわけで、たとえば米国人エコノミストのノア・スミスさんが結構な批評などを書いている。

とはいえ、テクノロジー進歩の批判は本作に限らないわけで(「監視資本主義―人類の未来を賭けた闘い」はよかった)、そういった様々な意見を理解することじたいは良いことだと思っている。というわけで読むのは大変だけれども、ハヤカワの電子書籍セールの時などに半額で買っておいて少しずつ読めばよいのではなかろうか。

ビジネス書のおすすめ

社会もぶっ壊れている一方で、組織も機能不全な今日この頃、「冒険する組織のつくりかた──「軍事的世界観」を抜け出す5つの思考法」は考えるきっかけとして良い本だった。

ポッドキャスト番組の著者インタビューで興味を持ったのだった。

本書の良いところは、働くメンバーがしごとの中で感じるモヤモヤについて、ある程度その理屈を整理して提示してくれる点だ。詳細は書籍をあたっていただきたいが、テクノロジーの進化とコロナ禍を含む社会変化によって「働く個人の世界観」は半ば強制的にアップデートされたのに対して、「組織の世界観」のアップデートが圧倒的に追いついていないというのがモヤモヤの源流にあるという。この整理の仕方はなかなか良いというのが現時点の感想だ。

なお現在、本書を用いた読書会を職場で推進していたりする。いろいろ議論する際のたたき台として有用な本でもある。
同じようなテーマとしては「企業変革のジレンマ 「構造的無能化」はなぜ起きるのか (日本経済新聞出版)」も良かった。機能不全対策が最近の自分のテーマなのかも。

技術書のおすすめ

いろいろ読んだし、読了していないからリストに載せていないけど読みかけの本がけっこうある。というのも最近オライリーのサブスクに翻訳書がかなりタイムリーに登録されるようになったからである。オライリーのサブスクについては以下の記事で解説しているので興味があればどうぞ。

さて、話題の本としては「Tidy First? ―個人で実践する経験主義的ソフトウェア設計」も良かったけれども、このシリーズは未発表の続編のほうが期待できる。というわけでここで紹介するのはやはり「ドメイン駆動設計をはじめよう ―ソフトウェアの実装と事業戦略を結びつける実践技法」である。

感想を別記事にも書いてあるのだけれども本書は類書に比べて「適材適所で必要な部分にだけドメインモデルを採用し、全体的には難しいから適用するな」と身もフタもないアドバイスをしており好感度が高かった。くわしいことは以下の感想記事も参照されたし。

この半期の振り返り

どこかで「中央公論の毎年3月号に乗っている新書大賞および識者のおすすめコメントが良い」ということを聞いて、今年から新書ガイドとして活用している。ランキングは19位まであるし、加えて目利き45人が選ぶおススメ新書まで掲載されているので沼である。これでだいぶ面白い新書をピックアップできるようになった。

あとは(ちょうど今もやっているけど)定期的に実施されているKindleセールで気になっている本を安い時期にまとめて買って、半年くらいかけて消化する日々である。

というわけで(?)読みたい本に困ることがないから、あとはジムで筋トレをするが如くに読むのである。別にたくさん読みたいわけではないのだが、読み終わらなければ次の本が読めない。7月以降もただひたすらに読む予定である。

2025年上半期に読んだ本の全リスト

  1. フェルメール 光の王国 (翼の王国books) 福岡伸一さんがANA機内誌に連載してた美術エッセイ
  2. センスの哲学 (文春e-book) センスが良くなる芸術哲学の本
  3. 死亡通知書 暗黒者 (ハヤカワ・ミステリ) 高評価の警察系の華文ミステリ
  4. ハッピーエンドは欲しくない 10年前頃に話題になったネット文学
  5. エレガントパズル エンジニアのマネジメントという難問にあなたはどう立ち向かうのか エンジニア組織のマネジメントは答えのないパズル
  6. 「好き」を言語化する技術 推しの素晴らしさを語りたいのに「やばい!」しかでてこない (ディスカヴァー携書) センスの哲学と似たことを言っている
  7. マン・カインド 傑作SF。メタルギアソリッド的世界観の正統後継者
  8. エイリアス・エマ (集英社文庫) 現代に蘇る正統的スパイ小説だった
  9. 本を読む本 (講談社学術文庫 1299) 読み飛ばしてた古典。読書効率の最大化
  10. 解像度を上げる――曖昧な思考を明晰にする「深さ・広さ・構造・時間」の4視点と行動法 21年SpeakerDeckで最も見られたスライドの書籍化
  11. 人間はどこまで家畜か 現代人の精神構造 (ハヤカワ新書) 「シロクマの屑籠」のなかの人の本
  12. 独学の地図 「超相対性理論」のなかの人の本。学びを削り出す方法
  13. 東浩紀巻頭言集Ⅰ 思想地図β篇 論考ではないので読みやすい
  14. シャーロック・ホームズの凱旋 最終的にとんでもない場所に連れていかれる
  15. 自由の命運  国家、社会、そして狭い回廊 上 自由の貴重さとは
  16. 積ん読の本 勇気をもらう(池澤さんの家がひどい)
  17. 脳に収まるコードの書き方 ―複雑さを避け持続可能にするための経験則とテクニック コード以外の話もいっぱい
  18. 聞く技術 聞いてもらう技術 (ちくま新書) 聞くと聞いてもらうは連環している
  19. デジタル生存競争: 誰が生き残るのか メディア研究者によるテックカルチャー論
  20. AIとSF2 (ハヤカワ文庫JA) 海猫沢めろん氏の『月面における人間性回復運動の失敗』が天才
  21. 無限病院 医院 話題の長編ディストピアSFだが、万人には薦められない
  22. ソフトウェアアーキテクトのための意思決定術 リーダーシップ/技術/プロダクトマネジメントの活用 良書だが玄人向け ⇒★感想
  23. トヨタ流DXを支える心理的安全性と仕事のスピードアップを実現する 2つのカタ: 若手に響く「ものの言いカタ」と「仕事の進めカタ」 はしばしにトヨタイズム的なものが垣間見えて大変に興味深い
  24. 近代絵画 (新潮文庫) 小林秀雄の有名な論。面白いが難解
  25. 成瀬は天下を取りにいく(新潮文庫) 「成瀬」シリーズ 話題の本。面白いけどいいところで終わる
  26. 自分の薬をつくる 「超相対性理論」で紹介されてた。真面目さが害になっているような人にお勧め
  27. 回樹 ミステリ色のあるSF短編
  28. 解読 ウェーバー『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』 (講談社選書メチエ 706) プロ倫そのものは読まずに解説書でごまかす作戦
  29. 日本語の秘密 (講談社現代新書) ゆる言語学ラジオで紹介されてた本で面白いしAI論まで展開されてた
  30. 爆弾【電子限定特典付き】 (講談社文庫) 傑作
  31. 弱者男性1500万人時代 男性をとりまく厳しい状況と、様々な誤解を丁寧に分析
  32. 自由の命運  国家、社会、そして狭い回廊 下 面白いが長い
  33. 若き芸術家たちへ - ねがいは「普通」 (中公文庫 あ 70-1) 安野光雅さんと佐藤忠良さんの対談集。すき
  34. Think Fast, Talk Smart 米MBA生が学ぶ「急に話を振られても困らない」ためのアドリブ力 スタンフォードの人気授業を本にしたもの。あんまり
  35. Tidy First? ―個人で実践する経験主義的ソフトウェア設計 コンパクトな本。⇒★感想
  36. 東浩紀巻頭言集Ⅱ ゲンロン篇 ゲンロン戦記の裏話が面白い
  37. メタゾアの心身問題――動物の生活と心の誕生 タコの心身問題の続編でより哲学に
  38. モチべーションの心理学-「やる気」と「意欲」のメカニズム (中公新書 2680) 新書とは思えない充実した内容。銀の弾丸が無いことを再確認できる
  39. <新版>日本語の作文技術 (朝日文庫) 名著とりこぼしを読む。記者以外には難しすぎる印象
  40. 銀河風帆走 (創元日本SF叢書) 評判のSF短編集。ストレートに科学していてすき
  41. スマホ時代の哲学 失われた孤独をめぐる冒険 【購入者限定】スマホ時代を考えるための「読書案内」付き スマホ的なものによってわれわれはどうなってしまっているのか
  42. 法廷占拠 爆弾2 傑作の続編
  43. 成人発達理論から考える成長疲労社会への処方箋 良い本だったが処方箋にはすこし疑問もある
  44. 宗教を学べば経営がわかる (文春新書) 三宅香帆さんが動画で推していた対談本。濃い良い本
  45. わたしたちが光の速さで進めないなら (ハヤカワ文庫NV) 話題の韓国作家のSF短編集。ティプトリー
  46. 潜入取材、全手法 調査、記録、ファクトチェック、執筆に訴訟対策まで (角川新書) ユニクロ等に潜入取材してきた人の書いた本
  47. リーダーシップ・シフト 全員活躍チームをつくるシェアド・リーダーシップ エンジニア系の人には既知の内容が多いかも
  48. 島はぼくらと (講談社文庫) 離島が舞台の青春小説、よかった
  49. 弁護士が教える IT契約の教科書 17年出版で民法改正前のものだが考え方は非常に勉強になった
  50. 三井大坂両替店 銀行業の先駆け、その技術と挑戦 (中公新書) 新書大賞2025の第6位。記録されているってすごい
  51. 就職氷河期世代 データで読み解く所得・家族形成・格差 (中公新書) 新書大賞2025の第7位。就職氷河期についてのファクトフルネス
  52. ゲームセンターを10倍おもしろくした本!(伝説のアーケードゲーム誌『ゲーメスト』の回顧録が登場!) ゲーメストの本。高校生のとき読んでいて懐かしい
  53. DTOPIA 第172回芥川賞受賞作。アートだった
  54. 僕には鳥の言葉がわかる エピソードが良すぎる。研究者の自伝という意味ではバッタを倒すぜにも近い
  55. コード・ブッダ 機械仏教史縁起 (文春e-book) 大量の技術ネタと仏教ネタが高圧縮されていて大変によい
  56. 歴史学はこう考える (ちくま新書) 新書大賞2025の第3位の本。勉強になった
  57. ゲーテはすべてを言った 第172回芥川賞受賞作。教養的で大好物だった
  58. 筺底のエルピス -絶滅前線- (ガガガ文庫) SNSで話題になってたので手に取った傑作SFラノベ。面白い
  59. 筺底のエルピス2 -夏の終わり- (ガガガ文庫) 物語が不穏な方向性へ
  60. 筺底のエルピス3 -狩人のサーカス- (ガガガ文庫) 物語が不安な局面で終わる
  61. 筺底のエルピス4 -廃棄未来- (ガガガ文庫) 天冥の標シリーズ感を感じ始める
  62. レオナルド・ダ・ヴィンチ 上 (文春文庫) ジョブズ伝が有名な作家によるダ・ヴィンチ
  63. 筺底のエルピス5 -迷い子たちの一歩- (ガガガ文庫) ちゃんと風呂敷が畳まれて良かった
  64. 陰謀論 民主主義を揺るがすメカニズム (中公新書) 政治学者による陰謀論の研究
  65. いずれすべては海の中に (竹書房文庫) 話題のSF短編集。素敵なんだけど最終作でひっくりかえる
  66. レオナルド・ダ・ヴィンチ 下 (文春文庫) ダ・ヴィンチよりも著者の執念に驚く
  67. カラー版 近代絵画史 増補版(上) ロマン主義、印象派、ゴッホ (中公新書) 昨年亡くなった元国立西洋美術館大原美術館館長だった著者による名著
  68. 「何回説明しても伝わらない」はなぜ起こるのか? 認知科学が教えるコミュニケーションの本質と解決策 『言語の本質』『学力喪失』が有名な今井先生の近作
  69. カラー版 近代絵画史 増補版(下) 世紀末絵画、ピカソ、シュルレアリスム (中公新書) カバー範囲は第二次世界大戦まで
  70. 【この1冊でよくわかる】ソフトウェアテストの教科書 [増補改訂 第2版] コンパクトでわかりやすく、事例も方法で良い
  71. 喪服の似合う少女 (ハヤカワ・ミステリ) レトロな趣の私立探偵小説で女性主人公でハードボイルドで骨太で鼻血が出そう
  72. 戦略的交渉入門 (日本経済新聞出版) 昨年スゴ本で絶賛されていた本
  73. ドメイン駆動設計をはじめよう ―ソフトウェアの実装と事業戦略を結びつける実践技法 現代の設計に関して良いことが書かれていた本 ⇒★感想
  74. 冒険する組織のつくりかた──「軍事的世界観」を抜け出す5つの思考法 fukabori.fmのep128を聞いて手に取った本。良書
  75. マルドゥック・アノニマス 10 (ハヤカワ文庫JA) 終わりそうもないSF長編、物語が急加速した
  76. 技術革新と不平等の1000年史 上 本書を開く前にノアスミスの酷評記事を読んでしまってちょっとしょんぼり
  77. 脳の本質 いかにしてヒトは知性を獲得するか (中公新書) 中公新書はどうやら本質シリーズというのを展開するらしい
  78. 企業変革のジレンマ 「構造的無能化」はなぜ起きるのか (日本経済新聞出版) 「他者と働く」著者の本。組織の断片化のはなし
  79. 技術革新と不平等の1000年史 下 反加速主義論。論としては非常に興味深い
  80. イヴリン嬢は七回殺される (文春文庫) もはや使い古されつつあるタイムループミステリと思っていたら、超ド級の極上知的遊戯だった

過去の読書ふりかえり記事

あと過去にこんなのも書きました