読むのがホネな技術書やビジネス書を取り上げて2週間の読書期限を課して読んでアウトプットする仮想読書会「デッドライン読書会」の第82回。同僚と読書期限を約束することによって積読が確実に減るという仕組み。過去記事はこちら。
さて、今回読む本は「両利きのプロジェクトマネジメント 結果を出しながらメンバーが主体性を取り戻す技術」だ。少し前に流行ったキーワードに「両利きの経営」というものがあったけれども、「両利きのプロジェクトマネジメント」とは何だろうか。
www.shoeisha.co.jp全体的な感想:発展し続けるプロダクトマネジメント系の知見をうまく統合したプロジェクトマネジメント方法論
本書のテーマである「両利きのプロジェクトマネジメント」は雑にまとめると
- 計画駆動、従来のプロジェクトマネジメント方法論によるマネジメント、と
- 対話や変化を重視する適応型のプロジェクト推進方法
の両方をバランス良く、時には切り替えながら実行するというハイブリッドなプロジェクトマネジメント方法論と理解している。
そしてその統合がバランスよく実現されているという点で、適応型のプロジェクト推進方法をうまく取り込んでみたいPMにとっては、参考になる点が多いだろう。
なお、本書はITプロジェクト向けに特化されたものではない点には注意が必要である。著者が想定しているのは、DXや新規事業、組織変革などゴールや要件を明確にすることが難しいプロジェクトとされている。
管理者のジレンマ:予測型か適応型か
そもそも現代のマネジメント方法論の花形は適応型だ。リーンスタートアップが源流のプロダクトマネジメントについて様々な議論が行われ、方法論が定義され、さまざまな講演や書籍が発表されている。現代ではPMと書いても「プロダクトマネージャーと、プロジェクトマネージャーのどっちの意味ですか?」と言われてしまうくらいである(個人的にはPdM、PjMと書き分けているけど、これもメジャーではない)。
そして活発に議論されている適応型・プロダクトマネジメントの最新知見はいろいろと参考になる。だが一方で「水と油」「ウォーターフォールvs.アジャイル」ほどではないとしても、「音楽性の違い」くらいの壁があって予測型・プロジェクトマネジメントとの統合融合はなかなか難しいように思うのだ。
本書ではこの難しかった統合を「プロジェクトストーリー」という骨組みと「ミーティング」でコントロールしようとしている点は、かなり興味深いものとなっている。
でもそれって「両利き」っていうの?
「両利きのプロジェクトマネジメント」という呼称にはモヤモヤする。「両利きの経営(増補改訂版)―「二兎を追う」戦略が未来を切り拓く」「両利きの組織をつくる――大企業病を打破する「攻めと守りの経営」」あたりは読んでいるが、これらは組織経営戦略の議論なので、複数の戦略を同時に実行するという話を両利きと言っている認識である。同時に実行するということは組織論の文脈では、組織を分けるという意味でもある。
本書の「両利き」は状況に応じて観点や考え方を入れ替えるという意味になっているので、これはビジネスワードとしての「両利き」とはちょっと違うんじゃないだろうか……
どんなプロジェクトにも適用できるわけではない
本書の中では言及されていないが、おそらく以下のようなプロジェクトに「両利きのプロジェクトマネジメント」を適用するのは難しいだろう。この点には注意が必要だ
- 顧客から受託したプロジェクト(確定的なゴールと納期がある場合)。共同開発といった形態ならセーフ
- 再委託するプロジェクト(請負・準委任どちらでも)。任せきることができないのでアウト
ITプロジェクトであれば内製開発といったジャンルであればうまくいきそうだが、そうでない場合に本書で紹介されている進め方を全面的に取り入れるのは慎重な判断が必要になるだろう。一方で参考になる点は多いので、つまみ食いはどんどんすべきだ思う。
その他のメモ:本書で気に入ったこと、気になったこと
- 全般的に、近年の最新の組織理論が積極的に取り込まれているので本書を通じてそういった知識を得られるというメリットもあるように感じた
- シェアド・リーダーシップはこの読書会でも過去に取り上げている。シェアド・リーダーシップ実践テキスト『リーダーシップ・シフト』を読んだ - 勘と経験と読経
- その他参考文献も、けっこうチェックしている本が含まれており興味深い
- 本書はプロジェクトマネジメントが主眼だが、同じような視点で組織マネジメントを論じている「冒険する組織のつくりかた──「軍事的世界観」を抜け出す5つの思考法」と響きあうものも感じる。この本はおすすめ
- 本書では触れられていないが、プロジェクトが炎上した場合も曲線モードになる。とすれば炎上した場合に限らず平時も「両利き」でやるというのは、合理的なんじゃないかと読みながら考えた
- 「自分たちのプロジェクトに合った道具を自ら作る」「持論を見つける」(第2章 前提とする世界観 ほか)といったプラグマティズム的アプローチは極めて現代的でよいし、好印象
- 第5章 マネジメントすべき4つの領域 で語られている『プロジェクトの計画は「物語」である』という考え方が好き。この詳細が語られている第6章もよい
プロジェクトを立ち上げる際に立てる計画が、単なる作業項目・タスクが羅列された機械的なスケジュールではなく、プロジェクトが歩んでいくであろう道筋が豊かにイメ ー ジできるような物語(プロジェクトストーリー)であるべきです。
というわけで本書は読了。次はちょっと古い本ですが「超予測力 不確実な時代の先を読む10カ条 (早川書房)」を読む予定。このブログ記事で紹介されていて興味を持った次第。
