勘と経験と読経

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シェアド・リーダーシップ実践テキスト『リーダーシップ・シフト』を読んだ

読むのがホネな技術書やビジネス書を取り上げて2週間の読書期限を課して読んでアウトプットする仮想読書会「デッドライン読書会」の第76回。同僚と読書期限を約束することによって積読が確実に減るという仕組み。過去記事はこちら

さて、今回読む本は「リーダーシップ・シフト 全員活躍チームをつくるシェアド・リーダーシップ」だ。 立教大学の中原先生が共著ということに加えて、リーダーシップ理論でもっとも新しい「シェアド・リーダーシップ」に関して学べるということで興味津々である。

シェアド・リーダーシップについて

本書の感想に入るために、テーマであるシェアド・リーダーシップについて整理しておこう。自分にとっては「世界標準の経営理論」や、最近読んだものとしては「宗教を学べば経営がわかる (文春新書)」(ブログで取り上げる予定はないのだけれども、たいへん良い本だった)などでも言及されており注目している概念だったのだ。

(引用註:まず、ティール組織の提唱する自律分散型組織の紹介がされている)
本章対談内では紹介していないが、経営理論でこの考え方に近いのが、シェアード・リーダーシップである。米クレアモント大学教授のクレイグ・ピアースなどにより二〇〇〇年代以降に研究が進んでいる。これはまさにティール組織のような考え方で、組織に特定の強いリーダーがおらず、全員があたかもリーダーのように自律的に振る舞って、互いに影響を与えながら組織を動かしていく。実際、「ある条件下では、シェアード・リーダーシップはピラミッド型組織よりも高いパフォーマンスを実現する」という実証研究の結果も出てきている。


宗教を学べば経営がわかる (文春新書)、第5章 なぜイスラム教は「ティール組織」が作れるのか より

「全員があたかもリーダーのように自律的にふるまって組織を動かす」とは、それは理想的で素晴らしいだろう。でもそんなことが本当に実現できるのか。そう考えながら本書を読んでいったことを先に述べておく。

「リーダーシップ・シフト」の全般的な感想

さて本書はシェアード・リーダーシップを実際にどう実現していくのかについて書かれた本である。特徴としては、相応の調査研究を土台としておりデータがしっかりとしていること、そして研究の中では複数の実践企業へのインタビューがされており、紹介されていることだ。類書に比べて信頼度は高い。

というわけで、しっかりした本であり、実践する際には大いに参考になりそうというのが全般的な感想である。

  • 現状のマネジメントを取り巻く環境変化については、中原研究室の本らしく生々しく説得力が高い
  • 「実践のための5つのステップ」はどれも試してみたい。特にステップ1「イメトレしてはじめる」が良かった(もちろんイメトレすることはあったが、解像度が上がった)

と、大変良い本であるけれども、とくにソフトウェア開発に関係する人にとっては注意する点があると思う。
それは、本書が既存のエンジニアリングマネジメントやアジャイル開発プラクティスで紹介されている内容と、けっこうかぶっているということだ(あくまで個人の感想です)。

まあソフトウェア開発でもチームリードは大きな課題なので仕方がないとは思うのだけど、「あれ、これはもうやってるんだけど」という事がけっこう出てくる。そういう箇所については「あー、IT業界の外から見るとこういう感じなんだなぁ」と思いながら読むと良いだろう。いっぽうで、非アジャイルな職場に展開したり、人事部と話すときにはアジャイルラクティスの話をするよりは*1、シェアド・リーダーシップを軸にした方がよさそう。

リーサーシップをシフトする5つのSTEP別に感じたこと

さて、具体的に本書で紹介されているシェアド・リーダーシップを実現するための5つのステップについて感じたことも書いておく。

STEP1 イメトレしてはじめる

  • 改めて「少し未来のビジネス、チーム、そして自分」を想像してみるというのはいいなと思った
  • アジャイルラクティスでいえばインセプションデッキのワークの一部ではある(こちらはチーミングの文脈が強いけれど)

STEP2 安心安全をつくる

STEP3 ともに方針を描く

  • ここも新しさがあるわけではないけど、旅行プランの説明の腹落ち度が高かった。

少なくとも、誰か1人が、あるいは旅行会社が考えた全てお任せのパッケージ旅行に参加するよりは、全員で一からプランを考えて手配した旅行のほうが、より主体的に旅をすることができる、というのは誰もが共感できることではないでしょうか。


リーダーシップ・シフト 全員活躍チームをつくるシェアド・リーダーシップ

STEP4 全員を主役化する

  • トラックナンバー、バス係数の話に近いかな
  • スキル的な話だけではなく「表舞台に上げる」「演出する」「スポットライトを上げる」といった考慮は実践的だと思う。もっとやらなきゃだわ

STEP5 境界を揺さぶる

  • 越境そしてSECIモデルな話だとは思った(注:どちらも個人の感想で、本書の中で言及されていたわけではない)
  • 「他流試合で、チームの当たり前を見直す」というのは積極的にやりたい。

*1:もちろんいろいろな事例がアジャイル系のカンファレンスで紹介されてはいるのだけれども