勘と経験と読経

略すとKKD。ソフトウェア開発やITプロジェクトマネジメントに関するあれこれ。

おっさんITエンジニアの仕事で役に立った書籍(国語・日本語・文章術編)

EMのしごとで良く使う本75冊 - だいくしー(@daiksy)のはてなブログ がとても参考・刺激になったのと、最近読んだ「エレガントパズル エンジニアのマネジメントという難問にあなたはどう立ち向かうのか」の末尾に掲載された「役に立った書籍」リストにも感銘を受けたので、仕事に役に立った(もしくは良く読み返す)書籍をテーマ別に列挙してみたいと思う*1

専門的なキャリアに役立つお勧めの書籍を教えてほしいと頼まれることがある。その時々でのお勧めの本を何冊か思い付くが、もっとよい本があったのではないかといつも後から思っている。そのため、より適切に答えられるように、さまざまな目的の本、リーダーシップの本、マネジメントの本の一部を書き留めておくことにした。

ピックアップの基準は以下の通り

  • 自分の蔵書で以下の条件に合致するもの
    • おっさんITエンジニア(最近はマネージャー)として、よく読み返したり、引用したり、メンバーに指し示すもの
    • 内容をよく覚えていて、ふだんの自分の仕事に強く影響を与えたりしているもの

なお書籍との出会いはタイミングもある。現代においては紹介した本よりも素晴らしいニュースタンダードが存在する(そして、たまたま私がそれを読んでいない)ということもあると思うのでご注意を。

国語・日本語・文章術について

日本人であればそれなりに学校教育で国語・日本語・文章術について学んでいるはずなので改めて勉強する必要などないという意見もあるだろうが、わたしはこれには反対だ。

  • (多くの人は)言葉をつかって思考を行うという意味で、国語力は思考力とも強く関係している。まず、ものを考える際にも国語の力が必要である*2
  • そして現代は非同期コミュニケーション(メールやチャットやその他もろもろ)が非常に発達している時代である。なんでも対面で話し合えば良いというものではなくなった。ということは文字表現で意図を伝えたりくみ取ったりしなければならない。その点でも国語力の重要性は増している

と言えば上品だけど、実感としてはこう

  • あなたの文章は読みにくい、長すぎる、複雑すぎる、文法的におかしい
  • あなたの言いたいことはわかるが、それを理解・読解するのに時間・認知的負荷がかかりすぎる*3
  • あなたの文章は間違っている。もしくは誤解・複数の解釈を招く内容になっており害がある

というわけで本稿では国語・日本語・文章術に関して参考にしている書籍などを紹介していきたい

理科系の作文技術

とても有名なので、いまさらではあるがおすすめしたい本である。有名なのは理由があるからであり、安価で250ページ弱という薄さなので買って読んで損はないだろう(古書店でも手に入りやすい)。なおタイトルに「理科系」とあることで敬遠する人もいるかもしれないが、(アートやクリエイティブな分野を除く)現代のほとんどの仕事に通用する内容だ。

私がこの書物の読者と想定するのは、ひろい意味での理科系の、わかい研究者・技術者と学生諸君だ。これらの人たちが仕事でものを書くときーー学生ならば勉強のためにものを書くときーーに役立つような表現技術のテキストを提供したい、と私は考えている。主題は作文技術にあるが、最後の章で口頭発表の容量にも触れる予定である。
理科系の作文技術(リフロー版) (中公新書)

「超」文章法

理科系の作文技術が「作文」の基礎であるのに対して、本章は「文章」の基礎である。類書も多いが、わたしは本書で文章を書くことがずいぶんと楽になったり改善されたように感じている*4。本書も安価で270ページ弱なのでお勧めしやすい本である。

本書は、文章を書く際にすぐ使えるマニュアルになることを目指している。
(中略)
本書は、これまでの文章読本が論じた事項より「前の段階」を強調している。
第一は、メッセージの明確化だ。
(中略)
第二は、骨組みの構築だ。
(中略)
従来文章読本が論じてきたのは、主として本書の第5章、第6章の内容だ。本書は、これを「化粧」と呼ぶ。私の経験からすると、重要なのは、化粧より前にある右の二つである。
「超」文章法: 伝えたいことをどう書くか (中公新書 1662)

記者ハンドブック

うってかわって、こちらは読み物というよりも辞書のようなもの。本来の用途は新聞記者が記事を書く際に参照するものようである。わたしは他人の文章をレビューするようになってから手元に置いておくようにしたのだが、なにかと便利な本である。大部分は用語集(新聞漢字や用字用語集)なのだが、冒頭にある「記事の書き方」およびp.106からの「書き方の基本」などは大変に参考になる*5。以前にこんな記事も書いてあるので興味があればどうぞ。

どのような時代になっても記事は①分かりやすくやさしい文章で書く②できるだけ統一した基準を守るーという原則に変わりはありません。そのよりどころとなるように心がけて編集しました。
記者ハンドブック 第14版 新聞用字用語集

とりあげなかった本たち

というわけで役に立った書籍を厳選して3冊ピックアップしてみたが、それ以外にもいろいろと読んでいる。とりあげなかった本についても簡単に紹介しておこう。

記憶の限りで書いてみたけれど、皆さんはどうお考えだろうか。フィードバックは、はてなブックマークかXあたりでいただきたい。

*1:誰かの役に立つかもしれないが、この記事の用途は自分が人に書籍紹介するのをラクにすることだ(良書の紹介を依頼されたときに「このページ読んで」と言うために書いている)。

*2:ストレスのはなし メカニズムと対処法 (中公新書)」では、ストレス環境においての日本語能力も重要、という話が書かれていて実感としても納得できるものがあった。「いまの状況(気持ち)」をちゃんと理解したり伝達できなければ精神的なストレスも大きいだろう

*3:言葉ダイエット メール、企画書、就職活動が変わる最強の文章術」がいい事を書いていた。『まずは「相手は自分の文章を読みたくない」という前提に立ちましょう』

*4:ある意味、このブログの記事執筆にも活かされているといえる。とても参考にしている

*5:例えば句読点の打ち方については理論としては「<新版>日本語の作文技術 (朝日文庫)」などのほうが詳しいのだけれど、コンパクトに正解だけを知りたい場合は記者ハンドブックの要点説明のほうが理解しやすいし、何より人に説明しやすいと思う

*6:潜入取材、全手法 調査、記録、ファクトチェック、執筆に訴訟対策まで (角川新書)」では即効薬に近い役立つ本の第一位としてとりあげられていた。ちなみに第二位以降は「日本語練習帳 (岩波新書)」「大人のための文章教室 (講談社現代新書)」「「超」文章法: 伝えたいことをどう書くか (中公新書 1662)」である。『書き方の指南書は掃いて捨てるほどがるが、実践に役立つ本は一握りしかない』