勘と経験と読経

略すとKKD。ソフトウェア開発やITプロジェクトマネジメントに関するあれこれ。

「Retrospectives Antipatterns」を読んだ

先日「Project Retrospectives: A Handbook for Team Reviews (Dorset House eBooks) (English Edition)」を読んだばかりだけれど、別の調べ物をしていたら「Retrospectives Antipatterns」という本が最近発売されたことを知ってしまったので勢いで読んでみた。アンチパターン好きなもので。すごい有用な本だった。

Retrospectives Antipatterns

Retrospectives Antipatterns

著者サイトはこちらのようだ。https://metadeveloper.com/

全体的な感想

えてして「ふりかえり」のファシリテーターは孤独だと思う。特にファシリテーションすること自体を主な仕事にしている場合、「より良い方法」「違ったやりかた」に触れる機会を持つことはなかなかに難しい。組織外のオープンコミュニティなどで情報交換をすることは可能だ。でも、外部から入手できる情報は「うまくいった事例」「新しいテクニック」が多い。チームのコンテキストはそれぞれ違うので、新たに入手した情報を活用することもなかなかに難しい。知りたいのは「よくある失敗と対策」である--という意味では、まさに本書はズバリ革新を突いているいると思う。まさにアンチパターン=「ふりかえりでよくある失敗と対策」が示されているのだ。

というわけで私は本書を読みながら「ああ、これはあるある」と感じまくり、そして「自分だったらどうするか」を考えることが出来たという意味でとても有用だった。

なお、全てのアンチパターンには通常の対応方法だけではなく、オンラインで実施する場合の注意点が併記されている点も素晴らしい。オンラインでのふりかえりは、オンサイトのものに比べて難易度も高いし考慮点も多い。良いきっかけを与えてくれたと思う。

おまけ:Retrospectives Antipatternsを読んだメモ

自分で後から参照することも考慮して、読みながら書いたメモを公開する。
なお書籍では各アンチパターンにはいろいろな解決策も提示されているが、これは興味があれば原著をあたっていただきたい。

序文

    • 蛸は観察学習ができる。餌につられて学習訓練を行う蛸を観察して、報酬を受け取らない蛸も同様の能力を得るのだ。
    • 蛸の脳の60%は8本の足にある。
    • 良いレトロスペクティブにおいて、ファシリテーターとチームは蛸の足のように共通の目標に向かって一緒に働くのだ。
    • 本書で紹介する各アンチパターンには、その本質をふまえた蛸のイラストが添えられている。

Part.1 Structural Antipatterns

Wheel of Fortune(運命の輪)
  • ふりかえりの時間を短縮するためにStart-Stop-Continue(KPTに類似)のようなワークを使い、問題を分析せずに表面上の対策ばかりを実行してしまう(例:もっとペアプログラミングをする)
  • 運よく問題解決できる場合もあるが(アタリが出る)、根本問題が解決できない場合はふりかえりのたびに同じ話を繰り返すことになるだろう。ルーレットを回し続けても、状況は変わらない
Prime Directive Ignorance (最優先命令を提示しない)
  • ふりかえりを実施するにあたり、いわゆる「カースの最優先事項」を共有しないで始めてしまう

カースの最優先事項
今日見つけたものが何であれ、チームの全員が、その時点でわかっていたことやスキルおよび能力、利用可能なリソースを余すことなく使って、置かれた状況下でベストを尽くした、ということを疑ってはならない
Project Retrospectives: A Handbook for Team Reviews (Dorset House eBooks) (English Edition)

  • ふりかえりが非生産的なスケープゴートの発見と追及の場になってしまう(例:初期のメンバーXの働きが不十分だった)
In the Soup(インザスープ)
  • ふりかえりでチームは自分たちの権限が及ばないことについて話し合ってばかりいる
Overtime(延長)
  • ふりかえりをだらだらと延長してしまい、参加者の一部は離脱してしまう
Small Talk(スモールトーク
  • 雑談を止めることができない
Unfruitful Democracy(実りの無い民主主義)
  • 議題を投票で決めた結果、選ばれなかった少数意見のメンバーが議論に参加せず、別議論を始めてしまう
Nothing to Talk About(何も話すことはありません)
  • プロジェクトがうまくいっているので、ふりかえりが不要とされてしまう
  • ふりかえりの目的が誤解されている

紹介されているFuturespectiveとThe Shipというワークはかなり興味深い。

Political Vote(政治的投票)
  • ふりかえりにおける投票などで、みんな他人の顔色をうかがってしまう。結果として各人の本当の意見が反映されない。

Part.2 Planning Antipatterns

Team, Really?(本当にチーム?)
  • 忙しい兼務の専門家(アーキテクトなど)をふりかえりによばない
Do It Yourself(日曜大工)
  • ふりかえりのファシリテーターが固定化(一般的にはスクラムマスターが担当)することにより、回数を重ねるごとにマンネリ化する
Death by Postponement(延期による死)
  • 次回のふりかえりまで問題を抱え込んでしまい、対処が遅れる
  • ふりかえり間隔が長すぎる、または忙しさによりふりかえりが延期される
  • 結果として、ふりかえりに大量の問題が持ち込まれて十分に議論できなくなる
Get It Over With(已むを得ず)
  • 作業を優先するために、ふりかえりの時間を短縮する
Disregard for Preparation(準備を無視する)
  • オンラインで行うふりかえりにおいて、準備不足により参加者が時間通りに参加できず、共有ドキュメントを開くのに手間取り、結果としてふりかえりは混乱し目的を達成できない
Suffocating(窒息)
  • 休息をせずにふりかえりをおこなう
  • 集中力が損なわれ、もしくは眠くなったりイラつく人も出て、結果としてふりかえりが時間の無駄になる
Curious Manager(好奇心旺盛なマネージャー)
  • 好奇心旺盛な上司やマネージャがふりかえりへの参加を希望する。
  • 邪魔をしないことが約束されても、安全性が損なわれてしまう。
Peek-A-Boo(いないいないばぁ)
  • オンラインふりかえりにおいて、参加者がビデオオフにしてしまう
  • ビデオオフにした参加者がふりかえりに集中していないことに気づけない

Part.3 People Antipatterns

Disillusioned Facilitator(ファシリテーターへの幻滅)
  • ファシリテーターが経験不足などにより、ふりかえしの有用性をきちんと説明できない
  • チームが真剣にふりかえりをしない(ふりかえりをお遊びだと評する)
Loudmouth(おしゃべり)
  • 特定のひとばかりが話をする
  • 話が長いので、チームメンバーは話を聞かなくなる
Silent One(静かな人)
  • 極端に静かな人がいる
Negative One(否定的な人)
  • ふりかえりに対して否定的かつ、阻害するような発言をする人がいる
Negative Team(否定的なチーム)
  • チームがネガティブな問題に対する議論ばかりにフォーカスする
Lack of Trust(信頼の欠如)
  • チームメンバー間の信頼が欠如しており、重要なことを共有できない

この章で紹介されているこのビデオがとても良い。https://www.youtube.com/watch?v=YPDmNaEG8v4

Different Cultures(異なる文化)
  • 異なる組織と協働するプロジェクトで、文化が阻害要因となってふりかえりが促進できない
Dead Silence(死の沈黙)
  • チーム全体が発言しない(特にオンラインふりかえりなどで)

結論

  • ファシリテータもふりかえり続けよう