勘と経験と読経

略すとKKD。ソフトウェア開発やITプロジェクトマネジメントに関するあれこれ。

いまさら「Project Retrospectives: A Handbook for Team Reviews」を読む

同僚と「アジャイルレトロスペクティブズ 強いチームを育てる「ふりかえり」の手引き」の話をしていたところ、同書で紹介されていた類書「Project Retrospectives: A Handbook for Team Reviews (Dorset House eBooks) (English Edition)」に気が付いた(自分が読んだ時には気づかなかったなぁ)。未翻訳だけど、そういえばO'reillyで原著が読めるので、興味の向くままに読んでみた。2001年の本である。

そういえば平鍋さんのブログでも紹介されていた(自分、重要さに気づくのが15年ほど遅い)。

全体的な感想

  • 本書の重要な点は、アジャイル開発の文脈と切り離されている点である。よって本書で扱う「ふりかえり」は反復的なものではない。でもみんな今必要なのは、これでしょ?
  • 著者Norman Kerth氏のふりかえりに関するゴールデンルールは忘れないようにしたい。

カースの最優先事項
今日見つけたものが何であれ、チームの全員が、その時点でわかっていたことやスキルおよび能力、利用可能なリソースを余すことなく使って、置かれた状況下でベストを尽くした、ということを疑ってはならない

  • 加えて上記ほどはピックアップされていないけど、ケーススタディ他で取り上げられているこのルールも重要だと思う「参加者の誰かを犠牲にするジョークは言ってはならない」
  • 本書で扱われる「ポストモーテム」はSREの文脈における(インシデントに対する)ポストモーテムとは異なる点には留意をしたほうが良さそう
  • 残念ながら本書のサポートサイトである www.retrospectives.com はクローズされている。というか著者のKerth氏は99年の自動車事故により引退されているようだ。残念で仕方ない
  • PMBOKベースのプロジェクトマネジメント方法論にも「終結」プロセスっていうのはあるけれど、私は本書のアプローチのほうが良いと思う。

Project Retrospectives: A Handbook for Team Reviews 各章の感想

序文

だいぶ良い出だし。惚れた。

そうら、クマくんが、二階からおりてきますよ。バタン・バタン、バタン・バタン、頭を階段にぶつけながら、クリストファー・ロビンのあとについてね。二階からおりてくるのに、クマくんは、こんなおりかたっきり知らないのです。もっとも、ときには、かんがえることもあるのです。このバタン・バタンをちょっとやめて、かんがえてみさえしたら、ほんとは、またべつなおりかたがあるんじゃないかな……とね。
A.A.ミルン「クマのプーさん

(中略) ミルンの言葉を読んでいるとき、ミルンが説明している世界と私たち自身のクレイジーなソフトウェア開発の世界の類似点に驚嘆しています。ソフトウェア開発者として、私たちはプロジェクトごとに毎日頭をぶつけています。少し時間をとって別の方法を考えれば、もっと良い方法が見つかると思います。
Project Retrospectives: A Handbook for Team Reviews (Dorset House eBooks) (English Edition)

  • 本書を通じて読者はプロジェクトの最後に「特別な儀式:ふりかえり」を行い、立ち止まって考えることができるようになる。
  • ソフトウェア開発の分野は急速に変化しているため、作業慣行を継続的に見直す必要がある。振り返りは、ソフトウェアプロセスの改善に役立つ。
  • プロジェクトが失敗した場合、ふりかえりによってプロジェクトメンバーは失敗から学び、それを超えて進むことができる。
  • ふりかえりは、参加者の学習、成長、成熟を促進する。

第1章:ふりかえりの紹介

  • プロジェクトで反省をするということは「自然な行為」ではない。よって行為を形式化し、儀式化し、意識的に実施する必要がある。
  • ふりかえりでは心理的安全性が重要である。
  • ふりかえりを成功させるためにはファシリテーションが重要である。

第2章:ふりかえりの解剖学/ケーススタディ

本章では本書が提起するふりかえりの流れがストーリーとして共有される。かなり興味深い。

第3章:ふりかえりのエンジニアリング/選択について

  • 前回のふりかえりのテンプレートをコピーするほうが、新たにふりかえりを設計するより楽だが、過去のテンプレートは現在の状況に適合するとは限らない。
  • ふりかえりは、環境条件とチームのダイナミクスにあわせて設計すべきである。
  • 考慮すべき事項
    • 目的
    • 組織文化(健康状態)
    • ふりかえりをリードするスキルを有しているか
    • 参加者
    • 実施場所
    • 実施時期
    • 期間(効果的なふりかえりを行うのであれば3日を要する)

第4章:ふりかえりのアイデアを組織に売り込む方法(かなり意訳。原題はSelling a Retrospective)

  • 組織やプロジェクトをとりまく環境によってアプローチは異なる
  • 第1セグメント:改善が習慣化された組織
    • ふりかえりは改善施策を補完する、と説明すればよかろう
  • 第2セグメント:トラブルや失敗に対する対策を考えている組織
    • トラブルを防止する方法を発見することをコミットする
    • 対応しなければトラブルは再発する、と伝える
  • 第3セグメント:プロセスを変える気はない
    • 長期的なマーケティングを実施するしかない
    • 個別チームが第1もしくは第2セグメントするように後押しする

第5章:ふりかえりの準備

  • まず、マネージャと初回セッションを実施する
  • コミュニケーションマップを作る(マネージャにも手伝ってもらう)
    • プロジェクトの略語やチーム名称などについても確認する
  • メトリクスを収集しておく(スケジュール、コスト、品質)
  • 構成管理データを収集しておく(LOC、etc)
  • バグ管理システムのデータを収集しておく
  • 参加者を招集する
  • チェックリストを用いて設備を確認する

第6章:ふりかえりで使うエクササイズ集

  • 準備に関するエクササイズ
    • Introduction
    • I'm Too Busy
    • Define Success
    • Create Safety
  • 過去をふりかえるエクササイズ
    • Artifact Contest
    • Develop a Time Line
    • Emotions Seismograph
    • Offer Appreciations
    • Passive Analogy
    • Session Without Managers
    • Repair Damage Through Play
  • 未来について考えるエクササイズ
    • Cross-Affiniy Teams
    • Making the Magic Happen
    • Change the Paper
    • Closing the Retrospective

第7章:ポストモーテムをリードする

本書では「失敗プロジェクトに関する振り返り」を「ポストモーテム」と呼んでいる。
失敗したプロジェクトのふりかえりを実施する場合の留意点。いわゆる「失敗学」の話。

  • 通常のふりかえりと、ポストモーテム(本書においては失敗プロジェクトのふりかえり)の重要な違い
    • 同じ手順や目標を共有するが同一のものではない
    • ポストモーテムのほうが難易度も高く、慎重を要する。また期間も長い

第8章:ポストモーテムで使うエクササイズ

  • CEO/VP Interview
  • Art Gallery
  • Define Insanity
  • Make It a Mission

第9章:ふりかえりファシリテータとして熟練する

ファシリテータ能力に関する学習について、およびふりかえりファシリテータとして活用できる基本的手順のカタログ。

  • Dealing with Conflict
  • Handling Resistance to Change
  • Four Freedoms
  • Understanding Differences in Preferences
  • Ingredients of an Interaction
  • Congruent Messages

第10章:ふりかえりの後に

組織にふりかえりの文化をどう組み込むか。また「ふりかえりのレポート」をどう書くべきか。そして「ふりかえりのふりかえり」について。

この本も面白いんですよ。こっちは日本語で読めます