ここ数年、定期的にソフトウェア業界で盛り上がるのがシステムインテグレーター(SIer)のビジネスモデルに対する批判の話題である。いろいろと議論されるのは良いことだと思うのだけれども、自分の周りで不必要に不安を感じている人が多いのでいったん現時点での私見をまとめておく。最近よく面談で聞かれる「SIerってどうなんですか」「SIerに所属することについて不安を感じんですけど」という質問に対する2016年前半時点での答え。
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気をつけるべきこと
本論のSIer論とは全然関係ないのだけれど、先の震災の時に糸井重里氏が書いたこのコメントを紹介しておきたい。
ぼくは、じぶんが参考にする意見としては、「よりスキャンダラスでないほう」を選びます。「より脅かしてないほう」を選びます。「より正義を語らないほう」を選びます。「より失礼でないほう」を選びます。そして「よりユーモアのあるほう」を選びます。
— 糸井 重里 (@itoi_shigesato) 2011年4月25日
このコメントは震災の後、デマを含む様々な情報がネットで飛び交っていたときに発せられたもの。文脈は異なるけれど、昨今話題となるSIer論についても様々な立場の人やメディアが、いろいろな立場で、いろいろな形で情報を発信しているので注意したほうがよいと思うのだ。そしていたずらに不安を感じるのはやめたほうがいいと思う。
ギーク向けには以下の書籍もおすすめしておきたい。

- 作者:ダグラス・アダムス
- 発売日: 2005/09/03
- メディア: 文庫
自分のキャリアとビジネスについて再考する
現在も進行中だし、今後もSIerを中心とするIT業界は大きな変化が起こっていくだろう。
ただ、いたずらに不安を感じて安易に船を乗り換える行動をするのは乱暴すぎるし、リスクも大きい。
というわけで、個人的にはPanicになっている人には以下のアドバイスを行っている。
- SIerというと将来は明るくなかったり不安を感じたりするかもしれないけれど、もう一歩踏み込んでソフトウェア開発業務に従事しているという立場に立ち返って、ものごとを考えた方が良い
- SIerはあくまでビジネスモデルの一形態である。課題は多いが、ビジネスモデルの良し悪しは本来は技術者のキャリアパスとは直接関係ないはずだ。ビジネスモデルとキャリアパスを一緒に考えるのは筋が悪い
- ソフトウェア開発のプロフェッショナルとして仕事をすることに立ち返って、自分自身のキャリアパスを考えるべき。そして、そのキャリアパスを実現するためにどう行動するか、が重要
- 5年後くらいまでのキャリアの見通しを考える。見通しが立たないのであれば情報不足か検討不足だ。まず見通しを立てるべき
- 10年後くらいに業界それを取り巻くビジネスモデルがどうなっているかなんて、誰にもわからない。ソフトウェア開発技術者としてのキャリアをしっかりと構築しよう
- 現在のアサインメントに不満があるのであれば、それを改善するために何ができるのかを考えよう。プロジェクトなんて千差万別だし、移ろい変わるものなのだから(特にSIerにいれば)
- ソフトウェア開発を行う場所としては、SIerは選択肢(プロジェクト)を固定せず、うまく渡り歩く事でいろいろなキャリアを構築しやすい。その特性を有効活用できないか考えてみるといい
- 職場文化は自らが創るものであると考える
- 仕手士になるな。中抜きの仕事で満足するな
キャリアデザインについて考えている人におすすめの本は以下の2冊。前者は若手向け。
現時点でのSIerに所属する自分の考え
- 勝負はこれからだ
- キャリア構築は長期戦だ。いま何の仕事をやってるか、短期的な役割は割とどうでもいい
- 自分の市場価値が低下しないように、自己学習投資は怠らない
- 20年後も、現場の中堅・若手と競争できるようにするにはどうすればよいかを考える
- 国内の労働者数は今後減少していく。健康で、競争力があれば老いても仕事はある(ということを最近先輩諸氏が示してくれている)
- 働きつづけることは普通になる
未来の職業生活に向けて準備するのは、刺激に満ちた経験だ。今後数十年の間に、仕事の世界で多くの変化が起き、キャリアや働き方に関する古い常識が次々と葬りさられる。
ワーク・シフト ─孤独と貧困から自由になる働き方の未来図<2025>
みなさんのお父さんやおじいさんは――お母さんやおばあさんは仕事をもっていない場合が多かったでしょう――生涯を通じて一種類の仕事を続けるのが普通でした。でも、みなさんは六〇年以上、働き続けることになります。生涯の間に、いろいろなタイプの仕事を経験するケースが増えるはずです。最初の仕事に就いてから二〇年たって、別の道に移る人もいるでしょう。あるいは、四〇年たってから進路を変える人もいるかもしれません。まず学校に通い、その後で仕事に就き、それから引退生活に入るというシンプルな道のりを歩んで人生を送るケースは珍しくなります。複雑なモザイクのように、人生のさまざまな段階に教育や能力開発の要素を織り込むようになるでしょう。
ワーク・シフト ─孤独と貧困から自由になる働き方の未来図<2025>『子どもたちへの手紙』