勘と経験と読経

略すとKKD。ソフトウェア開発やITプロジェクトマネジメントに関するあれこれ。

「業務デザインの発想法」を読んだ #デッドライン読書会

未消化の積読技術書をデッドラインを決めて読んで感想をブログに書く企画(ざっくり)の第3回。今回は発売されたばかりの「業務デザインの発想法」を課題図書に選定。読んでみた。

デッドライン読書会のルールは、以下参照

わりと無かった業務デザインに関する本

業務デザインの発想法」はタイトル通り、業務デザイン(業務設計)に関する本である。思い返すと業務デザインに特化した良書というのはあまり心当たりがないので、そういう意味では貴重なノウハウが詰まった本という気がする。

業務デザイン関連というと、ビジネスプロセスモデリング関連の書籍をこれまでは割と参考にしていた。たとえば古典(かつ絶版本)だけれども

ユースケース実践ガイド―効果的なユースケースの書き方 (OOP Foundations)

ユースケース実践ガイド―効果的なユースケースの書き方 (OOP Foundations)

上流工程UMLモデリング

上流工程UMLモデリング

あと
要求開発~価値ある要求を導き出すプロセスとモデリング

要求開発~価値ある要求を導き出すプロセスとモデリング

  • 作者: 山岸耕二,安井昌男,萩本順三,河野正幸,野田伊佐夫,平鍋健児,細川努,依田智夫,[要求開発アライアンス]
  • 出版社/メーカー: 日経BP
  • 発売日: 2006/03/02
  • メディア: 単行本
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あたりが良い本であった印象がある。ただ、これらの本はいずれもソフトウェア開発における開発対象の分析がメインの題材であり、いっぽうで業務デザインという意味では、

  • 新規業務をどのような組織で遂行するか(業務体制の検討)
  • 新規業務にどうやって移行するか(業務移行の検討)
  • 新規業務開始後の運営をどうするか(業務運営の検討)

あたりも必要になるが、いずれも割と王道的なやり方・正攻法はなく、毎回工夫しながら乗り越えてきた気がする。そもそもソフトウェア開発エンジニアとして「業務設計」そのものに関わる頻度というのも多くなかったので、なんとかなってきた。
いっぽうで、RPAのような新しい技術による業務見直しや改善、BPRの機会はどんどん増えていくと思われる。その際には、本書を教科書のように使って効率的に業務設計ができるようになるだろう。

本書のカバー範囲と感想など

開発系ITエンジニアの視点で読みながらいくつか感想などを列挙してみた。

  • 第1章 「何を」「どのように」提供するか決める ~業務設計/システム設計
    • ITシステム開発の文脈で言えば、業務要件定義に分類されるタスク。
    • ちょっと気になったのは、コンプライアンスやライセンス関連の記載がほとんどないところ。いつも重要になるわけではないのだけれども、設計した業務が法制度上問題ないかとか、商標や特許侵害していないかといった観点はあるような気がする。まあ、対象業務の規模や内容によるけれども。
    • 運用組織設計やリソース計画は(エンジニアとしては)割とお客様に担当いただく事が多いのだけれども、内容によっては(例えば新規業務部署を設立するとか)なかなか確定できないので、制約を整理して未決のまま設計をしたりすることもある。プロジェクトマネジメントの話だけれども、リスク管理が重要なエリアだと思う。
  • 第2章 業務のおはようからおやすみまでを想定する ~ライフサイクルマネジメント
    • ITシステム開発の文脈で言えば、保守運用設計などと呼んだりするタスク。
    • 割と検討を後回しにしがちで、あとで死ぬやつ。
  • 第4章 あたりまえの業務を,あたりまえに提供できるようにする ~オペレーションマネジメント
    • 戻って第2章と一緒に、保守運用設計に含めて考える事が多い気がする。もしくは、いったん実施した保守運用設計をベースに運用初年度の具体的な計画を立てる時に考えるようなイメージ。
  • 第5章 業務の価値を高める ~付加価値向上
  • 第6章 人と組織を継続的に成長させる ~環境セットアップ/ブランドマネジメント
    • 組織設計といったカテゴリの内容。残念ながら、SIerのエンジニア目線だとちょっと縁遠いというか、ここまで踏み込むことはあまり無い印象。

ちょっと残念だったところ

本書の一番良い点は、割と広範囲に業務デザイン周辺のテーマを総ざらいしている点なのだけれども、一方で個々の検討事項の分析の方法やアウトプットの定義までは踏み込んでいないところはちょっと残念。
例えば、業務設計の成果物やドキュメントはどのように定義すべきか(1-8章でラインナッップまでは提示されている)などである。
もしかすると、このあたりを補完する続編の構想があるのかもしれない(最近よくあるビジネス小説書形式とか)。

あと、私はKindle版で本書を読んだのだけれども巻末の索引が単なる用語の羅列になっており無リンクなのは、意図したものなのだろうか疑問である。可能であればアップデートで訂正いただきたいものだ。