The DevOps ハンドブック 理論・原則・実践のすべてで紹介されていた「産業安全についての神話」(補章E)が面白そうだったので調べてみた。ソフトウェア開発に限らず、工学全般の話。

The DevOps ハンドブック 理論・原則・実践のすべて
- 作者: ジーン・キム,ジェズ・ハンブル,パトリック・ボア,ジョン・ウィリス
- 出版社/メーカー: 日経BP社
- 発売日: 2017/07/04
- メディア: Kindle版
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複雑なシステムに対する数十年の研究の結果、危険への対応策はいくつかの神話に基づいていたことがわかった。
原文はおそらくこれ
なお以下私の誤読の可能性もあるので、興味があれば上記の原典論文を参照のこと。
神話1:事故やインシデントの唯一最大の原因はヒューマンエラーである
原因をヒューマンエラーと分析すること自体に誤りがある。
- 不正行為の暗示
- 犯人探し
- 後付けバイアス
であり、作業環境の不備や不足の隠蔽に繋がる。よって、問題の原因をヒューマンエラーと説明すべきではない。
また、問題の行動がが通常どのような状況下で行われるのかについて検討をすべきである。
神話2:システムは、人々が与えられた手順に従っていれば安全である
全ての事象をカバーする完全な手順を構築することが不可能であること、および本来人間が持っている柔軟性を制限することが有害である場合があることから誤りである。
神話3:安全性は障壁と保護によって上がる。保護の階層を増やせば、安全性は上がる
一見すると正しく見えるが、追加的な保護が人々の行動を変化させ、結果として安全を損なう場合を考慮する必要がある。曲がりりくねった道路に夜間安全対策として反射板を追加したところ、車の走行速度が増して、事故率が増加したという話などが紹介されている。
また、保護機構の追加によってシステムそのものの複雑度が増し、それによって安全性が低下する懸念もある。
神話4:事故分析は、事故が起きた根本原因(「真実」)を明らかにすることができる
根本原因分析は簡単な手法であり魅力的だが、必ずしも原因究明できるとは限らない。特に人間が関わるシステムの問題においては、人の持つ柔軟性、弾力性を考慮すると誤った分析や、前述の「ヒューマンエラー」を根本原因としてしまう可能性がある。
神話5:事故調査は、事実に基づいて原因を論理的、合理的に究明する
手法の選択を含めて事故調査は難しいプロセスであり、かつバイアスから逃れることは出来ないため、必ずしも論理的、合理的な結論に至るわけではない。またプロセスによって原因を発見するのではなく構築してしまいがちである。
神話6:安全には常に最高の優先順位が与えられており、決して妥協はない
言うまでもなく、組織がその負担をする余裕がある限りにおいては、という話である。