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勘と経験と読経

略すとKKD。ソフトウェア開発やITプロジェクトマネジメントに関するあれこれ。

ITエンジニアと法的要件の考慮

Project Management Professional Engineer

XP祭り2016で発表された「巷にはびこる間違ったUX論へのヘイトをぶつける集い」という発表をめぐる一連の議論を読みながら考えた事。ちなみにUXについては門外漢であるし、そこについての意見は無い。ただ、この中で出てくる「UXデザイナーは法律の考慮も行うべきなのか」については異論を唱えたいところ。

rosetta

なお一言断っておくと、「巷にはびこる間違ったUX論へのヘイトをぶつける集い」講演者の@takigawa401は知人である。だからと言って擁護するような意図は無いし、多分そういう内容になっていない。
また、もともとの議論はUXデザイナーに関するものなのだけれど、本記事ではより広義な事を書いているつもりなので記事タイトルは意図して「ITエンジニアは〜」というビッグワードを使っている。

プロフェッショナルを名乗るのであれば法規の遵守は第一の要件である

まあこの一言に尽きるのだけど・・・

2016年の現在においては、ユーザーニーズだけでなく(このブログで取り扱っているように)既存の各種法律や慣習もユーザーニーズと同様に機能使用や情報の構造に影響を与えるファクターとして存在しています。確かに16年前ではユーザーニーズを検討しておけば十分だったと思います。しかし現在ではITサービスの社会的需要の拡大により、サービスと既存法制との接点も十分に検討すべき課題として挙がっていると個人的には考えています。このような状況の中で、あくまでUXデザイナーの業務はUXだけに限るのか、よりよいサービス(の仕様書)を作るためにUXだけでなく法律や慣習まで業務範囲に含めていく必要があるのか、その辺りUX界隈の人たちがどのように考えているのか興味があります。

もちろん業務を行う上で、法律や商習慣の知識はあった方がいいでしょうし、その方が物事は早く進みます。ですが、UXデザインはそれ自体が非常に大変で専門的な役割であり、だからこそUXデザイナーはUXデザインに注力すべきでしょう。専門外のところまでフォローしようと思ったら、1日24時間どころか72時間あっても全然足らなくなってしまう。法律や商習慣、業務の細かな内容の確認は、それぞれのスペシャリストに任すべきです。だからこそ我々はチームを組み、協業して製品やサービスを開発するのです。

もちろん法的要件の適格性を最終的に確認するのは専門家の役割であるとは思うのだけれども、「UXデザイナーはUXデザインに注力すべきでしょう」という点には同意しかねるのである。職業プロフェッショナルを名乗るのであれば、当然のように法的要件および政治的・文化的要件に配慮すべきである。UXデザイナーに限った話ではなく。

これは職業倫理の問題なのだけれども、ちょっと長いが「ソフトウェア・エンジニアリングのための倫理ならびに専門職実務綱領(日本語訳)」の序文が素晴らしいのでこれを引用して説明したい。

コンピュータは商取引,産業,行政,医療,教育,娯楽,社会全体において中心的な役割を果たしており,その役割はますます増大しつつある。ソフトウェア・エンジニアはソフトウェア・システムの分析,仕様決定,設計,開発,保証,メンテナンス,テストに,直接的な参加あるいは教育を通じて貢献している。ソフトウェア・エンジニアは,ソフトウェア・システムの開発に対して果たすその役割ゆえに,
・自らが善いことをするのか,害をもたらすのか,
・他者が善いことをするのを可能にするのか,害をもたらすことを可能にするのか,あるいは,
・他者が善いことをするよう影響を与えるのか,害をもたらすよう影響を与えるのか,
を決定づける,重大な機会に直面する。自らの取組みが善いことのために利用されることを可能な限り確実なものにするために,ソフトウェア・エンジニアはソフトウェア・エンジニアリングを有益で尊敬に値する専門職の仕事とするよう最大限の努力を投じなければならない。こうした責務に従い,ソフトウェア・エンジニアは以下の倫理ならびに専門職実務綱領を遵守すべきである。
(中略)
倫理的な対立状況では,詳細な規則を盲目的に信頼するよりもむしろ,基本的な原則について注意深く考えることによって,それに最もよく取り組むことが可能となる。そうした原則とは,ソフトウェア・エンジニアに以下のようなことをするよう促すものである:
・誰が自分達の仕事に影響を受けるのかについて広い視点で考え,
・自分達ソフトウェア・エンジニアが他の人々を,当然払うべき尊敬の念をもって扱っているかどうかについて考察し,
・社会の人々が自分達の決定を,もしその内容がきちんと知らされるならば,どのように思うのかについて考え,
・最も権限・権力のない人達が,自分達の決定によってどのように影響を受けるのかについて検討し,
・自分達の行動がソフトウェア・エンジニアとしての理想的な専門家の仕事であると判断されるに値するものであるかどうかを考える。
これらのすべての判断において,社会の人々の健康,安全,福利への関心・配慮が最も重要である。すなわち「公共の利益」こそが,この綱領の中心に存在するものである。

類似のものとしてはITに限定しないエンジニア全般のものとして「技術士倫理要綱」、ソフトウェア開発については「認定情報技術者 倫理要綱」もあるのだけれども基本的には似たようなことが書かれている。要は「専門外なので知りません」とは言うべきではないのである。

ただ、もちろんこれは姿勢の話であって、最終的には専門家に頼らざるをえないとは思う。それでも取り扱う領域において、配慮すべき論点についてのリサーチは行うべきだし、それをすることが本来の職務の妨げになることは無いだろう。