勘と経験と読経

略すとKKD。ソフトウェア開発やITプロジェクトマネジメントに関するあれこれ。

「エッセンシャルスクラム」前半を読んだ #デッドライン読書会

読むのがホネな(積みがちな)技術書やビジネス書を取り上げて2週間の読書期限を課して読んでアウトプットする仮想読書会「デッドライン読書会」の第24回。今回選んだタイトルは「エッセンシャル スクラム」である。ちょっと2週間で読むには分厚いので前後編でお届けする。前編では「まえがき、第Ⅰ部(コアコンセプト)、第Ⅱ部(役割)」まで読んでいる。

エッセンシャル スクラム

エッセンシャル スクラム

最近すこし話題になった下記の記事では「エッセンシャル スクラム」は上級者向けに分類されている。これは完全に同意。いろいろと実践/経験した後に読むのがよさそう。

カイゼン・ジャーニー」の次に読む本としての「エッセンシャル スクラム

実は昨年、プライベートな読書会で「カイゼン・ジャーニー」を輪読することを推進していた(社内で興味のある人たちが参加し、私はサポートをする立場だった)。せっかくなので、と最終回には著者の一人である市谷さんにも参加していただきいろいろ話してもらったのだけれども、「次の読む本のオススメは何ですかね」という質問に対する回答が

だったのだ。その時はフーンと思っていたのだけれども、改めて本書「エッセンシャル スクラム」を読んでみたところ、なるほどと思ったのであった。

スクラムは始めやすいが学びにくいという問題

スクラムガイドでは、スクラムについてこのような記述がある。

スクラムフレームワークは意図的に不完全なものであり、スクラムの理論を実現するために必要な部分のみが定義されている。スクラムは実践する人たちの集合知で構築されている。スクラムのルールは詳細な指示を提供するものではなく、実践者の関係性や相互作用をガイドするものである。

また、個人的な実感としても非常にわかる

  • 様々な実践者の取り組みを聞きながら、試しながら、学習していく必要がある
  • マニュアルを読めばよいというものではない(というかプロセスそのものがマニュアル通りにやらないことを推奨している)
  • 結果として、様々なブログ記事、レポート、講演資料、カンファレンスなどが情報のインプットになる

もちろん自分はけっこう長い間この分野に関わってきたので、だいぶ様々な蓄積はある。でも自分が推進する場合はいいのだけれども、人にアドバイスをするときには「あれ? この話どこで聞いたんだっけ?」ということも多いのが悩みだった。

そういう点では「エッセンシャル スクラム」はだいぶ助けになる本である。スクラムの基本的概念を丁寧に紹介しつつ、実践部分について様々なノウハウもセットで紹介されているからである。

新しいスクラムチームに「スクラムガイド」を渡して、よい結果を期待することはできない。著者たちの比喩を使えば、チェスを初めてプレイする人にルールの説明書を渡して、まともに指すことを期待するようなものだ。「スクラムガイド」だけでは足りないのである。
本書『エッセンシャルスクラム』は、スクラムの基礎知識が一冊にまとまった、これまでにない本にしようと考えた。そのため、スクラムの原則、価値、プラクティスに関する詳細な議論を含んでいる。

うーん、もっと前に読んでおけばよかったな。

前半部分《まえがき、第Ⅰ部(コアコンセプト)、第Ⅱ部(役割)》の感想

というわけで前半部分を読んだところなのだけれども、収穫は多かった。
以下、特に興味深かった点を中心に抜粋する

  • 第1章 コアコンセプト
    • 最近はどこでも出てくるお馴染み「クネビン・フレームワーク」を用いた整理なのだけれども、スクラムが適していない領域について著者の経験を踏まえてハッキリと断言しているところが好感度高い。例えばスクラムを利用すべきではなく、カンバンを採用すべきといった実践的なアドバイスがあった。
  • 第4章 スプリント
    • どうやらIBM出身の著者による長期的/計画駆動型プロジェクトについてモチベーションが維持できない(だからスプリントがいい)という説明の中で出てくる「海を干上がらせる(ような途方もないプロジェクト)」という比喩は興味深い。あー、あるある。
  • 第8章 技術的負債
    • こういった章が独立して存在すること自体も素晴らしいが、内容も素晴らしい。技術的負債に関してはいろいろな書籍で触れられているが、著者の説明は極めて明快であり、かつ様々な議論を統合しているように感じた。
  • 第9章 プロダクトオーナー
    • 大規模(?)なプロダクトを管理する場合のプロダクトオーナーチームに関する議論が良い。一般的なスクラム本ではPOに関する深堀りはあまりされていない印象があり、実際のプロジェクトでボトルネックになりがちだ(私がSIer企業に所属しているから感じていることかもしれない)。プロダクトオーナープロキシ、あるいはチーフプロダクトオーナなどの概念が紹介されており参考になる。
  • 第13章 マネージャー
    • ファンクショナルマネージャ、およびプロジェクトマネージャとスクラムチームの関係性に関する論考で、ここも非常に良かった。ちょうどこの問題について整理するという課題が手元にあったのだけれども、だいぶ助かった。

というわけで現時点の感想は「噛めば噛むほど味が出る良書」という感じ。後半も楽しみである。