勘と経験と読経

略すとKKD。ソフトウェア開発やITプロジェクトマネジメントに関するあれこれ。

おっさんエンジニアの放送大学教養学部に入学記録9(5年目)

2020年4月から放送大学教養学部「人間と文化コース」に入学して、これまで勉強してこなかった人文系の勉強を始めている。5年目(前期・後期)が終わったので感想をまとめておく。

目次

50を過ぎたオッサンが放送大学の全科履修生として気ままに授業を取っている。理系の大卒資格は取っているので卒業をゴールにはしていない。学割の利用や大学図書館サービスなども活用できるので、割とお得な趣味である。授業はすべて(受講していないものも含めて)ネット配信されているので好きなペースで進めることができる。

5年目に受講した科目

この1年で受講した科目はこちら

錯覚の科学(’20)

私たちの脳が認識する世界と、客観的な世界の間にズレが生じること-それが「錯覚」である。この錯覚の性質や特徴を知ることは、私たちがどのように世界を認識しているのかを知ることにつながる。心理学の諸研究は、視覚や聴覚といった知覚研究を中心に、記憶や思考など広汎な心的過程で生じる錯覚のメカニズムを明らかにしてきた。これらの研究成果を概観することで、錯覚が私たちの日常生活や社会、文化、芸術に与える影響を検討し、人の認知が持つ独特の仕組みについて理解を深めていく。

  • 面白くてためになる、放送大学らしいTV授業。錯覚というとトリックアート的なものをイメージしてしまうがもっと広く認知的な観点で錯覚を取り扱っている。良い講義だった。
  • 講師は昨年受講して感銘を受けた「より良い思考の技法(’23)」と同じ菊池先生。なお講義の合間に「錯覚シアター」という気分転換コーナーがあるという構成も一緒だった。
  • 認知や思考の科学的なテーマを扱った書籍も最近は増えているが、すこし踏み込んだ学術的な話題に興味があるのであれば受講すべき科目だろう。
  • 悩ましいのは、放送大学(院も含めて)さらに発展した授業がないんだよなー。

西洋の美学・美術史(’24)

美学は美・芸術・感性(美的なもの)を主たる考察対象とする学問である。まず、西洋における美学という学問の成立とその後の展開を明らかにし、その上で、芸術という観念の成立と変貌、美と快の関係、美的なもの、創作、解釈、批評などの主題を論じる。西洋の美術史は人間像を中心とする。まず西洋美術の大半を占めるキリスト教美術の成り立ちや展開を聖母や幻視といった主題を中心に概観し、さらに死、性、食、自然といったテーマがいかに造形と結びついたかを、ときに東洋の事例と比較しながら多くの作品によって考える。

  • 美学は勉強してみたいテーマだったので、楽しみにしていた新設科目。だがしかし、超難しかった!。もう少ししたらちゃんと復習して理解を深めたい。講義を受けただけでは十分理解できなかった。
  • 前半(第1回~8回)が小田部先生の美学の講義で、とにかく難しい。後半(9回~15回)は宮下先生の西洋美術史という二本立てのような講義となっている。後半の西洋美術史については以前に受講した「西洋芸術の歴史と理論」と重なる部分はあるが、切り口は異なっていて学びがある。
  • とにかく美学についてはもうちょっと学びたいので、本科目の復習をした後は 発展科目としては放送大学院の「美学・芸術学研究」に挑戦してみるというのも楽しそう、と考えている(単位認定はされないが、テキストを買って講義を視聴することはできるので)。

宮沢賢治と宇宙(’24)

宮沢賢治(1896年-1933年)は今から約百年前に活躍した作家である。わずか三十七年の生涯であったが、膨大な作品(童話、詩、短歌など)を遺した。自分の作品を心象スケッチと呼んだが、豊富な自然科学の知識が散りばめられているので科学の読み物としても高く評価できる。そこで、この講義では賢治の作品に基づいて、天文学の入門を試みる。

  • 天文学入門とあるとおり「初歩からの天文学」だが、とっつきやすさを考えて宮沢賢治と組み合わせたという科目。講師の谷口先生は「天文学者が解説する 宮沢賢治『銀河鉄道の夜』と宇宙の旅 (光文社新書)」という本も書かれており、その内容も紹介されていく。
  • もともと宮沢賢治も好きな作家ということもあって楽しめた。宮沢賢治野尻抱影が1人の人物を媒介に接近していたということなどは知らなかったしのけぞった。
  • 天文知識は、ニュースや好きなSF小説などで微妙にアップデートされてはいるけれど、基本が小中学生の理科、科学学習で止まっていたような気がする。改めて現時点の最新の天文理論に触れるのは楽しかった。あー自分の知識は30年以上前のものだったと改めて実感。

現代に生きる現象学(’23)

現象学は20世紀初頭、フッサールによって創設された哲学だが、その後、時代に要請された問いに応答しつつ、「現象学運動」と呼ばれる独自の多様な思想運動として展開された。それはこの哲学が「事象そのものへ!」を標榜することで、むしろさまざまな事象に導かれ、「事象そのものの方から」思考を育むからである。本科目では現代に生きる現象学の可能性をさぐるため、フッサールとドイツでの現象学の展開の概要を押さえ、フランスにおける現象学の独特の展開を辿り、最後に現代における現場への展開として「ケアの現象学」を考察する。それにより受講生が自らの現場で現象学的思索を育めるようになることを目指す。

  • 哲学的な意味での「現象学」のみならず、その応用としてのケアの問題を取り扱っており知的好奇心が満たされる、大変良い講義だった。
  • 別の方向からケアと看護学についても興味があったのだけど、本講義でつながってしまった(ソフトウェア開発と看護学は、育成の観点とケアの観点でつながりがありそう)。
  • 扱う範囲は抽象度の高いフランス哲学近辺なのだけれども、「ケア」につながる観点で話題をしぼっているので理解はしやすかった。

来期(6年目前期)の予定

以下を受講予定。

  • 映画芸術への招待(’25):新設科目であり、すごい楽しみ! 映画の誕生から60年代くらいまでの内容を扱うらしい。
  • 原初から/への思索(’22):西田幾多郎ハイデガーに関する哲学の授業。西田については新書を一読した程度しか理解がないので、ここで深めたい。

これまでの記録

これまで受講した科目

  1. 哲学・思想を今考える(’18):1年目前期
  2. 西洋芸術の歴史と理論(’16):1年目前期
  3. 総合人類学としてのヒト学(’18):1年目前期
  4. 博物館概論(’19):1年目後期
  5. 文学・芸術・武道にみる日本文化(’19):1年目後期
  6. 西洋哲学の起源(’16):1年目後期
  7. 教育心理学特論(’18):1年目後期 ※大学院科目の聴講
  8. 「人新世」時代の文化人類学(’20):2年目前期
  9. 日本美術史の近代とその外部(’18):2年目前期
  10. 現代フランス哲学に学ぶ(’17):2年目前期
  11. 記号論理学('14):2年目後期
  12. 舞台芸術の魅力('17):2年目後期
  13. 西洋音楽史(’21):3年目前期
  14. レジリエンスの諸相(’18):3年目前期
  15. 心理学概論(’18):3年目前期
  16. 現代の危機と哲学(’18):3年目後期
  17. アメリカの芸術と文化(’19):3年目後期
  18. 中高年の心理臨床(’20):3年目後期
  19. より良い思考の技法(’23):4年目前期
  20. 日本仏教を捉え直す(’18):4年目前期
  21. 新しい言語学(’18):4年目前期
  22. 社会と産業の倫理(’21):4年目後期
  23. 考古学(’18):4年目後期
  24. 初歩からの数学(’18) :4年目後期
  25. 錯覚の科学(’20):5年目前期(本記事で紹介)
  26. 西洋の美学・美術史(’24):5年目前期(本記事で紹介)
  27. 宮沢賢治と宇宙(’24):5年目後期(本記事で紹介)
  28. 現代に生きる現象学(’23):5年目後期(本記事で紹介)