勘と経験と読経

略すとKKD。ソフトウェア開発やITプロジェクトマネジメントに関するあれこれ。

『チーム・ジャーニー』第2部を含めて読み終わった #デッドライン読書会

対象を決めたら2週間で読み切り、アウトプットして、感想戦をするという読書会企画の第14回。今回の対象は『チーム・ジャーニー』である。味わい深い本であるため、2回に分けることにしていて、今回は後半である第2部および全体の感想だ。前半の感想はこちら

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第2部の感想

さて、第2部は一種のエンタープライズアジャイル、もしくは大規模アジャイルのシミュレーションになっていると理解している。実際問題、このようなシチュエーションに放り込まれる経験はなかなか貴重なものなので、追体験としては極めて興味深いと言える。実際、第9話以降に発生する興味深いトラブルの多くは、おそらく筆者が経験したものなのだろう。アジャイル開発という枠組みがあるものの、おそらくそれぞれのトラブルに対する正解は一つではないし、本書に書かれた対策がベストとは限らないので「自分ならどうするか」という観点で本書と語り合えば非常に良い読書になると思う。

『チーム・ジャーニー』全体の感想

総論としては非常に有用な本だと思うし、様々な学びの入り口としても使える良書である。おそらく今後も本書と前作の『カイゼン・ジャーニー』は自分の後進指導時になんども活用する本になるとは思う。
チーム組成に関する良書だと知る限り以下のようなものがあるのだけれども、残念ながらそれぞれ視座がちょっと高すぎるのだ。現場メンバーが読む本としては難しすぎるので、本書『チーム・ジャーニー』は良い導入として使えると思う。

とはいえ、本書を読んでいていくつか突っ込みたくなる点もある。

「あなたは何をする人なのですか?」の呪い

このキーワードは前作「カイゼン・ジャーニー」から何度も繰り返されているものである。しかしこの「あなたは何をする人なのですか?」という言葉そものもは、非常に日本的な職種感に依存しているという点には注意が必要だろう。

  • (それが正しいかはさておいて)欧米系の企業を中心とした職務記述(Job Description)に基づいた就職/アサインメント観においてはそもそも「あなたは何をする人なのですか?」という問いが発せられる事がマネジメント的な観点で失敗のような気がする。
  • 主人公だけでなく全般的に、アサインメントとミッションコントロールが効いていない(もしくは、明かされていない)。読者の立場や所属企業の文化にもよるが、このあたりのギャップは本書の活用の妨げになると思う。
  • イマドキだと1on1とかOKRなどの普及によって、ここまで各人が迷走するようなことはないと思うのだけれども、これはおそらく著者がキャリアの過程であまり経験していないというのがネックのような気がする。

「ジャーニー」という言葉の選択は正しいのか

おそらく前作からの発展で著者は「ジャーニー」という単語を一つのキーワードとして採用しているのだけれども、この言葉を選ぶのは正しいのか若干疑問を感じている。

ジャーニー(journey)は、英語で船旅やあてのない旅など、比較的長い旅を意味する。
ジャーニー - Wikipedia

というそもそもの言葉の定義もあることに加えて、(ソフトウェア開発に限定しない広義の)技術者としては「ジャーニーマン」という言葉もあったりするのでややこしい。
本書の考え方は非常に有用だと思うが、自分のプロジェクトの計画や表現で「ジャーニー」を使うのはちょっと注意をしたほうが良いと思う(特にメンバーが多国籍である場合などは留意すべきじゃないだろうか)。

ロマンス不足

本書はせっかくの物語形式をとっているのだけれども、ロマンスがまったく無い! なんのための物語形式なんだ!