勘と経験と読経

略すとKKD。ソフトウェア開発やITプロジェクトマネジメントに関するあれこれ。

IT技術者に必要な基礎能力(コンピテンシー)とは

BABOKについていろいろ調べている。BABOK(Business Analysis Body of Knowledge:ビジネス分析知識体系)は企業のビジネス戦略の分析と(プロジェクトへの)落とし込みに関する知識体系のこと。他のBOK(PMBOKなど)と違い、BABOKでは「基礎コンピテンシー」というものが定義されているのが特徴的だと思った。「基礎コンピテンシー」には、BABOKを使いこなすビジネスアナリストが有すべき基礎的なスキルが定義されている。同じように、IT技術者にとって必要な「基礎コンピテンシー」は何かについて考えてみる。

BABOKにおける「基礎コンピテンシー

BABOKで定義されている「基礎コンピテンシー」はだいたいこんな内容。

  • 分析的思考と問題解決
    • 創造的思考 ・・・ ゼロベースで発想する手法の理解(ブレスト、マインドマップKJ法など)
    • 意思決定 ・・・ 意思決定スタイルの使い分け
    • 学習 ・・・ 常に新しい手法やビジネス概念を学習する
    • 問題解決 ・・・ 問題解決手法(ロジカルシンキング、ロジックツリー、MECE)の理解
    • システム思考 ・・・ 問題や状況を、複数の要素がつながっている全体構造として考える
  • 行動特性
    • 倫理 ・・・ 道徳的な行動を理解して、そのように行動する (たとえば自己利益で判断しない)
    • 自己管理 ・・・ 計画を立てて自律的に行動する
    • 信頼感 ・・・ 人を信頼する、信頼される
  • ビジネス知識
    • ビジネス原則とプラクティス ・・・ ビジネス組織の基礎機能の理解
    • 業界の知識 ・・・ 実施対象の組織が属する業界に関する知識
    • 組織の知識 ・・・ 実施対象の組織とその状況に関する知識
    • ソリューションの知識 ・・・ 実施対象の一般的ソリューションの知識
  • コミュニケーションスキル
    • オーラルコミュニケーション ・・・ 口頭伝達、プレゼンテーションスキル
    • 教えるスキル ・・・ アダルトラーニング(成人学習理論)
    • 文字伝達 ・・・ 文書作成能力
  • 人間関係のスキル
    • ファシリテーションと交渉 ・・・ 積極的傾聴/要約力/検証力/分解力/統合力/構造化、Win-Win
    • リーダーシップと感化力 ・・・ 推進力、指揮能力
    • チームワーク ・・・ チームマネジメント能力
  • ソフトウェアアプリケーション
    • 汎用アプリ ・・・ OAソフトの使いこなし
    • 専用アプリ ・・・ モデリングツールなどの使いこなし

ひとつひとつを取ってみると「あたりまえ」と思えるようなものばかりだけれども、並べてみるとこの能力を漏れなく獲得するのは難しそうでもある。自分の強み、弱みをきちんと把握して、弱点は克服するようにしないといけないのだと思う。

PMコンピテンシー

BABOKの基礎コンピテンシーが面白かったのでいろいろと調べていたら、「PMコンピテンシー」なるものも存在することを知った。どれくらいメジャーなのかは不明。

2.3 PMに求められるコンピテンシー
プロジェクトを成功裡に終了させるためには、2.1 で定義された知識がスキルに留まっているだけでは不十分で、持っているスキルを自ら積極的に、状況に応じて適切に活用する/できること、すなわち、コンピテンシーを発揮することが必要です(図2.2参照)。
コンピテンシーとはスキルを持ち、実際に行動することができる力(行動特性)のことを言います。


わりとBABOKの基礎コンピテンシーと変らない。BAのほうは「分析能力」や「信頼感」を重視しているのは、よりコンサルティングに近い業務を担当するからなのだろうかと思う。

IEAのプロフェッショナル技術者コンピテンシー

調べていると、こんなものもあった。

IEA(International Engineering Alliance)の提唱する技術者の力量(Professional Engineer Competency)

  1. ユニバーサルな知識:広範に適用される高度な知識を理解し応用できる。
  2. ローカルな知識:業務に役立つ高度な知識を理解し応用できる。
  3. 問題分析:複雑な技術問題について定義し、調査し、分析できる。
  4. デザインおよび解決:複雑な問題について解決策を設計し、解決策を実行できる。
  5. 評価:複雑な業務について成果及び影響を評価できる。
  6. 社会の保護:複雑な社会において、社会や文化や環境に対する影響を予見し、持続性を考慮しながら社会を保護することの重要性を認識する。
  7. 規範順守:業務において法令や規則を順守し、公衆の健康と安全を守る。
  8. 倫理:倫理的に業務を行う。
  9. 業務の管理:複雑な業務において全体または一部を管理する。
  10. コミュニケーション:業務の履行において、関係者と明確に意思疎通が図れる。
  11. 継続研鑽:力量を維持し、また向上させるために十分な継続研鑽を行う。
  12. 判断:複雑な問題を整理し、代替案を評価し、また競合する要求事項や知識の不完全なことに留意して評価を行い、業務をとおして確かな判断を行う。
  13. 決定に対する責任:業務において一部または全体に関して行った決定に責任を持つ。

これはソフトウェア開発の分野に限らず、もっと広い意味での技術者を対象にして書かれたもの。やはり内容的には似たようなものとなっている。

知識だけでなく、行動力を身につける

ソフトウェア開発の世界はまだ若くて進歩も速く、「学ぶべき知識」がやたら無尽蔵にある。だから、というと乱暴すぎるかもしれないけれども「知識」重視の風潮があるのではないか。もちろん「知識」は重要だと思うのだけれども、それよりも土台となる人間の基礎的な行動力のようなものをもっと重視すべきではないかと考えている。