勘と経験と読経

略すとKKD。ソフトウェア開発やITプロジェクトマネジメントに関するあれこれ。

「デザイン思考と経営戦略」を読んで、わからなかったこと

主に読書メモ。「デザイン思考」という言葉が巷でそれなりに話題になっているので、「デザイン思考と経営戦略」という本を手にとってみた。非常に内容の濃い本で、いろいろな部分が非常に参考になったのだけれども、ここで語られているデザイン思考はあくまで物理的モノづくり(アトムの世界)が中心になっている気がする。ビットの世界を中心にした働き、はどのように考えればよいのかわからなくなった。

この本を手にとった理由は、以下のスライドを見て気になったから。

ちなみに本来の筆者の想定だと「デザイン思考の道具箱―イノベーションを生む会社のつくり方」が初級編で、本書は中級編という位置付けらしい。もちろん「デザイン思考の道具箱―イノベーションを生む会社のつくり方」は未読。

わかったような気がしたこと

  • デザイン思考の方法論としての流れや意図(不連続なイノベーションを探す)
  • 民族誌調査の方法論
    • 「師匠・弟子モデル」のフィールドワークなどは、新鮮だし面白いし使えそう
    • 「Thick Description(濃い記述)」も興味深い

なぜ民族誌調査なのか。それはメンタルモデルをエンジニアやデザイナーが作るためである。メンタルモデルの構築以外に次世代の商品やサービスを作る方法はないと言ってもよいくらいだ。二十世紀的生産様式において活動しているデザイナーやエンジニアも、二十一世紀システムで活躍しようと思うなら、ここは避けて通れない。
デザイン思考と経営戦略 第5章 デザイン思考ワークショップ・中級編(1)――民族誌調査をする

  • 「社会貢献」などの大きなテーマではなく、具体的な企業活動(コンサル除く)としての「デザイン思考」の使い方
    • 他の本はあまり読んでいないのだけれども、あくまで本書の念頭は中~大企業の活動として書かれているのが良い
    • 「起業家」ではなく「企業家」

ドラッカーの)『イノベーションと企業家精神』は、最初は『イノベーション起業家精神』と訳されていた。現在は『企業家精神』として翻訳されている。「起業家」から「企業家」への訳語の変更は非常に大きな意味を持つ。デザイン思考はアントレプレナーの考え方と組み合わされたときに企業戦略を支援する方法となるのである。
デザイン思考と経営戦略 第1章 デザイン思考を実践する前に

わからなくなったこと

本書の対象は、(日本の中心産業である)製造業であるように思えた。Build to Think(プロトタイプ思考)という考え方には強く共感するものの、アトム中心の世界とビット中心のソフトウェアの世界では異なる事も多いのではないかと思っている。

アップル社のようにプロトタイプを作り込んで仕様を決めてから発注する能力がある会社と違い、日本は協力会社とやりとりをして作る方法をとっていたため、多くの会社は自分で作れなくなっている。
デザイン思考と経営戦略 まえがき――イノベーションの神様

プロダクト・イノベーションや破壊的イノベーションを行うためには発想する人間自身が工作できなくては駄目だし、それ以上に工作することが独創的な発想を生み出す。この身体能力をもっているかどうかが、創造的なイノベーションを先導できるかの鍵となる。
デザイン思考と経営戦略 第3章 デザイン思考と創造的イノベーションのマネジメント

こういった考え方は刺激的だし強く共感するものの、「紙粘土やダンボール」を使ったプロトタイピングをやるという部分についてはあまり参考にはならないような気がする。

ソフトウェアの世界なら「紙粘土やダンボール」の変わりに「ペーパープロトタイピング」があるとはいえるけれど、はたして同質なものといえるのかどうか。ソフトウェアのインターフェースの部分で発想するより、もっと本質的な部分をうまくプロトタイプしていく活動が必要なんじゃないかと思う。

本書の中でも紹介されているAbout Face 3 インタラクションデザインの極意(個人的にはこの分野の現在のバイブル)を再読してみると、なにかわかるだろうかと漠然と考えている。
そういえばAbout Face 3の続編的な本[asin:B004UARUZY:title]があるということも本書で知ったのだけれども、残念ながら邦訳は無いようだ。原書で読むかは悩み中。

[asin:B004UARUZY:detail]