勘と経験と読経

略すとKKD。ソフトウェア開発やITプロジェクトマネジメントに関するあれこれ。

教育心理学はソフトウェア開発に活用できるか(教育心理学特論を読み終えて)

数年前からアジャイル開発コミュニティで話題になっていた放送大学のテキスト「教育心理学概論」というものがある。その増補改訂版である「教育心理学特論」を、放送大学大学院の講義15回を通じて読み終えた。そこで、本記事ではソフトウェア開発という観点から同書の感想などについて触れてみたいと思う。

教育心理学特論 (放送大学大学院教材)

教育心理学特論 (放送大学大学院教材)

なお世間的には「教育心理学概論」が有名なようですが、私は特論のほうをお勧めします。理由は以下の記事を参照

本書は(ソフトウェア開発関係者に)お勧めなのか?

自分にとって本書を通じた学びは知的好奇心を満たしたのみならず、今後の仕事への刺激も大きく、満足の高かったものだった。ではソフトウェア開発関係者(私の同僚や同業界人)にとって読むべき本なのかというと、ちょっと微妙なところである。想定している主たる読者はやはり、学校教育を中心とした「学び」の課題に取り組む推進者であり、技術者であったり会社人を想定したものではないからだ。

とはいえ例えばソフトウェア開発の大きな課題が「教育・育成」であることは確かであり、学ぶべきところは多い。技術者教育、とくに単なる講義やプレゼンテーション以外の取り組みによる学習を推進している人には大いに参考になるという印象。アジャイル開発コミュニティで話題となっていた理由も、スクラムマスターやアジャイルコーチといったプロジェクトへの関わり方や役割の人が多いというのが関係しているのだと思う。

ここから先は、本書を読んで特に興味深かった事項をいくつか紹介する。もし興味があるのであれば本書を、そして可能であれば放送大学の講義(半期毎に毎週放送しており誰でも視聴できる)もぜひ視聴してみると良いと思う。なお全15回の講義のうち第1回は実は無料でインターネットで試聴できるので興味があれば聞いてみるのも良いかもしれない。

現代における学びの変化について(#15.21世紀の学びを支える「実践学」作りに向けて)

今、ネットワーク文化が大人の仕事の仕方を変え、社会や文化のあり方そのものを変えている。それに合わせて「学校」や「教育」というものの果たす役割や学びのゴールのあり方も大きく変わろうとしている。

現代において、学習のアプローチやスタイルは大きく変化しているという話である。「学びのモデルの三態変化」として以下の3つのモデルが示されている。

  • 徒弟制時代 (保護者~親とは限らず、親方の場合もある~が徒弟を教える)
  • 公教育制度時代(主に政府が生徒に教える)
  • 生涯学習時代(学習者自身が学ぶ)

これを読んで改めて考えたのは、ソフトウェア開発技術における学習の特異性である。世代によって違いはあるだろうが歴史の浅いソフトウェア開発業界においては、公教育制度時代は長らく機能していなかった(最近は違う)。むしろ逆転していて、生涯学習時代から始まり様々な問題が発生することによって徒弟制時代に回帰する傾向すらあると思う。

一方で、組織のマネージャが教育を考えるときに念頭にあるのは公教育制度時代の経験だったりする、というのが非常に問題をこじらせているのではないか、というのが個人的な気づきだった。

学びのモデル(#1.学びの実践科学としての教育心理学、他)

本書(というか教育心理学という分野)の骨子の一つが「学びのモデル」であり、これはつまり学習という行為をモデル化して考えるということだと理解している。
いわゆる公教育制度時代の学習は

  • 原理原則や科学的概念を「教える」

という考え方(だけ)に立っていたわけだが、「学びのモデル」においては

  • まず個人のもつ経験則や素朴な概念、が予め存在し
  • 原理原則や科学的概念を「教わる」ことにより
  • 学習した知識と、経験則がうまくつながりを生む

ことによって学びが深まるという考え方で、学びを捉えなおしている。

この考え方についても、ソフトウェア開発に携わっていれば、実感を持って理解できるだろう。いわゆる「手を動かす」という学習であり、また近年ではPBLなどの活用もこれに近いんじゃないかと考えている。腹落ち感が強い。

建設的相互作用(#7.対話で理解が深化する仕組み)

学校教育の1つの目的は、子どもたちの作り上げる経験則が素朴で、学校で教えたい科学的な考え方と違うときに、その素朴概念を科学的概念に変えていくことである。第4章でも触れたように、科学者が最初から科学的な理論を持っていたと考えるのはむしろ不自然で、彼らも子どもたちと同様、日常的に経験できることから次の現象の予測のための経験則を作り、それらをたくさんの人たちの間で突き合わせながら、真実により近い経験則、適用範囲のより広い経験則、より抽象的な科学理論へと作り変えていったと思われる。
この概念変化の仕組みを支えているのは、人と人との対話であり、そこに起きる建設的な相互作用である。

上記のことをまさに本書では建設的相互作用と呼んでいるのだが、これに関連したテーマは非常に勉強になった。まさにこの建設的相互作用はソフトウェア開発においてこそ重要な概念という気がしている。特に近年のソフトウェア開発プロジェクトは探索的になっているという意味では、要求や仕様面でも、技術面でも建設的相互作用をいかに生み出していくかが、重要な概念になっているのではないだろうか。

というわけで、万人にお勧めする本でないことは確かだが、自分の中では様々な(ソフトウェア開発に関連する)課題感のつながりを得る、非常に興味深い学びだった。また本書は現在はアジャイル開発コミュニティを中心に流行っているようだが、限定することなく、むしろソフトウェア開発一般的な課題への適用を考えることができるヒント集のようでもあると考えている。似たようなことを考えている人がいたら、ぜひ議論してみたい。

「エッセンシャルスクラム」前半を読んだ #デッドライン読書会

読むのがホネな(積みがちな)技術書やビジネス書を取り上げて2週間の読書期限を課して読んでアウトプットする仮想読書会「デッドライン読書会」の第24回。今回選んだタイトルは「エッセンシャル スクラム」である。ちょっと2週間で読むには分厚いので前後編でお届けする。前編では「まえがき、第Ⅰ部(コアコンセプト)、第Ⅱ部(役割)」まで読んでいる。

エッセンシャル スクラム

エッセンシャル スクラム

最近すこし話題になった下記の記事では「エッセンシャル スクラム」は上級者向けに分類されている。これは完全に同意。いろいろと実践/経験した後に読むのがよさそう。

カイゼン・ジャーニー」の次に読む本としての「エッセンシャル スクラム

実は昨年、プライベートな読書会で「カイゼン・ジャーニー」を輪読することを推進していた(社内で興味のある人たちが参加し、私はサポートをする立場だった)。せっかくなので、と最終回には著者の一人である市谷さんにも参加していただきいろいろ話してもらったのだけれども、「次の読む本のオススメは何ですかね」という質問に対する回答が

だったのだ。その時はフーンと思っていたのだけれども、改めて本書「エッセンシャル スクラム」を読んでみたところ、なるほどと思ったのであった。

スクラムは始めやすいが学びにくいという問題

スクラムガイドでは、スクラムについてこのような記述がある。

スクラムフレームワークは意図的に不完全なものであり、スクラムの理論を実現するために必要な部分のみが定義されている。スクラムは実践する人たちの集合知で構築されている。スクラムのルールは詳細な指示を提供するものではなく、実践者の関係性や相互作用をガイドするものである。

また、個人的な実感としても非常にわかる

  • 様々な実践者の取り組みを聞きながら、試しながら、学習していく必要がある
  • マニュアルを読めばよいというものではない(というかプロセスそのものがマニュアル通りにやらないことを推奨している)
  • 結果として、様々なブログ記事、レポート、講演資料、カンファレンスなどが情報のインプットになる

もちろん自分はけっこう長い間この分野に関わってきたので、だいぶ様々な蓄積はある。でも自分が推進する場合はいいのだけれども、人にアドバイスをするときには「あれ? この話どこで聞いたんだっけ?」ということも多いのが悩みだった。

そういう点では「エッセンシャル スクラム」はだいぶ助けになる本である。スクラムの基本的概念を丁寧に紹介しつつ、実践部分について様々なノウハウもセットで紹介されているからである。

新しいスクラムチームに「スクラムガイド」を渡して、よい結果を期待することはできない。著者たちの比喩を使えば、チェスを初めてプレイする人にルールの説明書を渡して、まともに指すことを期待するようなものだ。「スクラムガイド」だけでは足りないのである。
本書『エッセンシャルスクラム』は、スクラムの基礎知識が一冊にまとまった、これまでにない本にしようと考えた。そのため、スクラムの原則、価値、プラクティスに関する詳細な議論を含んでいる。

うーん、もっと前に読んでおけばよかったな。

前半部分《まえがき、第Ⅰ部(コアコンセプト)、第Ⅱ部(役割)》の感想

というわけで前半部分を読んだところなのだけれども、収穫は多かった。
以下、特に興味深かった点を中心に抜粋する

  • 第1章 コアコンセプト
    • 最近はどこでも出てくるお馴染み「クネビン・フレームワーク」を用いた整理なのだけれども、スクラムが適していない領域について著者の経験を踏まえてハッキリと断言しているところが好感度高い。例えばスクラムを利用すべきではなく、カンバンを採用すべきといった実践的なアドバイスがあった。
  • 第4章 スプリント
    • どうやらIBM出身の著者による長期的/計画駆動型プロジェクトについてモチベーションが維持できない(だからスプリントがいい)という説明の中で出てくる「海を干上がらせる(ような途方もないプロジェクト)」という比喩は興味深い。あー、あるある。
  • 第8章 技術的負債
    • こういった章が独立して存在すること自体も素晴らしいが、内容も素晴らしい。技術的負債に関してはいろいろな書籍で触れられているが、著者の説明は極めて明快であり、かつ様々な議論を統合しているように感じた。
  • 第9章 プロダクトオーナー
    • 大規模(?)なプロダクトを管理する場合のプロダクトオーナーチームに関する議論が良い。一般的なスクラム本ではPOに関する深堀りはあまりされていない印象があり、実際のプロジェクトでボトルネックになりがちだ(私がSIer企業に所属しているから感じていることかもしれない)。プロダクトオーナープロキシ、あるいはチーフプロダクトオーナなどの概念が紹介されており参考になる。
  • 第13章 マネージャー
    • ファンクショナルマネージャ、およびプロジェクトマネージャとスクラムチームの関係性に関する論考で、ここも非常に良かった。ちょうどこの問題について整理するという課題が手元にあったのだけれども、だいぶ助かった。

というわけで現時点の感想は「噛めば噛むほど味が出る良書」という感じ。後半も楽しみである。

「世界はシステムで動く」を読んでシステム思考をキャッチアップした #デッドライン読書会

読むのがホネな(積みがちな)技術書やビジネス書を取り上げて2週間の読書期限を課して読んでアウトプットする仮想読書会「デッドライン読書会」の第23回。今回選んだタイトルは「世界はシステムで動く ― いま起きていることの本質をつかむ考え方」である。いわゆる「システム思考」に関する本であり、この分野はそういえば不勉強だったので選んだもの。

ドネラ・メドウズさんと本書について

本書を読むまで詳しく存じ上げていなかったのだけれども、有名な「成長の限界―ローマ・クラブ「人類の危機」レポート」や「世界がもし100人の村だったら」の原案となったコラム「村の現状報告」に関わっていた方であった。

1993年、ドネラ・メドウズは、今あなたが手にしているこの本の草稿を完成させました。原稿はそのときには出版されず、数年にわたって仲間内で回覧されていましたが、ドネラは、本書の完成を見ることなく、2001年に突然この世を去ってしまいました。その後、数年たっても、ドネラが書いたものは幅広い読者にとって変わらず有益であることがわかりました。ドネラは、科学者であり、作家であり、システム・モデリングの最高のコミュニケーターだったのです。

上記の通り、本書は

  • 一般向けの解説書であり
  • 平易にシステム思考の基本的な原則
  • システム思考から発展させた(我々エンジニアになじみ深い言い方でいうと)様々なプラクティスとアンチパターン

が含まれていて、非常に読みやすいものとなっている印象である。

感想:モデリングベースで長期的・俯瞰的視点を持つために

巻末の解説でも言及されているが、「システム思考」は様々な学派や流派がある。本書で紹介されているものは「システム・ダイナミクス学派」に所属するようである。よって

  • 観察対象に対して数理的なモデルを検討する(抽象的なお絵かきでは終わらない)
  • モデルを構築して、シミュレーション思考で考える
  • モデルの構造からパターンを読み取る

という点が特徴であるように感じた。ここが、エンジニアとしての自分の思考には強くフィットしたと思う。

なお本書ではエッセンスが紹介されているのみであるが、本来的にはモデリングツールを活用して身近なビジネス課題や社会課題について深めていくべきなのだろう(残念ながら、本書では基本的なモデル概念しか紹介されておらず、モデリングやシミュレーションの詳細は触れられていない。ツールについては巻末に簡単な紹介があるのみ)。
以下のWikipediaページで紹介されているようなモデルを手元で動かしてみたいものだ。
en.wikipedia.org

ざっと調べた限りだと、このツールを使うのがよさそう。

とはいえ20年前の本であるということ

本書をきっかけに、(システム・ダイナミクス的な)システム思考の活用は深めたいと思うと思う一方で、気になったのは本書が20年前の本であるという点だ。
この現代においては進化したテクノロジービッグデータという「理論をすっ飛ばして正しい答えを導く」道具も誕生している状況である。
本書が紹介している深い思考と、ツールによる端的な解決のバランスというのは今後意識しておくべきことだろう。
また分析自体はテクノロジーに頼ったとしても、本書で紹介されている「システムの落とし穴」や「システムの世界に生きるための指針」はチェックリストとして活用し続けたほうが良いのだろう。

この本も読みたいなぁ(時間があれば)

「教育心理学概論」と「教育心理学特論」を比較してみた

アジャイル開発界隈で数年前から話題の「教育心理学概論」という放送大学教材がある。ただし放送大学としては本科目は終了しており、現在は放送大学院で「教育心理学特論」という形で提供されている。では「概論」と「特論」では何が変わっているのか、ちょっと調べてみた。「教育心理学概論・特論」は人をより賢くするにはどうすればよいかというテーマを扱った教育心理学に関する授業テキストである。

教育心理学特論 (放送大学大学院教材)

教育心理学特論 (放送大学大学院教材)

TL;DR

教育心理学特論」のアップデート内容に関する説明

教育心理学特論」の「まえがき」では次のように説明されている。

この印刷教材は、私たち自身が実践の科学を試みた証左でもある。私たちの1人である三宅芳雄が故三宅なほみ氏と共に作った『教育心理学特論』('12)と『教育心理学概論』('14)をベースとしながら、ほかの執筆者の2人も含め、実際にその知見を使って実践を行い、結果を踏まえて、状況が複雑に変わろうとも確かに使えるという知見を残し、それ以外を書き換えた。特に、三宅なほみ氏と共に開発・発展させた「実践の道具」である「知識構成型ジグソー法」を軸とした実践研究の成果を第9章以降に大幅に加筆した。

というわけだが、実際にはどうだろうか。実際に2つのテキストを並べて内容を比較してみた。

教育心理学特論」と「教育心理学概論」印刷教材の比較

以下が2つのテキストをざっと比較した結果である。結果として「概論」の全ての章は何らかの形で引き継がれており、さらに情報が追加されている形になっているようだ(一語一句確認しているわけではないが)。
f:id:kent4989:20210206224744p:plain
複数の章が統合されているので何かしら省略されているのではないか、という不安があるかもしれないが、おそらく問題無いと思われる。そもそもボリュームが大幅にアップしているのだ。

  • ページ数:249ページから300ページに増量
  • 1ページあたりの情報量:フォントが小さくなったわけではなさそうだけど、ページのマージンを削っているようで1ページの情報が増えている
  • ちなみに価格も上がってはいる:2100円→2900円

「概論」は放送大学教養学部科目だったのに対して「特論」は放送大学大学院の科目であることから、各章について論考等が付け加えられているのも特徴と言えるだろう(これを、取っつきにくくなったと捉えるのか、読みごたえが増えたと考えるのかは人によるだろうが)。

というわけで、いまから「教育心理学概論」に興味を持ったのであれば「教育心理学特論」を選んだほうがお徳のようである。

ところで、実際の放送大学の講義はどうか?

わたしは現役の(?)放送大学生ということもあるので、オンデマンドで大学院の講義もオンライン視聴が可能である。そこで1月末から視聴を始めているのだが、かなり興味深い。放送大学に入学しなくともラジオ、BSラジオ、radikoなどで視聴可能なので検討をお勧めする(4月、または10月から週次放送。1月後半~2月、7月後半~8月に集中再放送がある)。

  • 形式はラジオであり映像はなし
  • 印刷教材は補足資料の位置づけであり、原則として三宅芳雄先生+白水先生他(章によって異なる)の対談形式である
  • 印刷教材では触れられていないポイント、事例に関する感想やコメントが充実しており、非常に面白い

もちろん放送大学に入学すれば、提供中の科目についてはアーカイブに一括してアクセスできる(教養学部制でも大学院を含む全ての授業が視聴可能)。

「エンジニアリングマネージャが知るべき97のこと」を対話的に読む(1)

約10年前にいくつか邦訳されて話題となった「〇〇が知るべき97のこと」という技術書シリーズがある。このシリーズが最近復活したようだ。〇〇には現代的なエンジニアロールが入っているので面白そう。翻訳されるかと思ったけれど、その気配もないので原著で読み始めた、という話。

今回取り上げるのはこれ。

(なおAmazonのリンクで紹介しているが、私はオライリーのサブスクで読んでいる)

他にも新シリーズでは次のようなものがあるようだ。SREのはちょっと気になっている。

97シリーズは対話的に読むのが面白い

10年前に97シリーズを読んだ時にも感じていたのだが、本シリーズは「各エッセーにツッコミを入れていく」スタイルで読むのが面白いと思っている。

  • そうそう!同意!
  • いや、それは違うんじゃないの?
  • 同じ経験をしたことがあるよ〜
  • 参考になった。次に試してみよう

などとリアクションしながら読むと学びが深いのではないだろうか。このシリーズは実践者の短いエッセー集という体裁を取っている(むしろブログ記事アンソロジーという趣だ)。あまりかしこまって読むものでもないだろう。

実際に読んだ感想(Chapter1~20)

  • Chapter 1. Advanced PeopleOps—One-on-One Retrospectives
    • 普通の高頻度1on1をやる立場にないけど、納得。寧ろ皆さんどうしてるのだのうか。あと「おばあちゃんのハム」の話は覚えておきたい。
  • Chapter 2. Answer These 10 Questions to Understand Whether You’re a Good Manager
    • めちゃくちゃ良い記事で、感動した。稼働率とか生産性や経営KPIはEマネージャーの成功指標じゃないよという話。10の良い兆候のリスト。1つ目は「1週間休むことはできますか」それなー
  • Chapter 3. Avoiding Traps in Manager READMEs
    • いわゆる「マネージャーのトリセツ」を共有するプラクティスに関する批判。ちなみに自分は過去にトライしようとしたけど、しっくりこないのでやめたことがある。
  • Chapter 4. Building Effective Roadmaps
    • ロードマップをコミュニケーションと合意形成の為に使うポイントに関して。「何を諦めるのか」「不確実性はどこにあるか」などが答えられるロードマップが良い、ってそりゃそうだけど、イメージが湧かない。。
  • Chapter 5. Busy Isn’t Better
    • マネージャーはチームがずっと繁忙であるようにコントロールすることを求めるプレッシャーがあるけど、実際には常に余裕が必要だよねという話。全面的に同意、ただ、これをセンス以外でやれる方法を学びたいんだよなー
  • Chapter 6. Career Conversations as an Engineering Manager
    • 部下とキャリアパスに関する1on1をする方法、話すべき内容について。すごい参考になった。あと、EMはキャリアのガイドではあるが、マップメーカーではないというのも同意。そしてレポートを残すことについて。このあたりは自分の所属組織でもいろいろ改善したいのだけれども。
  • Chapter 7. Career Development for Startup Engineers
    • スタートアップ企業のエンジニアは、落ち着いてきたら人材投資しないと外に出てしまうよという話と、何をすべきか。まあSIerに入社する優秀な人も同じような気はする。有効な手の一つは「より大きなプロジェクトに取り組む機会を共有する」だけれど、なかなかそう出来ないのはなんでなんだろうー。
  • Chapter 8. Communicating with Executives
    • 経営幹部とのコミュニケーションは相手の目線に立って、相手の注意を引くように、から始まる細かなアドバイス。興味深いが、ちょっとコンテキストが違いすぎて参考にならないな。もしくは参考にならないという点が大きな問題なのかもしれないけれど。
  • Chapter 9. Communication as Craft
    • 技芸としてのリーダーシップ向けコミュニケーションTips。初めてリーダーをする人に聞かせたい良い話。リーダーとなった瞬間、コミュニケーションの意味が変わる(相手に対する意識が変わる)というのは本当にそう。何を伝えたか、じゃなくて、何が伝わったか、なんだよ。
  • Chapter 10. Connect “The What” to “The Why”
    • EMとして最もレバレッジある活動は、エンジニアの活動と理由(なぜ、やるのか)を接続すること(質問をするのではなく、説明することが必要)。そして、常にその接続を補強せよ。はい、同意しかない。
  • Chapter 11. Continuous Kindness
  • Chapter 12. Culture Is What You Do When the Unexpected Happens
    • 組織文化は、予期せぬ事態が起こった時に表出されるものであるという話。言われてみればその通りだけれども、けっこう新鮮な視点。感想というか自省だけれど、つまり表現された文化(ビジョン)などについて語り合うのはたぶん間違いで、アノ時の行動がどうだったかに着目すべきなんだな
  • Chapter 13. Dealing with Uncertainty
    • 不確実性の対処に関しての話だが、一般論であった。EMは不確実性の高い判断をする必要がある。その時に気を付けるべきことについて。う~ん自分にとってはかなり当たり前な内容なんだけど、これが新鮮な人も多いのかなぁ。
  • Chapter 14. Define Your Culture Before It Defines Itself
    • 文化を定義する話。「あなたは素晴らしい候補者だが、当社のカルチャーには合わない」といって優秀な候補者を追い返せないようであれば、文化の定義が不十分ということ。これはだいぶ難しいな・・・
  • Chapter 15. Delivering Feedback
    • 効果的なフィードバック方法について執筆者が活用しているものの紹介。ところで紹介されている"Mirror,Mirror"というゲームは何なんだろう。これかなぁ。http://www.childdrama.com/mirror-mirror.html ちょっと面白そう。
  • Chapter 16. Developing Communication Patterns
    • 製品の品質はチームのコミュニケーションに依存をしているので、チームのコミュニケーションパターンを意図的に”開発”しなければならないという話で、とっても良い。計画駆動ではなく、観察とシミュレーションと干渉。すごくいいぞ。
  • Chapter 17. Distributed Teams Are Founded on Explicit Communication Channels
    • 分散化するチームを考慮して、最初からコミュニケーションチャネルに投資すべき。そして使い分けについて。使い方のTipsは山とあるのだけど、設計と移行という観点でけっこう困ってるので参考になる。
  • Chapter 18. Do Less, Lead More
    • 「やるべきことがすべてできない状況になったとき」がエンジニアマネージャとしての成長のチャンスだという話。シミュレーションのための「Bad News Test」(上司に伝える悪いニュースを考える)というアイデアは良いものな気がする。
  • Chapter 19. Don’t Be the S--- Umbrella
    • エンジニアリングマネージャの仕事はスーパーヒーローとしてチームを保護することではなく、コンテキストプロバイダーになるべきだという話。コンテキストプロバイダー? チームに現状を理解させ、考えさせるということか。そしてチームの成長を導く……
  • Chapter 20. Don’t Elevate the Means Beyond the End
    • 高度なHOW(例えばマイクロサービスアーキテクチャの適用)をビジネスゴール超えた形で設定してはいけないという話。トレンディーなテクノロジーと、トレンディなプロセスに注意。あたりまえだけど、忘れ去られがち。

引き続き、残る57章も読んでいくつもり。
なお各章の感想は、以下のTweetにスレッドとしてぶら下げているので興味があればどうぞ。

おっさんエンジニアの放送大学教養学部に入学記録2(1年目後期終了)

2020年4月から放送大学教養学部「人間と文化コース」に入学して、これまで勉強してこなかった人文系の勉強を始めている。1年目後期が終わったので感想などをまとめてみた。

放送大学入学はオススメか?/1年目後期の感想にかえて

  • 前提として私は「卒業を目的としていない」ので、卒業目標の人は参考にしないでほしい
  • ご存じの人も多いが、別に入学しなくとも放送大学で学習はできる。BS放送もしくはラジオは無料で視聴できるし、テキストも書店等で購入可能である。よってコストを下げたいなら入学せずに授業を視聴すればよいだろう
  • 一方で入学すると、履修科目に限らず全ての放送授業が視聴可能となる(PC、タブレットスマートフォンで利用可)。自分にとっては「好きな時に、好きなペースで」学習できるのが最も大きなメリットだった
  • 入学金(24K)+履修科目の受講料で最大10年間在籍可能(2年間授業をまったく取らないと除籍になる)
  • その他細々とした特典(4年間 Prime Studentになれる、専用図書館が使える、日経系専門誌の記事検索と閲覧サービスが利用できるなど)も地味に魅力
  • 履修科目については中間課題(7週目)、認定試験(15週目)があるのが適度なプレッシャーで心地よい

というわけで個人的には知のサブスクとしておすすめ。

ただ、私は入学直後にコロナ禍が始まったためテストがすべて自宅受験となっている。コロナ禍以前であれば試験期間は特定のセンターの教室で(通常の大学のように)受験する必要があったので、コレが復活すると印象が変わるかもしれない(なお会場試験でもテキスト等持ち込み可)。受験のためには仕事を休んだり移動したりしなければならないからだ。今後制度がどうなるのかは、少し気になっている。

1年目後期に履修(一部は聴講)した科目

博物館概論

博物館概論 (放送大学教材)

  • 博物館に関する包括的な講義。東京国立博物館を含め、多数の国内外の博物館の取材やインタビュー映像が含まれており非常に興味深い。日常的に博物館に行くことが多い人はとても楽しめると思う。
  • 放送大学には(公式な資格ではないけれど)一定の科目群を履修完了することで「エキスパート認定」する制度がある。本科目は博物館系エキスパート認定時の必須科目ということもあり受けておきたかったのだ。老後、ボランティアなどをする時に便利かもしれない。

文学・芸術・武道にみる日本文化

文学・芸術・武道にみる日本文化 (放送大学教材)

  • 控えめに言っても超オススメ。目から鱗が落ちまくる授業だった。まさに教養!
  • 「日本文化」を軸に縄文時代から現代までを俯瞰し、どのような繋がりがあるのかが説明される。個人的には日本文化や日本史が苦手だったが、このように説明してもらえればわかる!
  • 本講義も様々な取材映像が含まれており、単純に視聴することが楽しかった。舞台芸術(能や浄瑠璃など)は舞台のダイジェストが示されながら解説も聞ける。
  • もう一つの軸である武道に関する講義も熱い。講師の魚住先生が専門ということもあり、様々な武道の演武も含まれている。いやぁ、勉強になった。

西洋哲学の起源

西洋哲学の起源 (放送大学教材)

  • 本科目については正式には履修しなかった(テキストを購入して講義のみを視聴)。初級科目であり、ラジオ講義(映像がない)であることが理由。
  • 放送大学に入学したきっかけが、苦手だった哲学分野の学習であるというのも聴講した理由である。
  • 本科目は特にキリスト教を中心とした西洋哲学について語られており、これも理解が深まった。ただし哲学系の科目は最後の2回くらいが超難しい・・・

2年目前期の予定

そもそも21年度1学期が始まるのが4月なので、現時点では履修予定は未定(芸術系と文化人類学系、哲学系で3講義くらいを履修するつもり)。
また1月~3月がお休みになってしまうので、教育心理学特論 (放送大学大学院教材)を聴講してみようと思っている。本科目の前身である「教育心理学概論」は数年前からアジャイルコミュニティで話題になっていたようだ。

というわけで、楽しい学びは続く。毎週末3時間くらいを放送大学の学習時間に充てるリズムも出来てきたので、継続していきたい。

在宅勤務とワイシャツと私

生活ネタ。1年ぶりにワイシャツを新調した。昨年3月くらいからずっと在宅勤務なのだが勤務時間中は(頑固にも)ワイシャツを着ている。

少し前にNewYorkerのこんな表紙が話題になっていたけれど、自分も勤務中は似たような感じだ。ワイシャツは着ているものの、それ以外は手抜きをしている(どうせ画面に映らないし)。
別に所属企業で厳密なルールがあるわけではないので、在宅勤務中はもっとラフな格好をしている同僚も多い。
しかし、自分は「仕事モード」への切り替えに「シャツへの着替え」が重要なようで、毎朝勤務前に着替えを欠かしていない。また週末にPodcastを聞きながらアイロンをかけるというのもルーチンになっていて、やらないとなんだか落ち着かない。

シャツは5年ほど前からこのブランドを愛用している。
ital-style.com
ちょうどよいサイズを見つけてしまえば、あとは生地を選ぶだけでネットで完結するのも好みだ。また、過去にいつどんなシャツを買ったかが当然わかるので、次に選ぶ際にも便利。

というわけで当面シャツスタイルは変えるつもりはないんだけれど、在宅勤務も2年目に突入。いつになったら終わるのやら。終わらないのでスタイル見直しすべき時が来るのだろうか。