勘と経験と読経

略すとKKD。ソフトウェア開発やITプロジェクトマネジメントに関するあれこれ。

現場 is now here

本記事はDevlove Adventnt Calender Calender 2013「現場」参加エントリーです(7日目)。他記事はこちらからどうぞ。すでにいろいろ興味深い記事がいろいろあります。前回id:itow_pondeさんの記事は、境界に立つという意味で非常に興味深いです。ぜひとも直接お話してみたいなぁ。

自己紹介

というわけで、初めて本ブログを閲覧いただいた方、はじめまして。id:kent4989です(本名を知りたい方は過去記事を探してみてください)。いわゆるSIerでプロジェクトマネージャのような仕事をしています。

ソフトウェア開発に従事していますが、仕事はお客様に近い席やプロジェクトルームで行う事が多いです。自分の会社の席に座っていることはほとんどありません。「常駐」と言われることもありますが、個人的には「潜入」「スニーキングミッション」と呼んでいます。ある意味「現場主義」と言えるかもしれませんが、個人的にはこの言葉には違和感があります。というわけで、今回はこの違和感について取り上げてみたいと思います。

「現場」とは何か?

さて、このAdventnt Calender Calenderのテーマは「現場」だそうです。おそらく企画の趣旨としては「ソフトウェア開発の現場」の話を書くことになっていると思うのですが、わりとヒネた性格なので言葉の定義から入ってみたいと思います。


そもそも「現場」とは国語辞書的には「事件や事故が実際に起こった場所」とか「作業が行われる場所」という意味とされています。他の業界、例えば建築業界であれば「工事現場」と言えば工事を行っている場所そのものを指す言葉になります。しかし、ソフトウェア開発の文脈において「現場」と言われても実はしっくりきていません。そもそもソフトウェア開発に「現場」はあるのでしょうか? 例えば以下のうちどれが「現場」だとあなたは思いますか?

  • 物理的に作業者が集まっている場所(プロジェクトルーム?)
  • ソフトウェアをコンパイルしている場所(専用マシンがある場所?)
  • 実際にソフトウェアが動いている場所(本番サーバー?)
  • 実際にソフトウェアを使っている場所(利用シーンとか?)


それとも、対立概念から考えたほうがいいのでしょうか? 


例えば某刑事ドラマにあるように、よく使われる「現場」の対立概念は「会議室」です。殺人事件であれば、実際に殺人事件が行われた場所を見ずして各種の報告だけを相手に事件を推理検討するのはあまり効率的では無いでしょう。でも、ソフトウェア開発における「会議室」ははたして現場ではないのでしょうか? ソフトウェアのデモを会議室で行うとき、そこは「現場」ではないのでしょうか?


「現場」に対する別の対立概念として「実験室」というものもあります。「実験室」では単純化されたクリーンな環境で、さまざまな実証実験を行います。しかし、実際の「現場」はさまざまな要素が絡み合って、「実験室」で実証された通りの結果が出ることはありません。これは割とソフトウェア開発でイメージしやすい例のような気もします。新しい開発方法論や品質向上施策などの「銀の弾丸」が押しつけられて、実際にはプロジェクトでうまく効果を発揮しないということはよくあります。「本部の人間は現場をわかっていない。現場はもっと複雑なんだ!」――でも、本当にそうなのでしょうか。私は必要に応じてプロジェクトの中で実験をすることもあります。ソフトウェアは仮想的なものなので、必要であればクリーンな環境をいくらでも作り出して研究することもできます。これは「現場」ではないのでしょうか?


この記事のタイトル「現場はここにある(現場 is now here)」は、スペースを一つ削ると「現場なんかない(現場 is nowhere)」になります。「現場」という枠組みは「何か」との壁・境界線を定義するものです。この壁・境界線は何のため?ということについて考えてみることが重要だと思います。わたしはそんな壁はいらないと思っているので、あまり「現場」という言葉を使いたくはありません。

言い訳としての「現場」

壁・境界線を定義する「現場」という言葉は時として言い訳として使われることがあります。こういった言葉をまわりで聞くことはありませんか?

  • 「現場が忙しいので、○○する時間がありません」
  • 「現場を優先させてください」
  • 「それは机上の空論であって、現場で試すのはリスクしかありません!」
  • 「事件は会議室で起きているんじゃない! 現場で起きているんだー!」

その言葉が本当なのか疑ってみることが大事だと考えています。

  • 現場にいながら、新しいことを考えることもできます
  • 現場にいながら、新しいことを学ぶこともできます
  • 現場にいながら、新しいやり方を試すこともできます
  • 現場にいながら、個人で新しいプロジェクトを始めることもできます

特に今のソフトウェア開発の世界では、他の業界にあるような物理的な制約はほとんどありません。「現場」という言葉で自分に制限を課しているのは、自分自身なのかもしれないと考えてはどうでしょうか。私は常に「現場」を踏み越えて考えていきたいと思っています。

(ステマ)現場から一歩前に

ここまで読んで、現場から一歩前に出ることに興味のある方にご紹介したいことがあります。毎年2月に行われる開発者の祭典「デブサミ」で、ふつうの開発者の皆さんが10分だけ発表する公募枠があります。現場に閉じこもらず、あなたのプロジェクトのことについてステージに立って話してみませんか?詳細は下記URLをご参照下さい。

次の人へ

さて、Devlove Adventnt Calender Calender 2013「現場」のバトンは続きます。次はIAアーキテクトのフジタさんになります。多分お会いしたことはないのだけれども、あなたの「現場」はどんなんですか?お話楽しみにしています。