ソフトウェア開発におけるアジャイル手法の適用が話題になっている。生産性が格段に向上した事例や、従来手法に比べて成功確率が上がったというレポートも出ている。では、あなたの(わたしの)プロジェクトにも導入すべき? その判断はちょっと待ったほうがいい。
アジャイル手法とウォーターフォール型開発の比較とバランスについて論じた書籍『アジャイルと規律』では、アジャイル手法と既存手法の比較資料について下記のように評している。
- 人は失敗より成功を報告する傾向にある。
- 先駆的プロジェクトは、新しい手法をいち早く取り入れる、かなり有能な人によって実施されている。
- 先駆的プロジェクトにはホーソン効果が働いており、注目を浴びている間は非常に素晴らしい成果を上げることができる。
- これらのプロジェクトは過去の特に効率が悪かったプロジェクトと比較されている。
ちなみにホーソン効果とは「労働者の作業能率は、客観的な職場環境よりも職場における個人の人間関係や目標意識に左右される」というものである。工場の照明を明るくすると作業効率が高くなったが、暗くしても作業効率は高まったという実験が有名だ。
新しい手法は、優秀なメンバーで慎重に進められるので、やはり生産性も成功確率も高くなる。加えて、ソフトウェア開発はほぼ全てが「人の力」と「コミュニケーション」で行われるのである。よって、
というレポートは単純に鵜呑みにしてはいけない。実際には、
という話もまじっているのかもしれない。
なお、アジャイル手法は他の手法に比べて、プロセスやツールよりも個人と相互作用を重視する。ということは、アジャイル手法を導入したプロジェクトがたとえ失敗したとしても、原因が(手法ではなく)個人と相互作用となってしまう。よって、うまくいかなかったプロジェクトも「アジャイル手法で失敗した」というよりも「メンバーが適応できなかった」と論じられてしまう可能性が高い。アジャイル手法は真正面から批判されにくい手法とも言えるのではないか。
実際に海外ではアジャイル型開発手法の導入拡大の障壁が「1.組織文化の変化能力」「2.変化への一般的な抵抗」「3.アジャイル経験者不足」であるという調査もある(VersionOne社 アジャイル開発の現状調査第3回2008より)。
【追記】
id:tmaegawaから指摘あり、VersionOne社の2011年の調査レポートが以下から参照できるとのこと。
アジャイル手法の導入拡大の障壁の順序が若干変わっていて(僅差ですが)「1.組織文化の変化能力」「2.アジャイル経験者不足」「3.変化への一般的な抵抗」となっている。